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吸い込まれた音

約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。



 深夜一時。


 私は一人暮らしの部屋で、掃除機をかけていた。


 明日は友人が遊びに来る。普段ほとんど掃除をしないので、床には髪の毛や埃が散らばっていた。


 掃除機のスイッチを入れる。


 ――ウィィィィン。


 いつもの音だ。


 床を何度か往復させていると、妙なことに気づいた。


 掃除機を止めた瞬間、部屋が静かになる。


 その静寂の中から、


 ――コツ、コツ。


 小さな音が聞こえる。


「……何?」


 壁を叩く音のようだった。


 気味が悪かったが、気にせず掃除を続けた。


 すると今度は、掃除機の音に混じって声が聞こえた。


『……そこ……』


 私は反射的にスイッチを切った。


 静寂。


 耳を澄ます。


 何も聞こえない。


「疲れてるだけか」


 そう呟いて、再び掃除機を動かした。


 すると、


『そこ……まだ……』


 今度ははっきり聞こえた。


 声は掃除機の中からだった。


 怖くなり、私はコンセントを抜いた。


 掃除機の中を確認する。


 ゴミの中に、見覚えのない小さな黒い髪の毛が大量に絡まっていた。


 そして、その奥に紙切れが一枚。


 震える手で取り出す。


 そこには、こう書かれていた。


『ここはまだ掃除しないで』


 意味が分からなかった。


 翌朝、友人が来た。


「昨日、掃除機かけた?」


「うん。なんで?」


「いや……」


 友人は部屋の隅を指差した。


「そこ、誰か立ってた跡みたいなのあるよ」


 見ると、埃の上に裸足の足跡があった。


 窓から部屋の中央へ。


 そして、掃除機の前で途切れている。


 私は昨夜のことを話した。


 友人は笑った。


「じゃあ掃除機の中に何か入ってるんじゃない?」


 そう言って、掃除機のゴミ袋を開けた。


 次の瞬間、友人の顔から笑みが消えた。


「……これ、何?」


 中には髪の毛と、無数の小さな紙切れ。


 どれも同じ言葉が書かれていた。


『まだ、ここにいる』


 その瞬間。


 掃除機が勝手に動き出した。


 コンセントは抜いたままだ。


 ――ウィィィィン。


 吸い込み口が、ゆっくりこちらを向く。


 そして、掃除機の中から声がした。


『次は、あなたの音を吸う』


 友人が叫んだ。


 私は逃げようとした。


 けれど、声が出なかった。


 隣にいる友人も同じようだった。


 部屋には掃除機の音だけが響いている。


 その日から、私たちは声を出せなくなった。


 そして今でも毎晩。


 あの掃除機だけが、私たちの部屋で何かを吸い続けている。


 ――次に吸われるのは、たぶん「声」じゃない。

読んでいただき、ありがとうございました。

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