聖女にできること
翌日。
気がついたら朝になっていた。
夜にスマホを調べつつも冷静に考えていったところで、現実を意識したらあまり眠れなかった感じ。
聖女の力がどんなものかとふんわり考えていたけど……戦うってことだよね。
あたし喧嘩すらそんなにしたことない人生をここまで送ってきたわけで。
そりゃヒーローとかヒロインが好きでその必殺技の動きを年甲斐もなくポーズだけでも真似たことはある。
でも、それはただの真似であって本気でアクロバットに挑戦したりしたことがあるわけじゃないわけで……。
自信がなくなってきた。
自分で自分を楽観的だと思ってたはずだけど、本当にちゃんと考えないといけない事態になるとここまでネガティブというか現実を見ちゃうって初めてわかった。
でも、ここで逃げたところで夢が覚めるように元の世界に戻れるわけでもない。
自分で聞いてしまったから、その選択肢が消えるとやるしかないと追い詰められている。
テスト勉強ぐらい軽いノリでできたらよかったのに……ゲームみたいに生き返れるって保証があれば、もう少し楽しむ余裕すらでるかもしれない状況なのに。
「あたしにそんなリアリストは似合わない気がするけど……リアルにヤバい状況だしー。もうなるようになれだ!」
半ば寝不足も相まってやけくそ気味にあたしは自分の頬を叩いた。
ヒリヒリしつつ制服に着替えを済ませて、ポケットにはスマホを入れる。
そして教えてもらった騎士団の訓練所に向かった。
***
城の中を少し迷いかけながらも無事に訓練所っぽい場所にたどり着けた。
ただ、人は残念ながらいない。
まあ訓練の時間を避けて空いている時っていってたから普通なのかも知れないけど。
「聖女様。お待たせしました」
あたしが訓練所の端っこの方で立っていると、そんな声が聞こえる。
そっちを見るとエミリアがいた……けれど、普段のお姫様のイメージのあるドレスだったり落ち着いた服装とちがって、動きやすい服装をしていた。
まあ、それでもオーラはやっぱりあるけど。
それと今更だけど少し気になってきた。こういうのって後になればなるほど変えるタイミングなくなるよね。
「ねえ、エミリア。改めてあたしがこの感じであなたと話していいのかは、あえて聞かないけど。聖女様じゃなくて……せめて名前で呼んでくれたりしない?」
「へ? し、失礼でしたでしょうか」
「いや、そんなことはないんだけど。なんかむず痒いのと、聖女ってあたし1人じゃない可能性もあるんでしょ? それならそっちのほうがいいと思って」
「……なるほど。たしかに。では、改めてシロナ様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「うん。よろしく」
本当だったら様付けもどうにかなったらいいけど、聖女TPO的なものとして受け入れるしかないのかな。
まあ、いつか遠慮なく話せたらいいな。
「それで、えっと……ここで何するの?」
「シロナ様の聖女としての力の使い方を確認しておきましょう。それと、余裕があればシロナ様がこの世界の魔法などが使えるかどうかなどの確認も」
なるほど。たしかに、異世界からきたあたしがこの世界の魔法を使えるのかどうかってわからないのか。
でも、なんかいっぱい文章覚えないと発動しないとかだと魔力みたいなものがあっても使いこなせる自信ないかも。
「では、ひとまずは基礎魔法から――」
「姫様!」
あたしとエミリアがひとまず色々と試し始めようと思った時に、慌ただしく1人の兵士が駆け込んできた。
「そんなに慌てて、何があったんですか?」
「城下町の南門付近で黒の魔物が目撃されました」
「そんな。この前対応したばかりでは!?」
「いえ、この前とは別の姿だったそうです。そのため急ぎ報告を」
「わかりました。あなたはひとまず騎士団詰め所にも報告をお願いします」
「わかりました! 失礼いたします」
流石のあたしでも、何か問題が起きたことは察せられた。
それに黒の魔物って。
「シロナ様。申し訳ありません、急ぎの」
「流石のあたしでも緊急のことってことはわかるけど。黒の魔物ってもしかしてあたしが呼ばれた理由の黒の魔力に関するもの?」
「は、はい。黒の魔力の影響を受けて凶暴化した魔物や。魔力が何らかのきっかけで実体化してしまった魔物なんですが……出現する頻度がどんどん増えておりまして」
「もしかして、世界の危機が迫ってるっていうのは」
「はい。黒の魔物が発生する頻度が増えるということは、黒の魔力の影響が強くなっていることです。とはいえ、流石に前回に対応してからまだそこまで日が経っていないのに……」
もしかすると、想像以上にギリギリのタイミングなのかもしれない。
しかもエミリア達みたいに、情報をある程度持っている人達の想定より早いってまずくない?
あたしだって、こんな状況を実際に経験したことはないけど……流石に想像できる。
「黒の魔物は強いの?」
「強い……というよりも厄介なんです。通常の魔法や攻撃がかなり効果が薄くなってしまったりするんです」
「なるほど……つまり、聖女はその魔物に対して有効な何かがあるってこと?」
「そう伝わっています……シロナ様?」
「あーいや、あたしにできることがあるならやるべきなのかなと思ったんだけど……さすがに、戦い方もまともに知らないと足手まといだよね」
本当だったら訓練を経て力になれればよかったんだけど。
ただ、もしも想定より事態が早く進行してたら、訓練すらしている時間ってないよね。
あたしとしてはそもそも戦える自信すらないけど……ここに来てから何も役に立てずに過ごしてばかりだったし力にはなりたい。
うーん――使命感と恐怖のどちらもが心から湧き出てきておかしくなりそう。




