第486話
ゼリーは結界だ。
秘書を庇い、半身を失ったゼリーは、秘書がゼリーの生まれ故郷から鈴がしたように結界を千切り取り、ゼリーの身体を修復した。しかし、補修はできたが、完全には治らなかった。それでも秘書の献身的な看護とリハビリで徐々にではあるが、回復していった。
では秘書は?
秘書はゼリーのお陰で大した怪我を負うことはなかった。だが複製体たちは敵対する何者かに意識を乗っ取られてしまったらしい。なので頼ることはできない。それまで使っていた拠点も同様だ。
複製体の安否も分からないが、無事とは思えない。そうなると教団は?
秘書が遠見の魔法で見た限りでは、今のところ無事なようだ。魔由香や司教・司祭・信者たちも普段と変わらぬ生活をしている。それでもいつ敵対する何者かの手が伸びてこないとも限らない。狙われているのは複製体だ。だから教団と手を切れば信徒たちに手は伸びないはずだ。
そうなると食料をどうにかして調達する必要がある。秘書は悪いと思いつつ、山の所有者に許可無く山菜や木の実を採り、川や海で漁業権がないのにも関わらず漁をして食料とした。
「はぁ、イーリンになんて言われるかな……」
などとぼやきながら、調理をして食事をした。しかし、それでは補えないものもある。
「お米が食べたい……パンも食べたい。うどん、そばにラーメン……ああ……はあ……」
調味料程度なら錬成すればいいが、食材となると食べたところで栄養にはならない。食べても気持ちは満足するが、身体は食べれば食べるほど乾いてしまう。究極の嗜好品……とでもいえよう。
そんな日々を過ごしつつ、イーリンと過ごした隠れ家は足が付く可能性があるから使わず、根無し草となってゼリーと共に放浪している。そして魔由香の様子を覗き見るのが日課になっている。
その日もいつものように覗き見ていた。魔由香はいつものように鈴の部屋を清掃していた。同じ手順、同じ所作、同じ時間を掛けて手際よく熟していく。
「今日も元気そうね。もう掃除しなくていいって言えたらよかったんだけど……言ったところで止めるとも思えないけどね。ふふっ。あら?」
いつものように清掃が終わって部屋を出ると、アンゼル司教が待っていた。その後二人は別れ、魔由香は掃除道具を片付けて身なりを整えると司教の部屋へ行き、司教自ら魔由香をもてなした。
「あっ、いいなー」
テーブルにはクッキーやケーキと、色々なお菓子が用意されていた。魔由香は遠慮がちにクッキーを食べ、紅茶を飲んだ。そして今度は幸せそうな顔をしながらケーキを頬張った。
「くぅー、いいないいな! 私も……く……ダメ! 今日はここまで! 食べたくなっちゃう」
そう言って覗き見を止めてしまったことを、後に後悔することになる。




