飲み残し
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
夜勤明けの帰り道だった。
疲れ切った私は、自動販売機でミネラルウォーターを買った。
キャップを開け、一口飲む。
「……まずい。」
水のはずなのに、生ぬるく、どこか鉄のような味がした。
賞味期限を見ても異常はない。
半分ほど飲んで気分が悪くなり、駅のベンチへ置いたまま帰宅した。
翌朝。
ニュースで奇妙な事件を知る。
「駅で身元不明の男性遺体発見。死因は溺死。」
遺体が見つかった場所は、昨日私がペットボトルを置いてきたベンチの近くだった。
雨も降っていない。
川も池もない。
それなのに、肺いっぱいに水が入っていたという。
気味が悪かったが、偶然だろうと思い、仕事へ向かった。
その夜。
机の上に、昨日捨てたはずのペットボトルが置かれていた。
中身は減ったまま。
私が飲んだ分だけ減っている。
「……誰のいたずら?」
キャップを開ける。
すると、中から小さな泡がぷくりと浮かんだ。
水面を覗き込んだ瞬間、心臓が止まりそうになった。
水の中に、小さな人影が立っている。
黒い服を着た男だった。
一瞬まばたきをすると、もう何も見えない。
疲れているだけだ。
そう自分に言い聞かせ、今度こそ流しへ捨てた。
翌朝。
また机の上に戻っていた。
しかも、水が少し増えている。
気のせいではない。
飲んだ量より明らかに多い。
恐ろしくなり、職場へ持っていって同僚に見せた。
「何これ?」
笑いながら同僚がキャップを開け、一口飲む。
「普通の水じゃん。」
その日の夜。
同僚は病院の休憩室で突然苦しみ始めた。
「息が……できない……!」
口から大量の水を吐き、そのまま倒れた。
検査結果は、やはり溺死。
病室にも浴室にもいなかった。
それなのに肺は水で満たされていた。
私は震えながらペットボトルを見た。
水位が、また少し上がっている。
底に何か沈んでいる。
よく見ると、人の顔だった。
同僚だ。
必死に手を振っている。
叫び声は聞こえない。
水の中だから。
私は悲鳴を上げ、ペットボトルを道路へ叩きつけた。
透明な破片が飛び散る。
水も全部こぼれた。
これで終わった。
そう思った。
しかし翌朝。
玄関の前に、新しい未開封のペットボトルが一本置かれていた。
ラベルもメーカー名もない。
白いシールだけが貼られている。
そこには黒い文字で、
「満水まで、あと七人。」
と書かれていた。
震える手で持ち上げると、中では七つの小さな人影が、こちらを見上げながら無言で口を開け閉めしていた。
そしてキャップが、誰も触れていないのに――
「カチッ」
と、ゆっくり開いた。
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