大吉の代償
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
初詣なんて毎年適当だった。
二十五歳になった今年も、友人に誘われるまま近所の古びた神社へ行き、参拝を済ませると何気なくおみくじを引いた。
──大吉。
「今年は最高の一年になります」
そんな一文に笑いながら財布へしまった。
不思議だったのは、その日からだった。
仕事で大きな契約が決まり、宝くじでは一万円が当たった。電車では座れ、落とした財布は現金までそのまま戻ってくる。
「今年、運やばくない?」
友人にも言われた。
確かにそうだった。
運が良すぎる。
けれど、幸運が訪れるたびに、小さな違和感も増えていた。
契約が決まった日、隣の部署の先輩が突然倒れた。
一万円が当たった日、近所で交通事故があった。
財布が戻った翌日、同僚の母親が亡くなったと聞いた。
偶然だと思った。
そう思おうとした。
ある夜、財布からおみくじが落ちた。
何気なく裏返すと、裏面には見覚えのない文字が浮かんでいた。
『幸は移る』
その下には、小さく墨で名前が並んでいる。
見覚えのある名前だった。
倒れた先輩。
事故で亡くなった高校生。
同僚の母親。
そして一番下には、まだ生きている友人の名前。
嫌な予感がして電話をかけた。
何度鳴らしても出ない。
翌朝、ニュースで知った。
深夜、自宅で火災。
逃げ遅れて死亡。
喉が締め付けられた。
まさか。
そんなはずはない。
神社へ駆け込むと、社務所には誰もいなかった。
境内を掃除していた老人に、おみくじを見せる。
老人は顔色を変え、小さくつぶやいた。
「まだ残っていたのか……」
「何なんですか、これ!」
「あれは、大吉じゃない。身代わりくじだ。」
「身代わり……?」
「幸運は、この世から消えない。ただ誰かから奪って移るだけだ。あのくじは、それを強引に集める。」
老人は静かに続けた。
「捨てても燃やしても戻ってくる。幸運を受けた者は、最後に必ず自分の番が来る。」
震える手で、おみくじを破いた。
紙は風に舞った。
これで終わる。
そう思った。
翌朝。
財布の中には、新品のようなおみくじが一枚。
──大吉。
裏を見る。
名前が増えていた。
最後に、自分の名前。
その文字だけは赤く滲み、ゆっくりと消えた。
その瞬間、部屋のチャイムが鳴る。
宅配便だろうと思い、玄関を開けた。
誰もいない。
足元には、白い封筒。
中には一枚のおみくじ。
そこには見覚えのない文字で、たった一言だけ書かれていた。
『次の人へ渡してください』
その夜から、この神社では「大吉を引いた人は一年以内に必ず姿を消す」という噂が広まった。
それでも毎年、不思議なことに大吉だけは一本も減らない。
誰かが、次の誰かへ渡しているからだ。
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