36話 『おいでませ』
太陽とエピメテウスの戦いは苛烈を極めていた。
エピメテウスが突きを放つとその余波だけで周辺の木々や大地が吹き飛ぶ。太陽はまるで空中に浮かぶ紙のようにひらりとエピメテウスの突きを躱すと懐へと入り込む。間合いよりも内側に入られるのを嫌ってエピメテウスは大きく飛び退くが、それを読んでいるかのように距離をそのままに太陽は跳ねた。
エピメテウスは太陽を槍で薙ぎ払おうとするが、太陽は唐突に空中で直角に軌道を変えてさらに内側へと移動する。
「っ!?」
足場のないはずの空中で急な方向転換をする太陽にエピメテウスは驚きの表情を見せる。太陽はエピメテウスの頭に飛び乗るとすぐに頭上へと飛び出した。
太陽は刀を頭の上に持ち上げて落下の勢いを加えて振り下ろす。エピメテウスは槍を強引に体に引き寄せると太陽の一撃を受け止めた。
それを遠くから見ていたタマは口を開いた。
「おぉ。太陽さんが押してる」
「タマ。タイヨウが引きつけてくれている間に私達も準備なのですよ」
「おっと。そうだった。でも、俺達が準備しなくても勝てそうじゃない?」
タマは思った事を口にする。それにパンドラが頭を左右に振った。
「確かにエピメテウス相手に押し勝っている光景に驚愕しますが、それは現実的ではないのです。今は大丈夫ですが、どこかでタイヨウの方の体力が切れるのです。そこを叩かれたら不味いのです」
「そういえばそんな事言ってたな」
「ついさっき言ったのですよ。ほとんど聞いてなかったでしょ?」
タマの反応にパンドラは呆れた表情を見せる。それにタマは頭を下げた。
「ごめん。少し聞き流してた」
「気を付けてくださいなのですよ。大切な話を聞き逃して大変な目にあうのはタマだけじゃなくて身の回りの仲間や親御さんにもいくかもしれないんですから」
「……うん。気を付ける」
パンドラの言葉をタマは素直に聞き入れる。真面目に返事をするタマにパンドラはうなずいた。
「分かってくれたのならいいのです。アカネ。タイヨウにはいつでも連絡は入れられるのですか?」
「それについてはいつでも可能です。太陽様からの指示や私達から見た情報の提供などは私の仕事ですから」
パンドラの問いに茜は力強く答える。それを聞いたパンドラは答えた。
「それでしたら私の合図と共にその場から離脱するように伝えてください。呼び出すタイミングでおおよそ何が出てくるかは理解できるようになってるのです」
「承知しました」
アカネの返答を聞いた後パンドラは洋子の方を向いた。
「ヨウコ」
「ん。何?」
パンドラが洋子を呼ぶ。洋子は返事をするとパンドラは口を開いた。
「禁忌の箱を使った後のタマを運ぶのをお願いするのです」
「ん。それくらいなら余裕。タマ軽いし」
「頼りになるのです」
「待って。そんなに負担が大きいの?」
パンドラと洋子の会話にタマは割り込む。その反応にパンドラが頭を傾げた。
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「言ってない。言ってない」
タマは頭と手を左右に振って否定する。パンドラは説明追加した。
「それはごめんなさいなのですよ。呼び出してから戻した直後に一気に疲労感が来るのです。気を抜くと一気に意識を失うレベルなので使った後は覚悟してください」
「分かった。それはそうとこういう事は忘れないように頼むな」
「意外と嫌がらないのですね?」
タマの反応にパンドラは意外と言った顔する。それにタマは答えた。
「気絶するのはあまり良くないけどさ。それよりも何もできない方が悔しいしな。だったら全力を尽くす方がいいじゃん」
「ふふっ。それもそうですね。私も頑張るのですよ」
タマの言葉にパンドラはやる気を見せる。それを見たタマはパンドラにたずねた。
「それでだ。パンドラ。俺は何をすればいいんだ?」
「準備は良さそうですね。まずは私と手を合わせてください」
「こうか?」
パンドラが手を出すとその手に合わせてタマは指先を合わせる。
「オッケーなのです。そのままこの状態を維持してください」
「分かった」
「では行くのです。———」
パンドラがそう言うとタマは指先を動かさないように止まる。それに合わせてパンドラが小さい声で何かをつぶやくとタマの手の甲が光った。
「うおっ。光った」
「私の力を使う許可証みたいなものです。今のタマだとまだ自由に使うにはレベルが足りないのです」
タマの驚きの声にパンドラは落ち着いた声で返すとタマはまじまじと手の甲の光を見る。青白い光が作り出したのはミカンが描かれたダンボール箱であった。
「うーん? なんかダサいな」
「何ぉうっ!? ダンボール箱のツクモ神でもある私がタマの眠った後に毎日2時間使って1週間かけて作った傑作なのですよっ!?」
タマの反応にパンドラがキレる。それにタマは素直に答えた。
「いや。その頑張りは素直に凄いと思うけど、ダンボール箱とそのイラストの紋様は流石に……」
「ふんっ。この素晴らしいデザインの良さが理解できないとはタマもまだまだお子様ですねっ! 個のデフォルメされたミカンのイラストよって用途と落ち着いた見た目がいいのですよ」
タマの反応にパンドラは露骨に不機嫌に変わる。タマはそれをスルーしてから言った。
「はいはい。そう言われてもダンボール箱のデザインとかについて入れても俺にはさっぱりだからな。ただ、この箱はパンドラと初めて会った時ので良いんだよな?」
タマが見覚えのあるダンボール箱の絵柄について答えるとパンドラは嬉しそうにうなずいた。
「そうなのです。私達の出会いのダンボール箱なのですよ。なので、もっとこのデザインを好きになってくださいなのですよ」
「わかった。わかった。頑張ってはみるよ。パンドラ。どうすればいい?」
パンドラの嬉しそうな反応を壊したくはないタマはとりあえず頑張って見るとだけ答えてから次にする事をたずねる。
「それじゃあ早速召喚するのです。まずは紋様のダンボール箱の形をイメージしてください」
「分かった」
パンドラの言葉を聞いたタマは手の甲に浮かんだダンボール箱をの形をイメージする。すると手の方に何らかの力吸い取られるような感触がした。
「うぉっ。 吸われてる?」
「大丈夫そうなのです。それでは呼び出すための箱を出してみてください」
「こうか? 禁忌の箱セット」
そう言ってタマは手を足元へとかざす。すると手の甲の光がダンボール箱の形を取って現れた。
「もう目を開けてもいいのですよ」
「そうか? おおっ。出てるって感じはしたけど、本当に光ってるダンボール箱が出てる」
タマが眼を開けると目の前にはイメージした形そのままの光るダンボール箱があった。パンドラは言葉を続けた。
「これが禁忌の箱なのです。召喚の方法は多分わかると思うのです」
「少し待ってくれよ。…………。よしっ。分かった」
「後は呼び出すだけです。私は茜に合図を出すのです。それに合わせてタマは呼び出してください」
「分かった」
タマが返事をするとパンドラは茜に向かって言った。
「アカネ。退避するように言ってくださいなのです」
そう言うと茜は太陽に退避するように指示を出す。同時にタマは封じられた怪物を呼び出すための単語を口にした。
「禁忌の箱の中のモノよ。『おいでませ』」
そう言うとタマの目の前の箱が強い光を放った。
タマの居る離れた場所から見える太陽とエピメテウスの戦いと禁忌の箱を使うお話。




