あたしの能力とスマホ
しばらくすると水晶の光がゆっくりと台座に移動するようになって消える。
台座が淡く光りだすとそこを起点にして魔法陣が光りだした。
そして紙の表に文字が現れた。
一文字また一文字とペンやインクもないのに、誰かが書いているみたいに。
少し待っていると魔法陣の光が消えていった。
「シロナさん。もう離しても大丈夫です」
「そう? でも、これでわかったの?」
「少なくともこの魔法そのものは終わりました。よほど難解な文章などになっていない限りは、シロナさんの力が読み取れるかと」
ローズさんはそういうと紙を手にとって読み始める。
横から覗き見るには移動しないとだけど……していいのかわからない。
「ふむ……これは……」
一体何が書かれているんだろう。
「ローズ。1人で悩まれても何もわからないから説明してくれないかしら?」
「あっ、申し訳有りません。シロナさんの力に関してなのですが、装いによって様々な力を得ると書かれているのですが……お心あたりはありますか?」
「装いっていうと……服とかってこと?」
正直なところでいうと全く思い当たらない。
服装だけで変わるなら制服着ている時と、ここ数日きていたこの世界の服でも何かの変化はあっていいはずだし。
「防具なども含めてですが、身だしなみに使われる表現ですね。聖女様が召喚された際に着ていた今の服装はたしかに、この世界においては珍しいですが……聖女様のそのお顔だとあまり実感はないようですね」
「うん。部屋で過ごさせてもらった時に借りてる服を着たときも特に変わったことはなかったけど」
「となると、別の何かが必要かもしれません。ローズ、他には何か書いてないの? 過去には力を使う際に必要な物が書かれていたこともあるはずよ」
「書いてはあるのですが、意味が少しわからないものでして」
意味がわからないものが書き出されることあるの?
いや、待って。
「ねえ、あたしからも質問大丈夫かな?」
「はい。気になることや心当たりがあれば」
ローズさんはそう言ってくれる。
ちょっと、気になるところではあるけど変な聞き方になっちゃうけど――他に聞き方思い浮かばないから聞いちゃおう。
「その紙に書かれた文字って、この世界の文字?」
「少なくとも私にはそう見えますが……姫様はどうでしょう?」
ローズさんはそういうとこちらまでやってきてエミリアに手に持った紙を渡す。
「私が見る限りではこの国で使われている文字ですね。ですが、それがどうかしたのですか?」
「いや、あたしもあんまり気にしてなかったけどこの世界の本とか普通に読めてたけど。あたしの読める文字だったから。もしかするとあたしの目か何かに召喚の時に言語がわかるようになってるのかなって思って。そうだったら、あたしが読んだらわかる単語になるかもとか」
「なるほど。たしかに、歴代の聖女様も性格的にコミュニケーションに難があることはあれど、言葉によって意思疎通ができないことはありませんでした。召喚魔法には言語の翻訳能力も付与されて――」
なんかローズさんのツボをついたのがすごい饒舌になっちゃった。
「おほんっ。ローズ。気になるのはわかるけれど、今は一旦落ち着いて」
「あっ、申し訳有りません」
「ですが聖女様が言うことはそのとおりです。聖女様にも直接読んでいただいてもいいでしょうか?」
そういってエミリアが紙を渡してくる。
あたしはそれを受け取って上下逆じゃないかと確認しつつ中を見てみる。
やっぱり日本語に見えるんだよね。
まあ、それは置いておいて装いなんて堅苦しい表現で書かれてたらあたしにわかるか怪しいけど――うん?
いや、ちょっと待って。なんか、さっき聞いてたのをはぜんぜん違うこと書いてある。
まあ装いかもしれないけど――あたしにわかるように翻訳されてるとしたら、翻訳機能はあたしのことをそこまで幼いと思っているの?
紙に書かれていた中から、聖女としての能力についてをあたしの中で言い換えると。
「正義のヒーローだとかヒロインだとか魔法少女だとかそういうことだよね。それで、スマホ使って身にまとう――いや、ちょっと待って」
たしかにそういう作品は今も好きだけど――魔法少女だの魔女っ子だのみたいな服を高校生になった今になって着るのは若干抵抗が……。
絶対恥ずかしくない?
いや、この世界の人はそう思わないかも知れないけどさ。
「そのスマホというのが聞き馴染みがないもので、シロナさんは知っていますか?」
あたしが口に出していたのを聞いてローズさんが聞いてきた。
スマホ――そうか。この世界にはスマホにあたる何かが存在しないから、そこだけはそのまま出力されちゃったのか。
たしかにファンタジー世界においてスマホと同じ役割のものはなさそう。通信だけならたまに魔法があるけど。
――というかスマホ!?
「そういえば全然気にしてなかったけど、スマホあったの!?」
あたしは制服の普段入れているポケットや、体中のしまえる場所を手で探ってみるがそれらしきものはない。
「えっと、聖女様。そのスマホというのは?」
「あー……手で持てるくらいの薄い板? あたしの服に入ってたり近くに落ちていたりしなかった?」
たしかこっちの世界にくる最後の直前は手に持ってたけど――いや、でもカバンはなくなってた。
それなのにスマホと明確に書かれているから、どこかにあるはず。
なかったらどんな意地悪なの。
「……あっ、それってこれでしょうか?」
エミリアはそう言うと部屋の隅に置いてあった木箱を開いて中から物を取り出した。
それはまごうことなきあたしのスマホだ。
「そうこれ! って、その箱なに?」
「召喚に使用した場所を片付けていた際に持ち主や用意した経緯が不明だったものがいくつかみつかりまして」
「ちょ、ちょっと念の為に他のものも見せてもらっていい?」
「どうぞ。この箱にあるものぐらいですが」
あたしは木箱の中を覗いてみる。
「あ、これあたしの手帳だ。それに筆箱……他はあたしのじゃないかな」
でもカバンの中にあったはずの手帳と筆箱だけなんで一緒に召喚されたんだろう。
「聖女様のものであれば持っていっていただいて問題ありませんよ」
「じゃあ遠慮なく……」
まあメモとか今後必要になる時あるかもだし助かるからよかった。
筆箱と手帳は一旦ポケット――に入れるには微妙な大きさだから机の上に置かせてもらって。
スマホの電源を入れてみる。
――起動できた。
「聖女様。そのスマホというのは一体どのような」
「うーん……いろんな事があたしの世界であればできたんだけど、ここだとどうかな」
電波とか絶対ないよね。
そして起動画面が切り替わりロック画面に変わった。
でも、スマホを使って服が変わるってどうやるんだろ。
あたしは恐る恐る画面をタッチしてロックを外した。




