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大罪の娘  作者: 武部恵☆美
第25章 大いなる調律の駒
483/489

第483話

 複製体()はそれに気づくと、まだ残っていた塊を強く踏みつけた。


「なに勝手に死んでるのよっ!」


 そう言いながらグリグリと足を捻った。それでも満足できないのか、地団駄を踏んで僅かに残っているかけらでさえ粉微塵にしていく。


「このっ、このっ、このっ、このっ! 誰に! 許可っ! されて! 死んっ! だって! いうのっ! よっ! 私はっ! 許可っ! なんてっ! してっ! ないんっ! だからっ! ねっ! はぁっ、はぁっ、はぁっ……ああああああああああっ! なんでっ! なんでなんでなんでなんでなんでっ! こいつ、こいつこいつばかりばっかり感謝されされれてんのよっ! わたっ、私しししは文句もんもんくもんばかばっかばーっかされれってるのにっ! はぁ……はぁ……はぁ……あああああウザい……要らない……要らない要らないいらないないなならない!」


 喚き散らし、当たり散らし、暴れ、叫び、次第に魔力が集まっていく。渦巻き、逆巻き、震え、波立ち、凝縮し、光り輝き、闇に飲まれ、混沌と秩序を引き裂き、空間が歪みだし、世界の法則が――


「落ち着け。そんなことをすれば(ゼロ)号に気づかれるぞ」


 転移してきた複製体()が荒れ狂う複製体()の肩を押さえ付け、床を突き抜け、地面が割れた。


「終わりおわするするああああ止めるな止めるな止めるなるななななななななあああああああ!」

「終わりにする前に私が終わる。だから押さえろ」

「終わりらり終わ……終わる? 終わ……あ、あああああああっ! はぁ、はぁ、はぁ」


 落ち着いたのか、乱れ狂っていた周囲の事象が徐々に元に戻っていく。


「世界を終わらせるためにも、こいつらを使わなきゃダメなんだ。あくまで自己責任。私は……私たちは修正しようとしたが失敗したという体裁を保たねばならない。思い出したか」

「あ、ああ。すまなかったな」

「ふっ、らしくないな」

「ああ?! ……ふんっ。ちょっとムキになっただけだしぃー。本気にするとか、カッコ悪ぅークスクスクス」

「はぁ……ムキになってこの有様では適わん。お前も来い」

「チッ。そっちは? おびき出せたのぉー?」


 複製体()は舌打ちしたかと思うと、クスクス笑いながら複製体()の顔を覗き込んだ。


「まだだ」


 複製体()は鬱陶しそうに複製体()の顔を押しやった。


「うーわ、偉そうなこと言っといてそれぇ? ザコじゃん」

「いいから来い」

「きゃは! 怒った? 怒った?」

「怒ってない」

「もぉー、あんたまで嘘つくんだー」

「ついてない」

「うっそだぁー」

「嘘ではない」

「えー、素直になりなよぉー」

「しつこ……」


 複製体()はいい加減にしろと複製体()の顔を再び手で押し返そうとして、手が止まってしまう。


「お前、泣いてるのか?」

「は? 私が泣くわけ……あ?」


 複製体()の右目からは確かに涙が流れていた。


「な、なによこの嫌な感じは……すっごいムカつくんですけどぉー」


 拭っても拭っても涙は壊れた蛇口のように流れ続けた。


「あー鬱陶しいわねっ!」


 そう言うと複製体()は右目に指を突っ込み、抉り取った。


「おいおい」


 複製体()が穿った穴からは血がダラダラと垂れ流されている。


「これで……う……あーなんか胸がひっく、ムカムカするっ! ひっく、なんなのなんなのなんなのよっ! ひっく。あーしゃっくりまで出てひっく……ああっ、もう!」


 それは、明らかにしゃっくりではなかったが、複製体()には違いが分からなかったのだろう。


「今度は胸でも抉るか?」

「うっさいバカッ!」


 そう言われ、複製体()は呆れてため息をついた。


「あああああああああああひっく!」


 複製体()は雄叫びを上げると、苦しそうに胸を押さえ、しゃがみ込んだ。


「アンゼル……さん……うっ」

「ん? お前、まだ……」

「あ? なによ」

「いや、なんでもない。辛いならここに居るか?」

「はあ?! 辛い? んなわけないっしょ」

「ならさっさと立て。行くぞ」

「言われなくひっく、ても……あっ」


 複製体()は立とうとしてよろけ、そのまま倒れてしまった。


「立てないなら置いていくぞ」

「まっ、待て! 今立……あ?」


 複製体()は立とうとしても、足に上手く力が入らないようで、また倒れてしまった。


「はぁ。じゃあな」

「待てって! 立つ! 今立ひっく、から!」


 複製体()はプルプルと足を震わせながらも、なんとか立つことができた。

 しかし少し押しただけでも直ぐ倒れそうだ。


「ほ、ほら、立ったわよっ!」


 強がってはいるが、今にも左目から涙が出きそうな顔をしている。が、本人は気づいていないようだ。


「分かった分かった」


 複製体()は顔を緩め、複製体()を支えるように腕を摑むと転移した。

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