おかわり
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
一人暮らしを始めてから、料理をするようになった。
仕事から帰るのはいつも夜の八時過ぎ。
疲れている日はコンビニ弁当で済ませるが、余裕のある日は自分で作る。
その日も、豚の生姜焼きを作った。
ご飯をよそい、味噌汁を添える。
「いただきます」
一人で呟いて、食べ始めた。
味は悪くない。
むしろ、自分で作ったにしては上出来だった。
食事を終え、皿を洗っているときだった。
ふと、鍋を見ると、生姜焼きが少し減っていた。
「……あれ?」
確か、三枚残していたはずだ。
二枚しかない。
最初は自分の記憶違いだと思った。
しかし、翌日も同じことが起きた。
その日はカレーだった。
鍋いっぱいに作ったカレーが、朝になると一人分だけ減っている。
さらに翌日は炒飯。
その翌日は煮物。
毎晩、必ず一人分だけなくなる。
気味が悪くなった俺は、スマホを三脚に固定して、台所を撮影することにした。
「これで何か分かるだろ」
その夜、いつも通り料理を作り、残った分を鍋に入れて眠った。
翌朝。
やはり一人分、減っていた。
俺は急いで動画を再生した。
深夜一時。
何も起こらない。
二時。
三時。
そして、午前四時十三分。
画面の中の台所に、異変が映った。
誰もいないはずの空間で、鍋の蓋がゆっくりと持ち上がる。
音はない。
ただ、空気だけがわずかに動いている。
そして、料理が一口分ずつ消えていく。
箸もない。
手もない。
ただ、確実に「食べられている」。
何度も。
何度も。
最後に、画面の中の皿が一瞬だけ増えた。
最初からそこにあったように、もう一つの茶碗が置かれている。
俺は息を止めた。
そんなものは用意していない。
記憶にもない。
だが映像の中では、それが当然のように存在していた。
そして、料理は二人分の速度で減っていく。
俺は動画を止めた。
その瞬間。
背後の台所から、食器が触れ合う音がした。
カチャ。
振り返る。
誰もいない。
だが、テーブルの上に茶碗が二つ並んでいた。
一つは空。
もう一つには、まだ温かいご飯がよそわれている。
「……なんだよ、これ」
震える手でスマホを確認する。
さっきの動画が、勝手に再生されていた。
画面の中では、料理がさらに減っている。
そして、皿の数が増えている。
三つ。
四つ。
五つ。
最初からそうだったかのように、食器だけが増えていく。
音はない。
声もない。
ただ、確実に「食べる数」だけが増えていく。
俺は気づいた。
これは減っているんじゃない。
最初から、増えている。
俺が作るたびに、誰かの分が増えている。
翌朝。
テーブルの上には、茶碗が三つ並んでいた。
そのうち二つは空だった。
そして鍋の中には、作った覚えのない分量の料理が残っていた。
まるで、最初から三人分作られていたかのように。
その日から、この部屋では毎晩、食器が一つずつ増えていく。
誰かが来ているわけではない。
誰かが食べているわけでもない。
ただ、「おかわり」の数だけが増えていく。
そして気づいたときには、もう一人分では足りなくなっていた。
読んでいただき、ありがとうございました。
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