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大罪の娘  作者: 武部恵☆美
第25章 大いなる調律の駒
484/488

第484話

 転移した星の半身は、結界に守られることなく魔素に晒され、グズグズになっていく。だがその進行速度は思ったよりも遅い。予想ではアッという間に広がり、綻びとなり、連鎖的に崩壊していくはずだった。


「なんでこんなに遅いのかしら」

「さぁな」

「ふむ、やはり量が少なかったのであろう」

「半分もあれば十分だと思ったんだけどな」

「そぅだな」

「ふむ、やはり世界の半分でなければ足りなかったのだろう」

「世界の半分?! そんな力を人如きに生み出せるわけないでしょ!」

「確かに」

「ふむ、ではなんとする。まさか一つ一つ潰していくのか?」

「うえー、それは面倒じゃない?」

「そぅだな」

「ふむ、やはりこの個体にやらせるしかなかろう」

「あー無理無理! 本人(あっち)ならともかく、複製体(こっち)には無理じゃない?」

「無理だな」

「ふむ、なら両方やらせるしかなかろう」

「もぉー面倒くさいわねー」

「そぅだな」

「ふむ、その為にもあの特殊個体は野放しにできないだろう」

「で、それをおびき寄せるための囮がコレ?」


 複製体()が指さす先には魔由香が居た。


「そぅだな」

「ふぅむ、その筈なのだが」

「う……」


 魔由香は地面に刺された丸太に磔になっていて、グッタリとしている。


「ほらぁ、もっと泣き叫んで呼び寄せなさいよぉ」


 複製体()は魔由香に水をぶっ掛けた。しかし効果はないようだ。


「無理だろ」

「ふむ、確かに無理があるな」

「なぁんでよぉ!」

「気力無し」

「ふむ、それもあるだろうが、(アレ)はもうこいつらに興味がないのだろう。どうやら一年近く接触がないらしい」

「じゃあ完全に無駄じゃない! バッカみたい。なら生かしておく必要ないよねー」

「そぅだな」

「おい、まだそうと決まったわけでは……」


 言い終わるより早く複製体()は右手を横に払い、刀を錬成するとその刀を振りかざし、魔由香に向かって振り下ろした。


「……あれ?」


 振り下ろされた刀は、魔由香に斬り付ける寸前でピタリと止まった。刀が止まった……というよりは、腕が止まったといった方が正確だろう。腕がプルプルと小刻みに震え、抵抗しているようにも見える。


「どうした」

「ふぅむ、どうやらまだこの個体の意識が残っているようだ」

「はあ?! 一年掛けて消したのに、まだ残ってるの?! くっ、このっ、うーっ」


 複製体()が幾ら斬り付けようとしても、どうしても振り下ろすことだけはできないようだ。


「らしいな」

「ああ、そういえば置いてきた個体は意識どころか言葉を発したそうだ」

「マジで?! 信じらんない! ゴキブリ並みにしぶといじゃないの。呆れた……」

「諦めろ」

「だが、逆を言えばまだ誘き出すのに有効な餌ともいえるだろう」

「ふーん。ならこんなのはどうかなー」


 複製体()は刀を消すと、魔由香を丸太から外して地面に転がした。


「うん?」

「おい、どうするつもりだ」

「はいはーい、注目(ちゅうもーく)! まずは裸にひん剥きまーす」


 複製体()がバンザイをすると、魔由香の服がビリビリと破れ、宙を舞った。


「あん?」

「ふっ、今更辱めたところでなにも出ないだろ」

「ふふっ、これからが面白いの。ここに取り出したるはー、(とーりー)のー(えーさー)


 複製体()は大きな紙袋に入った鳥の餌を両手で天高く掲げた。


「は?」

「ふむ、鳥に餌付けでもするのか?」

「そ・の・と・お・り! なので、鳥の餌を、撒きまーす!」


 紙袋を開けて中の餌をむんずと摑むと、バラバラと魔由香の上から鳥の餌をばら撒いた。濡れ手に粟というように、濡れた魔由香の身体に鳥の餌がたっぷり張り付いた。


「ほーう?」

「で、肝心の鳥は何処に居るのだ?」


 幾ら餌が撒かれたからといって、肝心の鳥が居なければ餌を啄みに来るはずもない。鳥どころか辺りに生き物なんて複製体()くらいしか居ない。ばら撒き損である。


「チッ、チッ、チッ、居なければ喚べばいいのよ。出でよ、鳥!」


 すると複製体()の周りに鶏がコケーッと鳴きながら何羽も現れた。


「ほほう」

「で、どうだというんだ?」

「鶏が餌を啄みまーす」


 現れた鶏共が一斉に魔由香に群がり、その身体に張り付いた餌を啄み始めた。

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