第484話
転移した星の半身は、結界に守られることなく魔素に晒され、グズグズになっていく。だがその進行速度は思ったよりも遅い。予想ではアッという間に広がり、綻びとなり、連鎖的に崩壊していくはずだった。
「なんでこんなに遅いのかしら」
「さぁな」
「ふむ、やはり量が少なかったのであろう」
「半分もあれば十分だと思ったんだけどな」
「そぅだな」
「ふむ、やはり世界の半分でなければ足りなかったのだろう」
「世界の半分?! そんな力を人如きに生み出せるわけないでしょ!」
「確かに」
「ふむ、ではなんとする。まさか一つ一つ潰していくのか?」
「うえー、それは面倒じゃない?」
「そぅだな」
「ふむ、やはりこの個体にやらせるしかなかろう」
「あー無理無理! 本人ならともかく、複製体には無理じゃない?」
「無理だな」
「ふむ、なら両方やらせるしかなかろう」
「もぉー面倒くさいわねー」
「そぅだな」
「ふむ、その為にもあの特殊個体は野放しにできないだろう」
「で、それをおびき寄せるための囮がコレ?」
複製体が指さす先には魔由香が居た。
「そぅだな」
「ふぅむ、その筈なのだが」
「う……」
魔由香は地面に刺された丸太に磔になっていて、グッタリとしている。
「ほらぁ、もっと泣き叫んで呼び寄せなさいよぉ」
複製体は魔由香に水をぶっ掛けた。しかし効果はないようだ。
「無理だろ」
「ふむ、確かに無理があるな」
「なぁんでよぉ!」
「気力無し」
「ふむ、それもあるだろうが、鈴はもうこいつらに興味がないのだろう。どうやら一年近く接触がないらしい」
「じゃあ完全に無駄じゃない! バッカみたい。なら生かしておく必要ないよねー」
「そぅだな」
「おい、まだそうと決まったわけでは……」
言い終わるより早く複製体は右手を横に払い、刀を錬成するとその刀を振りかざし、魔由香に向かって振り下ろした。
「……あれ?」
振り下ろされた刀は、魔由香に斬り付ける寸前でピタリと止まった。刀が止まった……というよりは、腕が止まったといった方が正確だろう。腕がプルプルと小刻みに震え、抵抗しているようにも見える。
「どうした」
「ふぅむ、どうやらまだこの個体の意識が残っているようだ」
「はあ?! 一年掛けて消したのに、まだ残ってるの?! くっ、このっ、うーっ」
複製体が幾ら斬り付けようとしても、どうしても振り下ろすことだけはできないようだ。
「らしいな」
「ああ、そういえば置いてきた個体は意識どころか言葉を発したそうだ」
「マジで?! 信じらんない! ゴキブリ並みにしぶといじゃないの。呆れた……」
「諦めろ」
「だが、逆を言えばまだ誘き出すのに有効な餌ともいえるだろう」
「ふーん。ならこんなのはどうかなー」
複製体は刀を消すと、魔由香を丸太から外して地面に転がした。
「うん?」
「おい、どうするつもりだ」
「はいはーい、注目! まずは裸にひん剥きまーす」
複製体がバンザイをすると、魔由香の服がビリビリと破れ、宙を舞った。
「あん?」
「ふっ、今更辱めたところでなにも出ないだろ」
「ふふっ、これからが面白いの。ここに取り出したるはー、鳥のー餌」
複製体は大きな紙袋に入った鳥の餌を両手で天高く掲げた。
「は?」
「ふむ、鳥に餌付けでもするのか?」
「そ・の・と・お・り! なので、鳥の餌を、撒きまーす!」
紙袋を開けて中の餌をむんずと摑むと、バラバラと魔由香の上から鳥の餌をばら撒いた。濡れ手に粟というように、濡れた魔由香の身体に鳥の餌がたっぷり張り付いた。
「ほーう?」
「で、肝心の鳥は何処に居るのだ?」
幾ら餌が撒かれたからといって、肝心の鳥が居なければ餌を啄みに来るはずもない。鳥どころか辺りに生き物なんて複製体くらいしか居ない。ばら撒き損である。
「チッ、チッ、チッ、居なければ喚べばいいのよ。出でよ、鳥!」
すると複製体の周りに鶏がコケーッと鳴きながら何羽も現れた。
「ほほう」
「で、どうだというんだ?」
「鶏が餌を啄みまーす」
現れた鶏共が一斉に魔由香に群がり、その身体に張り付いた餌を啄み始めた。




