第489話
転移先は星の半身ではなく、その逆側。つまりは元々あった方の魔素の星へ転移した。待ち構えているのは星の半身側だと考え、こちら側なら探知されないだろうという読みだ。
ところが、だ。相手は複製体だ。一人や二人ではない。恐らくほぼ全員が集結しているであろうこの場所に、監視の目が行き届かない場所がはたして本当にあるのだろうか。
いや、無い。
転移して到着して間髪入れず、魔法が飛んできた。転移した直後の無謀になところを狙われてしまったのだ。防御する間もなく魔法をモロに食らってしまい、黒焦げになってしまう。
「なんだ。呆気ないな」
「待て、油断するな」
「油断もなにもないだろ。この黒焦げから魔力なんて感じねぇよっと」
複製体は黒い塊を勢いよく蹴飛ばした。黒い塊はあっけなく砕け散った。ゴロゴロと砕けた塊が転がっていく。
「な!」
「呆気なさ過ぎる」
「心配しすぎだって。帰るぞ」
「待て」
転移しようとした複製体を、複製体は制止した。
「なんだよ、もういいだろ」
「お前が帰ってつけられでもしたら面倒だ」
「はあ?! 生きてるってか? この有様で?」
そう言って転がっていった黒い塊のところまでわざわざ行き、踏み潰して粉微塵にした。
「実際、前回は生きていただろう」
「けっ。今回は死体があるんだ。この臆病もんが!」
そう言って残った欠片を拾い上げると、複製体に投げつけた。
「用心深いと言ってくれ」
複製体は投げつけられた欠片を掴み取った。
「わーったわーった。好きにしろ」
そう言うと、複製体はその場で胡座をかいた。
「はしたないぞ」
胡座をかいたことで、スカートの奥底が露わになってしまっている。
「るっせー! 性別なんかねぇだろっ」
「その個体は女だ」
「チッ、うざっ」
そう悪態をついて胡座をかいたまま頬杖をしてイライラしている。もう一人はため息をついて黒い塊を調べ始めた。
当然ではあるが、この黒い塊は秘書ではない。秘書を模した肉人形だ。だから調べられるとアッという間にバレるのだが、幸いにも芯まで焼けて炭化している。しかも小さな欠片だ。故にそう簡単には見破られないということだ。
では本物の秘書はというと、魔法が炸裂したタイミングを利用して転移してきている。爆発の衝撃を利用して転移の揺らぎを隠したのだ。姿を消し、周囲に紛れて隠れている。
複製体が後をつけられたら面倒だと言っていたが、まさしくそうしようとしていたので鈴にとっては迷惑な話だ。さっさと行けと念じてはいるものの、その気配は全くない。
胡座をかいた複製体はずっとイライラしているし、黒い塊を調べている複製体は中々終わりにしようとしない。ううむと呻りながらしつこく調べている。そんな唸り声を聞く度に複製体の機嫌は益々悪くなっていった。
そんなピリピリとした空気が秘書を刺激する。凄くチクチクして嫌な感覚だ。縫い針で身体中をツンツンされているような、刺さるまではいかないがそれ以上力を込めたら刺さるという絶妙な痛み。その痛みが唸り声が上がる度に強くなっていく。
そして先に根を上げたのは複製体ではなく、秘書だった。耐えきれずに防御してしまう。その僅かな抵抗を感じ取れないほど複製体は鈍感ではない。
「お?」
「どうかしましたか」
「っへへ。どうやらお前の勘が当たったみたいだぞっ!」
複製体は言い終わるのと同時に肉人形を炭化させた魔法を秘書が居ると思われる場所へ放った。直撃はしなかったものの、秘書の横一メートルほどのところに着弾した。
急だったとはいえ、秘書も警戒していたので吹き飛ばされはしたものの、防御が間に合ったので、ほぼ無傷で済んだ。吹き飛ばされたことで地面に跡が付いてしまい、秘書の居場所がバレてしまった。
「居た! っはははは! 居た居た居た居た!」
複製体が追撃とばかりに火球を連発し、着弾すると大きく爆発した。秘書は隠れている意味がなくなったので姿を現し、火球を避けて防御することに徹した。




