13列目
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
深夜の便だった。
仕事を終えた俺は、最終便に滑り込むように搭乗した。機内は空いていて、乗客は三十人もいない。
指定された席は、13列目の窓側。
「……13か」
少し嫌な数字だと思ったが、疲れていた俺は気にせず座った。
離陸してしばらくすると、機内の照明が落とされた。
窓の外には、雲の上に浮かぶ月。
俺はスマホを眺めながら、眠気に耐えていた。
そのとき。
「トントン」
背後から、座席を叩く音がした。
振り返る。
誰もいない。
気のせいだろう。
そう思って前を向く。
「トントン」
今度は、はっきり聞こえた。
また振り返る。
やはり誰もいない。
だが、背後の14列目の座席だけが、なぜか少し倒れていた。
「……誰かいるんですか?」
小声で尋ねても返事はない。
不気味に思い、CAを呼ぼうとした。
その瞬間、機内アナウンスが流れた。
『お客様にお知らせいたします』
いつもの機械的な声だった。
『ただいま、当機は予定より三十分早く目的地へ到着いたしました』
俺は時計を見た。
まだ離陸してから一時間も経っていない。
目的地までは二時間以上かかるはずだ。
「……おかしい」
周囲を見回す。
他の乗客たちは、全員眠っている。
そのとき、隣の席に座っていたはずの女性が、突然こちらを向いた。
顔が真っ白だった。
そして、震える指で俺の座席を指差した。
「そこ……」
「え?」
「あなた……そこに座っちゃったんですか?」
「どういう意味です?」
女性は答えず、震えながら自分の座席番号を見せた。
12A。
俺は13A。
そのはずだった。
だが、俺の座席に貼られている番号を見て、息が止まった。
――14A。
「……いつの間に?」
女性が小さく呟いた。
「この便……13列目なんて、最初からありませんよ」
その瞬間。
「トントン」
背後から、また音がした。
今度はすぐ耳元だった。
振り返る。
誰もいない。
ただ、座席の背もたれに、指で書いたような文字が浮かんでいた。
『次は、あなたの番』
機内の照明が一斉に消えた。
暗闇の中、乗客たちの悲鳴が響く。
そして、機内アナウンス。
『ただいま、当機は墜落いたしました』
俺は叫んだ。
「墜落って……今、飛んでるんだろ!」
返事の代わりに、窓の外が見えた。
そこには雲も、月もなかった。
ただ真っ黒な地面が、すぐ目の前まで迫っていた。
――翌朝。
空港には、一本のニュースが流れた。
昨夜の最終便が消息を絶った。
乗客名簿には、俺の名前も載っていた。
そして不思議なことに。
その便の座席表には、最初から「13列目」など存在しなかった。
ただ一つ。
14Aの席だけが、黒く塗り潰されていた。
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