20話 校長先生?
洋子のマッサージを受けた後。
タマ達は洋子に連れられて校長室に向かって進んでいた。タマは体をほぐす様に肩の周りや腰を動かしながら移動している最中でつぶやいた。
「……はぁ。酷い目にあった」
「でも、体の痛みは減ったでしょ?」
「……そうだけどさぁ。でも、もの凄く痛かったぞ」
洋子の言葉にタマは肯定する。確かにマッサージを受ける前よりも体は軽くなっていた。
しかし、マッサージを受けている間は地獄のような痛みが全身を駆けまわったため、素直には喜べなかった。そんなタマの不満に対して洋子は言った。
「ん。それだけよく効いたという事」
『ちなみにワシ監修じゃぞ』
「そうなんだ。玉藻さん直伝だからそれでこんなに効いたのか」
『そうであろう?』
「ちなみにもっと痛みを抑える事は出来ない?」
嬉しそうに反応する玉藻にタマはたずねる。それに玉藻は頭を横に振った。
『すまんが、それは出来んのぅ。疲れなどの体内の良くない気をツボを刺激する事で押し出す為にしっかりと押さないと意味がないのじゃよ』
「そっか。無理言って悪かった」
『うむ。ワシの方ももう少し改良してみるとするか』
「うん。お願い」
「ん。2人共。ついたよ」
『ワシは戻るとするかのぅ』
タマと玉藻が会話をしている間に校長室の前へと到着すると洋子がそれを伝えた。それを聞いた玉藻は洋子の中へと戻る。残ったタマとパンドラは校長室の前の扉を見て言った。
「ここが……」
「豪華な扉ですね」
「なんか緊張してきたな」
タマは目の前の扉を見ながらこの先に居るであろう校長に何を言われることになるのか不安になって来る。それに洋子は答えた。
「ん。学園のトップの応接間だから他よりも豪華。それとそんなに緊張しなくても大丈夫。別に怒られるとかはない」
「そうなの?」
タマはたずねる。洋子はうなずいた。
「ん。まだ聞かされてないけど、多分依頼の話。入ろうか」
「そうだな」
洋子はそういうと校長室への扉を開ける。中に入ると人が座っていた。
室内にいる人は朧げであった。男にも女のようにも見える。声は男性のようにも女性のようにも聞こえる。年齢も青年のようにも中年のようにも老人のようにも見えた。人であることは間違いないが、タマ達の目には誰であるか一切認識が出来なかった。
「ようこそ。葛葉君。環君」
「こんばんは。校長先生」
「こ、こんばんは」
「ささ。こちらへどうぞ」
校長先生と呼ばれた人物がタマ達を招く。タマは洋子に連れられて部屋の中央にあるソファに座った。
「ようこそ。私はこの学園の校長をしています」
「校長先生? ……なんですよね?」
タマは目の前で自身の役職を名乗る人物に疑問をぶつける。校長は微笑んで答えた。
「はい。あっていますよ。校長先生です」
「あの? なんで目の前に校長先生がいるのに認識できないんですか?」
「ツクモ神である私からも認識できないのです。目の前に居るのに性別も年齢も分からないのです。興味深いのです」
タマと肩に乗っていたパンドラがたずねる。校長は苦笑した。
「あははは。これは生まれつきの体質なんです。最初の内は少し影が薄い程度でしたが、長い間ツクモ神の問題を解決していった結果、今のように誰にも本来の姿を認識されなくなったのですよ。それと名前の方は『#%!$』と名乗っても聞き取れないはずです」
「何て言ったのか全然わからねぇ」
「確かに全く分からないのです。何とかしようと思わなかったのです?」
名前を聞いたタマとパンドラは頭を傾げる。校長は変に焦った様子もなく答えた。
「そうですね。最初の内は名前も伝えられない上に誰にも認識されなくて困りましたが、これはこれで便利なのに気がついてから変えようと思った事はないですね」
「そうなのですか?」
パンドラはたずねる。それ答えるように校長はうなずいた。
「はい。相手が名前や姿が認識できないという事は呪いの対象を選ぶことが出来ないのですよ。つまり、ツクモ神の呪いをほとんど受ける事はないのです」
「なるほど。呪う相手を認識できないのは人としてもツクモ神としても呪いをする側からしたらたまったものではないですね」
「そうなのか?」
校長の話の内容にパンドラがうなずくとタマが頭を傾げる。パンドラはタマに言った。
「そうなのですよ。呪いというのは繊細なのです。呪いの対象は明確にしないと全部自分に返って来るのです。つまり、目の前の人の子は呪いの対象にできないという事は全部呪った人に返るのです」
「そうなのか」
パンドラの説明にタマは何となくうなずく。校長は言葉を続けた。
「ちなみにこの体質のおかげで呪われた武具を使用しても呪われなくなりましたから便利に使わせてもらっていますよ」
「呪われた武具をですか。それはまたすごいですね」
「呪われた武具?」
校長とパンドラの話について生きないタマはたずねる。それに洋子が答えた。
「それについては私が答える。長い時を経た物には魂が宿る。それは良くも悪くも不思議な力を持ってる」
「その悪い方が呪われた武具なのか?」
「ん。大体あってる。古来からある妖刀や魔剣とかの力を与える代わりに特大のデメリットを与えるものがそれ。逆にデメリットの少ない武器は神剣や聖剣とか呼ばれる。校長はそれらのデメリットを踏み倒して自由に扱える」
「妖刀や魔剣を自由に使えるのか。そう言われるとなんかすごいな」
洋子の説明でタマは大雑把に理解する。
「ん。ついでに私の剣の先生だから技量も凄い」
「おぉ。そうなのか?」
洋子が自信満々に答えるとタマは校長をキラキラした目で見る。期待に満ちた目に校長は照れ臭そうに笑った。
「あはは。確かに剣の先生をしていましたが、もう葛葉君はかないませんよ。校長としての仕事が忙しすぎて実戦からは1年近くは離れていますからね。っと。世間話はこれくらいにしてお二人に来て貰った理由をお話しないと」
「そうですか。興味深いお話でした。もし、時間があったらお伺いしても? あ。私はパンドラです」
パンドラはたずねる。それに校長は快くうなずいた。
「もちろん構いませんよ。パンドラさん。葛葉君。環君もいいかい?」
「ん。分かった」
「お願いします」
校長の言葉に洋子とタマはうなずく。それを見た校長はタマ達を見てから口を開いた。
「それでは。葛葉君。環君。両名に指名依頼です。迫りくる巨人への防衛の支援をお願いします」
校長は依頼の内容を口にした。
誰にも顔と名前が分からない校長先生と依頼のお話。




