第6話:襲来する吸血鬼!『聖なる紫光の結界(※電撃殺虫器)』と禁忌の魔薬(※ガーリックポテチ)
プレハブ小屋の導入により、俺の『異世界コンビニ・アルト屋』は劇的な進化を遂げた。
エアコン完備、冷蔵庫には冷えたコーラ。迷宮第十層という地獄の環境において、ここはまさに天国だった。
「ふはぁぁ……! 労働の後の『黒き神の血』は最高だな……!」
ソファ(※3,000ptで購入)に寝転がり、テレビを見るような体勢でコーラをあおっているのは、元・魔王軍最強の幹部、エレノアだ。
完全にニートと化しているが、プレハブの周囲に湧く魔物を一瞬で消し炭にしてくれるので、優秀な警備員であることは間違いない。
だが、そんな平和な時間は、突如として破られた。
——ズドォォォォンッ!!!
プレハブ小屋の分厚い鉄のドアが、外からの強烈な蹴りでひしゃげた。
「……堕ちたな、エレノア」
砂埃の中から現れたのは、漆黒のマントを羽織り、血のように赤い瞳を持った青白き美青年だった。
その背中にはコウモリのような巨大な翼が生えており、圧倒的な魔力が周囲の空気を凍てつかせていた。
「魔王軍第六軍団長、吸血鬼のロード・ヴィンセント……!」
エレノアがコーラを置き、少しだけ真面目な顔になった。「なぜここへ?」
「決まっている。勇者討伐に向かったはずのお前が、こんな迷宮の底で人間と同棲していると聞いてな。裏切り者は、この私が直々に……ん?」
ヴィンセントの言葉が止まった。
彼はプレハブ小屋のエアコンの涼しい風を浴び、冷蔵庫のモーター音を聞き、完全にフリーズしていた。
「な、なんだこの異常な空間は……!? 一切の魔力を感じないのに、なぜこれほどまでに冷気が保たれている!? そして、この白亜の城……ただの人間が創り出せるものではない!」
彼の鋭い視線が、店主である俺に向けられた。
「貴様……ただの人間ではないな? エレノアを洗脳した忌まわしき術師め、死ねぇぇっ!」
ヴィンセントが鋭い爪を振り上げ、俺に飛びかかってこようとした、その瞬間。
俺は、さっきからプレハブの中に一匹だけ入り込んで飛んでいた『羽虫』が気になって、新しく買ったアイテムのスイッチを入れた。
【電撃殺虫器(ブルーライト誘引式) 特価:2,500pt】
——バチィィィィンッ!!!!
青紫色の光を放つそのランタンのような機械に羽虫が触れた瞬間、雷鳴のような音と共に、虫は一瞬で消し炭となった。
「ヒィィィィッ!!?」
俺に飛びかかろうとしていたヴィンセントが、空中で不自然に軌道を変え、床に無様に転がった。彼はガタガタと震えながら、電撃殺虫器の青い光を指差した。
「せ、聖なる紫の光……!? しかも、私の眷属と同じ飛行生物を一撃で灰にする、極大の『雷属性結界』だとぉぉっ!?」
(いや、ただの虫除けランプなんだけど……)
吸血鬼にとって、虫を焼くための青白い光とバチバチ鳴る電撃は、最上位の聖属性魔法に見えたらしい。
「ヴィンセントよ、無駄だ。この主には逆らわない方がいい」
エレノアが呆れたように言いながら、俺がさっき開けたお菓子の袋をヴィンセントに投げ渡した。
「まあ、座れ。これを食ってみろ」
ヴィンセントは震える手で、その袋を受け取った。
【濃厚ガーリック・ポテトチップス 特価:120pt】
「こ、これは……!? ぐぁぁぁっ! 強烈なニンニクの匂い! 我ら吸血鬼にとって猛毒たる聖なる植物の匂いがするぞ! エレノア、私を暗殺する気か!」
「いいから一枚食ってみろ。飛ぶぞ」
ヴィンセントは決死の覚悟で、薄い芋の板を口に運んだ。
パリッ。
「…………ッッ!?」
ヴィンセントの体が、雷に打たれたように硬直した。
「に、ニンニクの猛毒で浄化される……体が焼けるように熱い……! だが……なんだこの後から来る暴力的な旨味と塩気は!? 痛いのに……浄化されているのに……手が、手が止まらんっ!!」
パリパリパリパリパリパリッ!!
誇り高き吸血鬼のロードは、涙目になりながら、自らにとって猛毒であるはずのポテチを、狂ったように貪り食い始めた。
「ハァ……ハァ……! アルトとやら! この『苦痛と快楽を同時に与える禁忌の魔薬』、もう一袋ないか!? 私の全財産と引き換えにしてもいい!!」
こうして、俺の異世界コンビニの常連客(兼・用心棒)に、なぜかニンニク味のジャンクフードに依存してしまった吸血鬼の軍団長が追加されたのだった。
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