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大罪の娘  作者: 武部恵☆美
第25章 大いなる調律の駒
485/488

第485話

 餌を啄むといっても、餌だけなんて器用なことを鶏がするはずもない。当然張り付いている皮膚も一緒につついて啄んでいる。


「あっ、う……痛っ……え? な、なに?! い、痛っ、いやっ、鶏?!」

「っははははは! 痛い? 痛いよね。痛がっちゃうよねー。さあ痛かったら助けを呼びましょー。さんはい!」

「痛い痛い痛い。止めて! いやぁ!」

「いやいやいや。そうじゃないでしょ。……えーと?」

「鈴」

「あーそうそうそう! 〝鈴、助けてーっ!〟って叫ばないとダメでしょ。じゃないと助けが来ないよー?」

「な、なんなのよ、貴方たちはっ」

「あ? 見て分からないの? 貴方のだぁい好きな……」

「鈴」

「鈴だよー?」

「いっ、そんなわけ……ないでしょ! 姿が痛っ似てても、別人なことくらい分かるわよっ!」

「へー、案外目が節穴なんだねー。姿が似てるんじゃなくて、そのものなんですけどー? きゃははははは!」

「ど、どういう意味ひぐっ」

「あー早く助けを呼ばないと大変なことになるよー? 幾ら鶏とはいえ、くちばしは硬いからねー。あーほら、ここ」


 複製体()は魔由香の身体に指を当て、グリグリと捻った。


「いっ、ああああああああっ!」

「皮膚が破れて血が出てる。あ、こっちも! あ、あ、あ、たくさーん! っひひひひ」

「いやぁ! 痛いっ、止めてっ、あぐっっっ」


 複製体()は魔由香の腹を踏みつけた。魔由香の顔が更に歪む。


「違う違う。〝鈴、助けてー!〟だよ? 早くしないと血の味を覚えた鶏が餌じゃなくて貴方の肉を啄み……あ、手遅れみたいね。くふふふふ」

「いやっ、やめっ、あああああっ」


 魔由香は身をよじって逃げようとするも、手足が動かないので、芋虫のようにモゾモゾするだけだ。そして全身が真っ赤になるのに、時間は掛からなかった。


「エグいな」

「ふっ、それでは直ぐに死んでしまうぞ」

「だいじょーぶ! 死なないように重要な部分は保護してあるから、たとえ他の部分が骨だけになっても問題ないわ。ま、そうなったら治療してもう一周させるだけだけど」

「うわ……」

「はぁー、よくそんなことを思い付くな」

「ほら、だから早く助けを呼びなさい。じゃないと、永遠に終わらないわよ? きゃははははは!」

「いやーっ、あっ、痛い痛い! 止めてーっ!」


 知ってか知らずか、鶏たちは魔由香の腹を集中的に狙い始めた。柔らかい腹はアッという間に食い破られ、栄養価の高い内臓を啄み始めた。ズルズルと引きずり出され、魔由香の腹は空洞になってしまう。

 普通なら意識を保つことさえ不可能だろう。しかし魔由香は意識を失うことなく、死ぬこともなく、意識はハッキリと保ち続けている。恐らく、麻酔無しで手術される方が楽に違いない。


「んー、いい声で鳴くようになったのはいいけどー、そうじゃないんだよなー。ま、コレを聞いてワンチャン助けに来るかもねーあはっ」

「あ……く……う……」


 それまで喚き叫んでいたのに、複製体()がそう言うと魔由香は声を我慢しだした。口をきつく噤み、それは歯が欠けるほどだった。


「ん? あれあれ? もしかして今の聞こえたのー? 凄ーい! 聞こえても痛くて理解できないと思ったんだけどなーだからそうじゃないんだよなーはぁ。さっさと助けを呼びなよ」


 半笑いで軽薄に喋っていたかと思うとため息をつき、急に落ち着いた言葉になった。


「一言〝助けて〟って言うだけ。なんでこんな簡単なことができないの?」


 複製体()は鶏を掻き分けて魔由香の顔を覗き込んだ。顔も啄まれていて、肉の薄いところは骨が見えている。柔らかい眼球は、既に両方とも無くなっていた。

 そんな状態でも脳や口、喉といった部位は綺麗に残っている。痛みを感じたり、助けを求めたりするのに必要だからだ。なので肺や心臓も無事だ。最低限死なないように、叫べるように、鶏から守られている。勿論、自殺からも。


「ねえ、なんで? なんでなんでなんでなんで?」

「そこまでだ」


 複製体()複製体()の肩を掴んだ。


「ああっ?! 何故止める!」

「まったく……同じ轍を踏む気か? それにその手に摑んでいるものはなんだ」


 複製体()は両手に鶏を掴み、魔由香から引き剥がしていた。しかしそれも焼け石に水。数十羽居る鶏が啄むのを止めるわけもない。

 複製体()は摑んでいる手を見詰めた。鶏の首をしっかりと摑んでいて離さない。鶏が暴れ、足の爪で腕を引っ掻こうとも。


「ああ、そうだ。そうね。少し落ち着いた方がよさそう。あっはははは! あーだるっ。後はあんたに任せるわー」


 それだけ言うと、複製体()は二羽の鶏と共に何処かへ転移してしまった。


「おい!」

「まったく、私にこういう趣味はないのだがな」


 残された複製体()は、やれやれと魔由香の身体を治癒し、新たな餌を撒いた。

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