温まりました
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
ある夜、仕事帰りに立ち寄ったリサイクルショップで、健太は古い電子レンジを買った。
一人暮らしには十分な大きさで、値札には「動作確認済み・500円」とだけ書かれていた。
帰宅して温め機能を試すと、不思議なことがあった。
「ピッ」
加熱が終わるたび、液晶に残り時間ではなく数字が表示される。
「03:17」
時計が狂っているのだろうと思い、コンセントを抜いて差し直した。
次は、
「01:42」
その次は、
「00:56」
どんどん短くなっていく。
説明書もない古い機種だから気にするほどでもない、と健太は笑った。
しかし翌日、会社から帰ると部屋に違和感があった。
電子レンジの扉が少しだけ開いている。
朝は確かに閉めたはずだった。
中を覗いても何もない。
閉めようとすると、庫内の奥に小さな文字が見えた。
焦げ跡のような黒い染みが、
「あと三日」
と読めた。
目の錯覚だと思い、アルコールで拭くと文字は消えた。
その夜、冷凍パスタを温める。
終了音。
「00:31」
表示はまた減っていた。
同時に、玄関から「コン」と小さく音がした。
誰かいるのかとドアを開けても誰もいない。
翌日。
表示は「00:08」。
今度は温めが終わる瞬間、庫内のガラス皿に誰かの顔が映った。
白い女だった。
振り返っても誰もいない。
もう捨てよう。
そう思って電子レンジを持ち上げた瞬間、液晶が勝手に点灯した。
「00:01」
ブーン……
扉が閉まっているのに電子レンジが動き始める。
コンセントは抜けていた。
モーター音だけが部屋に響く。
やがて「チン」という軽い音が鳴った。
扉がゆっくり開く。
中には何も入れていない。
……はずだった。
ガラス皿の中央に、一枚の写真が置かれていた。
写っていたのは、眠っている健太。
今日着ている服のまま、自分のベッドで眠っている姿だった。
写真の右下には日時が印字されている。
「明日 午前3時17分」
心臓が嫌な音を立てた。
時計を見る。
午前2時58分。
あと十九分。
健太は家を飛び出した。
コンビニで時間を潰し、朝まで帰らなければいい。
そう思った。
だが歩き始めて数分後、ポケットのスマホが鳴る。
非通知。
恐る恐る出ると、聞こえたのは電子レンジの終了音だった。
「チン」
その直後、背後で誰かが囁く。
「温まりました。」
振り返った瞬間、世界が白く光った。
——翌朝。
健太の部屋では電子レンジだけが静かに置かれていた。
中には新しい写真が一枚。
昨夜の健太が、こちらを見て必死にガラスを叩いている。
写真の外側からではなく、
電子レンジの内側から。
数日後、その電子レンジはリサイクルショップへ運ばれた。
新しい値札には、以前と同じ文字だけが書かれている。
「動作確認済み・500円」
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