自分の立場
城下町での相談をした数日後のこと。
ローズさんと話せるタイミングに報告をしにきていた。
エミリアに改めて聖女のことをどこまで周りに話しても大丈夫かは聞きたかったけれどここ数日は忙しそうで話せるタイミングが作れていない。
ただ、珍しく地下のローズさんの研究室ではなく中庭で話をしていた。
中庭は魔物の襲撃の痕跡がまだ残っていた。
地面はすでにならして、改めて花壇などが作られていたけれど壁や扉の修繕には手が回っていない。
そんな中庭の端の方に置かれている二人掛けのベンチで話をしている。
「やはりエイルでも知らなかったですか」
「はい。とはいえ、かなり色々なことを教えてもらえました。行ってよかったです」
「お力になれたならよかったです……まあ、私の力ではありませんが」
「ただ……ちょっと気になってることがあるんですが」
「なんでしょう?」
「お二人ってどういう関係で?」
お互いに呼び捨ての関係だ。
そのうえで2人ともあたしから見た限りでは、誰に対してもそういう接し方をするタイプじゃない。
特にローズさんはあたしの場合は聖女という立場とエミリアという間に挟まる人がいなければここまで話す仲になることはなかったと思うし。
そう考えると、店主と客というだけの関係ではない気がする。
まあでも流れで聞いちゃったけど、少し踏み込みすぎたかもしれない。
「言いにくかったら大丈夫ですよ」
「あ、いえ、そういうわけでもないんですが……。どういう関係なんでしょう?」
「聞かれましても」
「長い付き合いなのはそうなんですけど、客と店主というには仲がいいとは思うんです」
「そんな雰囲気は感じましたね」
「ただ、お互いの家に遊びに行くとかプライベートで出かけるとかは一度もしたことはなく。店や仕事で一緒になった時は話が弾むし、困った時は頼るんですけど……」
たしかに聞いている限り仲は良いかもしれないけれど、親友というにはプライベートの付き合いがなくて胸を張っては言いにくいかもしれない。
文字通り複雑な関係みたいだ。
「なんとなくわかりました」
「はっきりせず申し訳ない。ですがそうなると……宝石などを扱う店ぐらいしか思いつきませんね。ですが、そちらは私は特に知り合いはいないんですよね」
「自分でもできることはしてみますよ。エイルさんとの間を持ってくれただけでもありがたいです。あ、それでなんですけど」
「はい」
「エミリアと話ができていなくてローズさんに聞くのも変かもしれないですけど、聖女のことって誰が知っていますか?」
「誰がといいますと?」
「どの範囲のひとに召喚したことやあたしがこうして城にいることを知っているのかということです。エイルさんにはその……話が話しなので少し話してしまったんですが」
「あー……私も姫様に口止めなどはされてないから把握はしてませんね。まあエイルは口が硬いですしおいそれと広げはしないと思いますが」
「そうですか……」
「少なくとも城内に常駐して働いたり過ごしている人には周知されていると思いますよ」
まあ少なくともメイドさんや執事さんは把握している。
「あ、ですがそうですね。私の考えではありますが、聖女であることは隠さなくてもいいと思いますが、シロナさんの場合は聖女としての能力については隠したほうがいいかも知れません」
「なるほど? 一応、どうしてか聞いてもいいですか?」
「今まで前例がない能力ですので……エイルには念の為に今度会う機会があれば私からも伝えておきますので」
「よろしくおねがいします」
そうして話をしている時だった。
中庭から見える通路が少し騒がしくなっていることに気がつく。
「何かあったんですかね?」
「先日の中庭に魔物が入った一件から少し落ちついてきたとは思ったんですが……ちょっと聞いてきます」
ローズさんはそういうと通路にいるメイドの1人の元へと歩いていった。
というか、他にも聞けそうな人はいるけど迷わずいったからローズさんが話せる人ってことなのかな。
そしてメイドさんの話を聞き終わったのか小走りでこちらまで戻ってきた。
「ちょっと、しばらく騒がしいかもしれません」
「何があったんですか?」
「黒の魔物が見つかったようです。国の南側で」
「それって、なんかこの前目撃されたとかいう?」
「はい。ただ、どうやら一度見失って再び見つけた際に黒の魔力の気配といいますか。様子が変わっていたようで、警戒しなければならなくなって騒がしいみたいです」
「なるほど……ちなみに聖女召喚を行うまえの段階だと黒の魔物の扱いは」
「意図的に国が狙われるような個体でなければ様子見して、離れていってくれるならこちらからも刺激を与えないようにしていましたね。ですが、黒の魔力の影響が強くなるにつれて攻撃性を持つ個体が増え始めてはいるので、最近は見つかるとかなり空気が緊張状態になります」
まあ、倒すのですらかなりの被害が出る魔物で対処法がないんじゃ緊張状態にもなるよね。
「あたしが戦えるようになったからにはでたほうがいいのかな?」
「まだ戦い方や力が安定していない間はと……言いたいところですが、そうしていただけたら助かるとは思います。ただ……」
「ただ?」
「聖女をどのような場面で力を借りるか……といいますか。口出ししてくる貴族の方々などもいるもので。」
「あー……」
やっぱりそういう人がいるんだ。
いや、でも聖女の召喚とかをエミリアが主体でやっているなら姫に対して意見を言う人ってなるとかなり面倒くさそう。
「あれ? でも貴族の人ってあたしを召喚したこと知ってるの?」
「召喚を行うこと自体は知っている人も多いです。ただそれがいつかまでは周知していないのでシロナさんのことは知らないかと。ただ、召喚後を見越して口を出せる立場に入ろうと考えているのでしょう」
うん。絶対にめんどくさい上にプライドが高そうだ。
「姫様もまだ国の上にたってからは日が浅いせいで、今後のことを考えると強権を振りかざして意見を拒否するのも印象が良くないと考えて。結果的にがんじがらめに」
「エミリアが最近忙しそうなのはそういうのもあったんだ」
あたしの存在って聖女で救世主みたいなもののはずなのに、それで胃を痛めてるってことか。
なんか蚊帳の外にされているのに、あたしが理由に使われているみたいで嫌だな。
「……ローズさん。ちょっと、頼み事してもいい?」
「私にできることでしたら……って、シロナさん何を考えているので?」
「いや、悪いことじゃないから安心して。ただ、単純に南の黒の魔物についてのわかっている詳細を集めてきてほしいの。特に発見場所」
「ま、まあそれくらいであれば可能ですが……」
「よーし、あたしは心の準備を始めようかな」
あたしはそう言って自室へと向かって歩き始めた。
その魔物を倒して全てが解決しなくても、そんなピリピリしつづけるのだって良いことはない。
それなら倒して余裕を持って、問題解决のために全員で動ける方がいいはず。
それからあたしという聖女が存在して異世界の常識における権力に屈して好き放題使われる人間ではないと言いたい。
さらに運が良ければ、それでエミリアに対しての圧が少しでも減れば100点満点だ。
あたしに対して直接接触しようとする人がでてくるかもだけど――それは一旦後回し。
とにかくやれることをやってみよう。




