第488話
問題は何処に連れて行かれたか、だ。手掛かりは複製体の魔力だけ。通信網が使えない今、探すのは困難だ。教団も拠点も更地になっている。
〝助けに来い〟というのなら、場所も指定しろと文句を言いたいところだ。むしろ相手に見つけてもらう方が簡単なのでは……と思うほどだ。
しかしそれでは助けに行けない。だからリスクを冒す。魔由香の魔力は記憶しているから、魔力探知を行えば比較的簡単に見つけられるだろう。しかしそれは複製体に見つかる危険を孕んでいる。それでもやるほかない。
逆探知できないように、細心の注意を払う。問題は、相手が複製体だからその辺りも熟知しているということ。
手口がバレている以上、下手な小細工は無意味? となれば全力でやるのみ!
秘書は思いっきり魔力波を放った。それは一般人でも感知できる強さ。といっても一瞬過ぎて気のせいで済ませられる程度のこと。
だが守人となれば話が変わってくる。そう、複製体だけでなく守人にも見つかってしまった。幸いなことにただ強い魔力波を誰かが放ったとしか感じていない点。調べなければならないのは変わらないが、優先度は低い。
ただ一人を除いて。
あの日、先代秘書の強い魔力を間近で感じたあの守人を除いて……
「なんだ今のは……」
「騒ぐな。任務中だぞ」
「任務中っていっても、完全にただの更地だぞ。魔力痕も殆ど無い。原因なんて……ん? どうした」
一人の守人が膝から崩れ落ちた。ガタガタと震え、全身に脂汗を掻き、その顔は恐怖に染まっている。
「大丈夫か?」
「なにがあった」
「あいつだ……」
「あいつ?」
「誰か居るのか。何処だ」
「あああああ、あいつに見つかった」
「見つかった?!」
「警戒しろ」
「はっ」
「もう、お終いだ……」
「どういうことだ。むっ」
崩れ落ちた守人は股間を濡らし、辺りにシミを作ってしまう。そしてそのまま白目を剥いて失神してしまった。
「おいっ!」
幾ら身体を揺らしても、起きることはない。
「どうだ?」
「分かりません。誰も居ない……と思います」
「誰も居ないって……ならこいつは誰を畏れているんだ」
「分かりません」
「くそっ。救護班を呼べ。一旦離れるぞ」
「はっ」
そんな些細なことがあった程度。守人は問題ない。なるとしても、ずっと先のことだろう。
対して複製体は直ぐ反応した。とはいえ、あまりにも強すぎる魔力波だ。警戒していた複製体にとっては耳元で大声を出されたようなもの。だから反応はできても対応は一歩遅れた。
発生源を割り出し、転移したときには既に秘書は居なかった。その秘書も、魔由香の魔力を検出できなかった。つまり、少なくとも地球には居ないということ。
なら他の星?
いや、それより可能性が高いのは星の半身……つまり異世界の方。そうなるとこっちで探知魔法を使ったのは悪手だ。情報は共有され、星の半身に居る複製体は警戒をするだろう。対策せず転移すれば、それこそ直ぐバレる。転移の際の空間の歪みはどうしても発生してしまう。どうせ誰も分からないとサボっていたツケがここに来て現れた。
魔力隠蔽はイーリンに散々鍛えられた。ならば空間の歪みも矯正できたはずだ。幸いなのは、それは複製体も同じだということ。ただし、一年という空白がお互いにある。そこでどれだけ違いが生まれたかが勝負の分かれ目だろう。
一番の違いはこっちにはゼリーが居るということ。複製体は居ないと考えている。理由は、変わってしまった複製体に懐くとは思えないからだ。だからゼリーは大きな優位性になる。
一年間リハビリしながら訓練もした成果を見せるときだ。




