38話 雛? あれで?
「おかえりなさいませ。太陽様」
「おう。帰ったぞ。茜」
太陽が茜の言葉に返事をしながらタマ達の元へ寄って来る。2人はまるで恋人のように体が触れ合うくらいの距離まで近づくと雰囲気だけで2人だけの空間を作り出した。
タマは太陽と茜を見ながら洋子にたずねた。
「なぁ。洋子」
「どうしたの?」
「茜さんって……」
「ん。茜さんはおじさまの戦いのパートナーであり、実はお妾さんでもある」
「えっと……お妾さん?」
タマは頭を傾げる。疑問に思っているタマに対して洋子は補足する様に言った。
「分かり辛かった? 側室。もしくは愛人、ハーレムともいう」
「愛人……って!? えぇっ!?」
タマは小さな声で驚く。それに洋子が頭を傾げて答えた。
「一族の血を絶やさないようにするために必要があるから有力な家は複数の異性を囲う事なんてよくある事。私も次期当主だからいずれは何人か囲う事になるから普通の事」
「そっそうなのか?」
洋子が自身を例えにタマは戸惑いながらも返事をする。
「それに申請をしてからそれが通れば一般の人でも可能。相手の人生にも関わる事だから普通に厳しいけどね」
「そうなのか。初めて知った」
「ん。そこら辺は九十九士関連の法律にある。一般の法律とは少し異なる箇所があるから勉強しておくといいよ。後で習うとしても覚えておいて損はない」
「分かった。後で調べてみる。それにしても洋子は予め知ってたから分かるとしてパンドラは驚かないんだな」
洋子の言葉で太陽と茜の関係を知ったタマは納得すると同時に一緒に話を聞いていたパンドラが驚いていない事を口にする。
それにパンドラは答えた。
「もちろんですよ。複数の愛する人がいるのはよくある事なのです。父様とか無茶苦茶多いのですよ。英雄色を好むと言いますが、気に入った相手なら男女見境なしなのです。なので、家族は多いですし、それで父様は母様によく折檻されてるのです」
「……そういえば似たような事言ってたな。いや、それはそれで不安になるな。男女関係ないのかよ。どうなってるんだよ。パンドラの家族は」
「それ以外は基本的に仲のいい家族なのですよ? 本当にヤバいなと思った喧嘩は私が娘として迎え入れられてからも2~3回くらいしかないので」
タマが不安そうにするとそれを払しょくするためにパンドラが補足する。
「まぁ、パンドラの家族の事は後でいいや。どうせ。会う事ないだろうし」
「ははん。なるほど。知ってますよ。これがお約束という奴なのですね。近いうちに父様か母様が来るのですね 」
「止めてくれよ。急に怖くなったんだけど」
パンドラの言葉にタマの表情がひきつる。
「別にとって食ったりとかはしないので怖がらなくても大丈夫なのですよ。むしろ私の大切なダンボールの戦士なのですから紹介したいのですよ」
「お、おう。もし来るときは先に教えてくれよな。心の準備はしときたいから」
「承知したのですよ」
タマの言葉にパンドラがうなずくと改めてエピメテウスを押しつぶした鳥の足を見上げた。
「それにしてもでっかい足だよな。これってなんていう名前の鳥だんだろ?」
ただの足だけで周囲の木々や潰されたエピメテウスと比べても圧倒的差という言葉しか出ないその大きさを見て全体の大きさがどれだけなのか想像しながらつぶやく。
「……そうですね。禁忌の箱から呼び出したモノの情報にはジズの雛と出てるのです」
「えっと? 雛? あれで?」
タマは思わず目の前にあるジズの足を指す。それにパンドラはゆっくりとうなずいた。
「なのです。こことは別の神話の世界にも何度か行った事はありますが、その時にジズの成鳥も見た事があります。ですが、ここまで大きくはなかったのです。せいぜいこの世界の一番大きな山脈とか同程度なのです」
「パンドラの知ってるのでも山脈と同じ位とかデカすぎんだろ。…………待って。パンドラの言ってた奴よりも大きいのに雛って事はこいつまだ大きくなるのか?」
「成長したらそうでしょうね。恐らくは突然変異かなにかが理由で生まれた時から規格外に大きすぎたのが理由で元のいた世界から放逐されたのでしょうね」
「……正直無責任なことを言うかもしれないけど、なんだか少しかわいそうに思えてくるな」
タマは見上げながら思った事を口にする。それにパンドラは同意した。
「そうですね。ですが、食料の問題とかもあるのです。この大きさだと下手な世界じゃこの1体が全て食い尽くして世界が終わるのです」
「そうだよなぁ。あれ? ならこいつは普段どこにいるんだ?」
「それは……放逐された世界の中のどこかなのです。私にもわからないのです。ただ、呼び出せたという事はあの巨体が生きていける世界に行き着いたからだと思うのです」
「なるほど? 一応は問題なく過ごせる場所にいるんだな」
「ジズは雛とはいえ、ツクモ神ではありますが、生物なのです。今も活動してるという事はそういう事なのですよ」
「そっか。あ」
そうやって会話をしていると鳥の足がゆっくりと透明になって消え始める。同時にタマは自身の中から力が抜ける感覚に襲われる。倒れそうになると洋子がタマを抱えた。
「大丈夫?」
「おう。助かった。ありがとう。思ったよりも虚脱感がすごくてふらついた」
「立てる?」
「ああ。何とか」
ジズの足が完全に消えてタマは返事をすると自身の力で立ち上がる。太陽と茜もジズが消えるのを見て潰されたエピメテウスの方を見る。足跡とは別に出来た大きな穴を見ているとエピメテウスが穴から這い上がって来た。
「……う゛ぉぉぉぉぉぉっ!」
「うおっ。上がって来た」
「ん。でも、効いてるみたい」
這い上がって来たエピメテウスにタマと洋子は見た様子を口にする。
「効いてるみたいだが、あの巨体が降ってきても耐えきるとはな」
「太陽様」
茜は太陽に向かって声を掛ける。太陽も分かっているのか同じように答えた。
「おう。環さん達のおかげで休ませてもらったからいつでも行けるぞ」
「ご武運を」
そう言うと太陽は刀を構える。同時にエピメテウスは穴から登り切ってから立ち上がる。その表情は怒りを押し殺した様な表情であった。
「……よくもやってくれたな」
「悪いな。これは戦いなんでな。使えるモノは何でも使う主義なんだ」
太陽は淡々とした様子で言葉を返す。それにエピメテウスは地面に置いた槍を再び構えながら何かを抑えるように答えた。
「……そうだな。お前達は悪くない。してやられた自身の不甲斐なさにはらわたが煮えくり返りそうなだけだ」
「続きか?」
「そうだ。一瞬とはいえ意識が飛んだが、続——なんだっ!?」
「こんのバカたれがぁぁぁぁぁぁっ!?」
「その声っ!? あに―っ!? ごっはぁぁぁっ!?」
エピメテウスがいざ飛び出そうとした瞬間。頭に何かが直撃する。それに気がそれると同時にエピメテウスの頭上から怒号と共に巨大な何かが降って来る。
降ってきたそれは着地することなくエピメテウスを両足で蹴り飛ばした。
戦い以外にもある太陽と茜の関係と呼び出した存在ジズについてとエピメテウスが蹴っ飛ばされるお話。つまりドロップキック。




