第十二章
「残念……一発殴ってやりたかったのに」
そう言いながら、全然残念そうじゃない清貴さん。
「清貴さん……なんで……」
聞きたいことはいっぱいある。
なんで雅が清貴さんを知ってるの?
なんで来てくれたの?
なんでさっき、私のこと"恋人"って言ったの?
「質問攻め?」
私を抱き締めたまま、喉の奥で笑う清貴さんを軽く睨む。
けれど全く動じてない彼は私の頭を撫でただけだった。
「雅ちゃん達には昨日、偶然会ったんだよ」
「昨日……」
脳裏に甦った昨日見たあの光景。
それを思い出した瞬間、胸を貫く痛みに耐えきれず、私は清貴さんからそっと離れた。
「桜ちゃん?」
「……どうして私を"恋人"だなんて言ったの?」
さっき私を守るようにして言ってくれた言葉。
嬉しかったけど、同時に空しくもなった。
だって私は……
「言葉通りでしょ。桜ちゃんは俺の大切な……」
「嘘!!」
言いかけた清貴さんを遮って。
私は清貴さんを見上げ、悲しみと怒りを込めて睨みつける。
「私、見たの。清貴さんが女の人と歩いてた……他にちゃんとした人がいるなら、思わせ振りなことしないで!」
言いながら自然と涙が浮かんできた。
でも泣き顔なんて見せたくなくて、隠そうと俯いたけど、それは清貴さんに阻まれた。
「思わせ振り?桜ちゃんはずっと、俺が本気じゃないって思ってたの?」
見上げた清貴さんの顔には、怒りと苛立ちの色が見えた。
その表情に何も言えなくなった私に、清貴さんは溜め息を一つつくと、私の手を掴みどこかへ歩き出した。




