トンネルの出口
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
そのトンネルには、出口が二つある。
当たり前の話に聞こえるが、地図には出口が一つしか載っていない。
山道の途中にある古いトンネルで、全長は約二キロ。俺は仕事帰り、カーナビに従ってそこを通っていた。
入口を抜けて三分ほど走った頃、違和感に気づいた。
対向車線に、白いワゴン車が停まっている。
ライトもつけず、ハザードも出さず、ただ中央線をまたぐようにして。
その横を通り過ぎる瞬間、運転席を見た。
誰もいない。
気味が悪かったが、そのまま走った。
ところが五分経っても、出口が見えない。
ナビを見る。
『目的地まで、あと1.8km』
「……おかしくないか?」
入口からもう三キロ以上走っている。
アクセルを緩めた。
すると、後ろからクラクションが鳴った。
ルームミラーを見る。
さっきの白いワゴン車だった。
今度は運転席に、男が座っている。
男は俺を見ていた。
そして、笑っていた。
怖くなってアクセルを踏み込む。
トンネルの壁に反響して、エンジン音が異様に大きくなる。
やがて前方に光が見えた。
出口だ。
俺は安堵して、そのまま飛び出した。
――そこは、トンネルの入口だった。
見覚えのある道路。
入口の脇には古びた看板。
『○○トンネル』
俺は混乱した。
振り返る。
今出てきたはずのトンネルが、山の中に口を開けている。
そして、その入口から白いワゴン車がゆっくり出てきた。
俺は慌てて車を発進させた。
ナビを見る。
『目的地まで、あと1.8km』
同じ表示。
嫌な予感がして、スマホを取り出した。
圏外だった。
その瞬間、着信音が鳴った。
画面には――
『自分の番号』
震える指で通話ボタンを押す。
「……もしもし?」
返事はない。
代わりに、微かなエンジン音が聞こえた。
そして、電話の向こうから俺の声がした。
『次の出口、右に曲がれ』
「……何?」
『右だ。左に行くと、また戻ってくる』
俺は前を見る。
道路の先には、トンネルが二本並んでいた。
地図には存在しない、二つ目の入口。
右のトンネルには――
白いワゴン車が停まっている。
運転席には、俺が座っていた。
そして、こちらを見て笑っていた。
電話の向こうで、俺の声がもう一度囁いた。
『早くしろ。俺が出てくる前に』
その瞬間、助手席の窓を誰かが叩いた。
コン、コン、コン。
振り向く。
誰もいない。
ただ、窓ガラスに内側から指の跡がついていた。
五本。
そして、その横に文字が浮かんだ。
――「出口は外じゃない」
俺は気づいた。
このトンネルは、車が通るためのものじゃない。
中に入った人間を、別の自分に置き換えるためのものだった。
そして今、俺の後部座席には――
いつ乗ったのか分からない、もう一人の俺が座っている。
そいつが、耳元で笑った。
「次は、俺が運転する番だよ」
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