第十章
「桜?!」
街中の喧騒に紛れて、しかししっかりと俺の耳に届いた聞き覚えのある名前。
ハッとして声のした方を見れば、桜ちゃんと同じ制服を来た男の子と女の子がいた。
「清貴さん?」
横から怪訝そうに俺の名前を呼ぶのは仕事の関係で一緒にいた女性。
取引先の社長の娘さんで、帰国子女らしく街中を案内するという名目だが、いわば軽い見合いだ。
適当に付き合って帰ろうと思っていたけど、何かただならぬ雰囲気の彼らが気になった。
「すみません、俺、用事があるので」
「え?ちょっと!」
呼び止めようとする女性を尻目に車道を走り抜け、桜ちゃんの知り合いらしい二人に声をかけた。
「ごめん。君達、桜ちゃんの友達?」
「え?そうですけど……」
近くにいた女の子が先に俺に気付いた。
小首を傾げる可愛い仕草にいつか桜ちゃんに聞いた名前を思い出す。
「もしかして、雅ちゃんかな?」
「あんた誰だよ」
「ちょ……雄大!」
女の子に話しかける俺の前に立ちふさがり、男の子は彼女を背後に隠そうとしている。
「突然ごめん。俺は……」
「ちょっと!何なの!!」
彼に説明しようと口を開きかけた時、背後から追い付いてきたらしい女性の叫び声がした。
「あなた自分が何したか分かってるの!?」
あぁ、うるさい……
「商談を白紙に、と言われるのでしたらどうぞご勝手に」
ゆっくりと振り返り、憤慨している女性ににっこりと微笑んでみせる。
そして表情を一変させ、俺は彼女を睨み付けた。
「しかし、商談が成立しないと困るのはあなたのお父様ですよ。あなたは自分の方が有利だと思われてるようですが、実際、私の会社に泣きついてきたのはあなた方の方です」
「なっ……なにを……」
「まだ分かりませんか?売られたのは私ではない。あなたの方です」
驚愕に目を見開く女性から視線を反らし、俺は学生二人の肩を押す。
「すまない、場所を変えよう。ちょっと付き合ってくれ」
小声で彼らに話しかけ、女性からどんどん離れていく。
「あの人いいのかよ?」
「構わないよ」
何でも思い通りになると思っている傲慢な金持ちの考えに付き合う気はさらさらない。
まだ不信感を持っている男の子に微笑むと、女の子が俺の服を引っ張った。
「お兄さん、桜の彼氏?」
「「え?!」」
しっかりと歩は進めながら、女の子の指摘に男二人で驚いてしまう。
「なんで分かったの?」
「何となく?」
桜ちゃんの話から、どこか抜けてる天然な子だと思ってたけど。
なるほど、勘がいいのかもしれない。
そしてこの後二人から俺はいろいろな話を聞くことになった。




