25話 一刀両断だ
背後から光が通り抜けた直後。
タマの背後から樹童子が居た場所から走るのとは異なる地響きで揺れる。同時に何かが飛ぶような音と金属が何かに弾くような音が聞こえる中でタマはまっすぐ走っていた。
「ひぇっ!?」
走っているとタマの大きな木片が突き刺さる。それでも洋子の言った事を信じてタマは真っすぐ走る。しばらくすると背後から声が聞こえた。
「ん。もう大丈夫」
タマは止まって振り返る。タマの背後では樹童子が口から赤い煙を出しながらのたうち回っており、刀を鞘に納めた洋子がタマのすぐ近くにいた。
「めっちゃのたうち回ってるな」
「ん。目の前で閃光ぶちかました」
「操られてるだけなのに閃光って効くのか?」
「ん。意識はあるって言っていたからある程度は効くと思ってた。その後に赤玉を投げたから悶えてる。後は手当たり次第の攻撃に対してタマに当たりそうなのだけ迎撃してた」
「なるほど。それで真っすぐ逃げろって言ったのか」
「ん。そう」
タマの言葉に洋子は肯定する。タマはたずねた。
「ちなみに赤玉って何なんだ?」
「ん。カプサイシンたっぷりの煙玉」
「煙玉って忍者とかが使う奴?」
タマが期待した様子でたずねると洋子はうなずいた。
「そう。玉藻が昔の人の技術に詳しいから作り方は教えてもらった。大きな獣に使ったことあるけど、その時は白目をむいて痙攣してた」
「そんなのを頬り込んだのか……。今はのたうち回ってるから時間を稼げるけど、すぐに起き上がるだろ。あれ」
そう言うとタマはご愁傷様と言わんばかりに両手を合わせる。洋子は腰にある小さな鞄から赤い玉を取り出してタマに渡した。
「ん。タマにも渡しておく」
「これは?」
タマは渡されたタマをつまんで確かめる。それはもちもちとした触感の赤い玉であった。
「これが赤玉。潰して出て来た煙が目に入ったらあの樹童子みたいになるから潰しきらないでね」
「こわ。わわっ」
伝えられた内容にタマが赤玉を落とす。タマは慌てた様子で何とか落とさずに手のひらに乗せると見ていたタマは安堵した。
「セ、セーフ。危なかった」
「思い切り叩きつけないと発動しないから少しくらい落しても大丈夫だよ?」
「……それは早く言ってくれよ」
「ん。慌てるタマは可愛かった」
「もう。そういうのはこういう状況じゃない時にしてくれ……」
「ん。善処する」
「うわっ。全然反省してなさそう」
洋子がイタズラっぽく笑うとタマはジト目で見る。それを洋子の中にいる玉藻が窘めた。
『ほれ。2人共。そろそろ起き上がって来るからじゃれ合ってる場合ではないぞ?』
「っと。そうだった。タマ。見てる?」
「おう。見てる。今にも立ち上がりそうだな」
玉藻の言葉に洋子とタマは樹童子を見る。先程まで悶えていた樹童子は生まれた小鹿のように足を震わせながらも立ち上がっていた。
その表情は怒りで顔を真っ赤にさせていた。
「タマ。何かいい手段ある? 特に倒す手段。なければ時間稼ぎ」
「あるぞ」
タマがあっさりと答えると洋子はたずねた。
「え? あるの?」
「ああ。グレンジャーで似たようなシーンがあってそれを再現すれば多分一刀両断できる」
「テレビの番組はフィクション。現実じゃないよ?」
タマの言い分に呆れた様子で洋子は思った事を口にする。言われることは分かっていたのかタマは言い返した。
「分かってるよっ! でも、剣は物語の物を再現してる訳だから似たような事はできる……はずだ」
「ん。分かった。どうするの?」
「上空の高い所から勢いをつけて剣を振り下ろす」
「なるほど。問題は?」
シンプルな内容に洋子は問題点を聞き出す。タマは答えた。
「当てるのが難しい。多少だったら修正できるけど一直線の攻撃だから外すと大きな隙になるし、避けられやすい」
「ん。なるほど。動きを止めれば何とかなると。分かった。それならその赤玉を樹童子の口の中に投げて。そこから追撃すれば動きを止められるはず」
「同じのは効きが悪くならないか?」
「大丈夫。配合してる辛みの成分は玉毎に変えてるから威力は変わらない」
「おっけー。それなら大丈夫そうだな」
洋子の説明にタマは納得する。洋子はパンドラの方を見てから言った。
「パンドラもタマをよろしく。私は遊撃で時間を稼ぎながら隙を探す」
「タイミングは任せるのです」
「おう。パンドラ。任せるぞ」
「当然なのです。相棒なので」
洋子の言葉の後に元気よくやり取りをするタマとパンドラ。それを聞いた洋子は優しく微笑むと洋子は刀を構えた。
「ん。2人共任せた。葛葉洋子。参る」
洋子はそう言うと同時に軽やかに樹童子に向かって飛び出す。
「おおっ! かっこいい!」
「タマッ! こっちも行くのですよっ!」
「おっおう。そうだな。力を貸してくれフェニク・ブレード! ダンボール・リクリエイト」
タマは剣を構える。剣はタマの言葉に呼応するように炎が漂うと戦うための力が湧いてくる。タマは肩にいるパンドラに言った。
「しっかり捕まってろよ」
「もちろんなのですよ」
パンドラがしっかりと捕まっているのを確認するとタマは小さな炎の玉を足元に作り出すとそれにタマは飛び乗った。炎の玉に飛び乗ると足元で炎が小さく爆発する。爆発したエネルギーはそのまま推力に変わると樹童子に向かって一直線に飛び出した。
「おぉっ! 早いのですっ! 賢いのですっ! 炎を移動の力にしてるのですかっ!」
「ああっ。これはグレンジャーのレッドが使ってた高速移動用の技なんだよ。こうやって——」
あっと今に樹童子の懐へと入り込む。ぶつかる直前に進む先に同じような炎の足場を作り出すと同じように足を乗せる。今度は頭上に向かって直角に上へと飛び上がった。
ピンボールみたいに高速で移動するタマに手を止めている樹童子の顔へと近づくとパンドラは言った。
「タマッ! ここですっ!」
「おうっ! くらえっ!」
パンドラの合図に合わせてタマは赤玉を樹童子へ投げ込む。口の中へと入り込むとそのままタマははるか上空へと飛んで行った。
「ナイスシュート。タマ」
その隙を突いて洋子が死角から樹童子の顎を刀でカチ上げる。その衝撃でタマが口の中に入れた赤玉が赤い煙を出し始めた。
「————―——――ッ!?」
「ん。良い効き」
洋子がそう言うと樹童子は痙攣し始める。まるで土を口に入れた方がマシと言わんばかりに口を地面へと突っ込み始めた。
一方で上空へと上がりながら肩に居るパンドラはタマにたずねた。
「タマ。結構離れたのです。本当に大丈夫なのですか?」
「ああ。テレビで見た時もそれくらいの上空から下へ向かって飛び込むからな。今回は最大威力の【フェニク・スラッシュ】だ」
「最大威力なのですか?」
タマの言葉に興味深そうにパンドラがたずねる。それにタマはうなずいた。
「ああ。レッドがこうやって加速してから硬い相手を切り裂いてたからな」
「なるほどなのです。そろそろ止まりますよ」
「おう。そろそろか」
タマは上空へ向かって減速していく中で移動用の火の玉を作り出す。そこに足を乗せて動きを止めると落下する直前まで樹童子に向かう位置を調整する。
「行くぞ。目指せ。一刀両断だ」
「ゴーなのです」
パンドラの言葉と共に今度は下に向かってタマ達は飛び出す。爆発的な加速と共に炎を纏った剣が多き刃を伸ばしながら振りあげる。
「うっぐぉぉぉっ! これが……最大……威力の【フェニク・スラッシュ】だぁぁぁぁぁぁっ!」
ダイレクトに来る風の抵抗を受けながら真っすぐに飛び込んだタマは回転して樹童子の樹の鎧ごと一刀両断した。
樹童子を一刀両断するお話。




