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80.会長室の嵐

そして、秘書室以上に荒れていたのは、他でもない会長であり祖父である正則だ。


金曜日に陽一が香織を引きずるように連れて帰った後、残された自分のバツの悪さと言ったらなかった。

フロアはシーンとなり、全員がどこを見ていいのか分からないような態度を取り始めた。もしくは、同情した目を自分で見ている。

正則は憮然として、その場を後にした。


会長室に戻ると、息子の社長と孫の専務を呼びつけた。

そして大いに八つ当たりをした。


「信じられん!なんなんだあいつは!」


「まあまあ、お父さん、落ち着いて!」


「これが落ち着いていられるか!社員の前で大恥掻いたぞ!」


怒り狂う正則と、それを何とか宥めようと奮闘する正和を、孫の隼人は呆れるように見つめていた。


「今回は、おじいさんの方が良くないよ。自分から恥を掻きに行ったようなもんじゃないか」


「なんだと?!」


「おい!隼人!何を言っているんだ、お前は!」


正和は慌てて隼人を制した。


「普通に会長室に呼び出せばよかったのに、わざわざ総務部に出向くなんてさ。それだけその子に圧力を掛けたかったんだろうけど、少し意地悪だよ」


隼人は、はぁ~と大きく溜息を付いた。


「それに、その子の何がどう気に入らないんだよ?陽一自身が気に入っているならいいじゃないか?」


そう澄まして言う隼人に、正則は目を丸めた。

よもや、もう一人の孫にまで意見されるとは思わず、驚いて言葉に詰まってしまった。


「・・・だがな、佐田の跡取りだぞ。それなりの家の娘でないと格好がつかん」


暫く間を置いて、正則は隼人を睨みつけるようにそう言った。


「うん、そうだ、そうだ。とりあえず、お父さん、お茶でも飲んで落ち着こうか?」


正和は隼人との間に立って、二人をソファに座らせた。

そして、内線で秘書にお茶を持ってい来るように伝えた。


「跡取りって、どういう意味?」


ソファに座ると、今度は隼人の方が、睨みつける様な鋭い目線を正則にぶつけてきた。

その目に、正則はハッとした。


「・・・あくまでも佐田の家のことだ。会社の事ではない」


「ああ、それを聞いて安心したよ。おじいさんの中では陽一が次期社長って決まっているのかと思った。ねえ、お父さん?」


「あ?え?そ、それは無いだろう、まだ。ねえ、お父さん?」


いきなり隼人に話を振られて、驚いて正和は正則に助け舟を求めた。


「・・・もちろんだ・・・」


部屋に微妙な空気が流れ始めたところへ、ドアをノックする音が響き、秘書がお茶を持って入ってきた。


隼人はお茶を一口飲むと、立ち上がった。


「悪いけど、これから会議なんだ。もう失礼するよ」


二人に頭を下げて部屋を出ていきかけたが、扉の前で正則に振り向いた。


「おじいさん、跡取りは一人じゃないってことを忘れないでくれよ」


そう言うと、静かに扉を開けて出て行った。

その後ろ姿を、正則は無言で見送った。


どうやら、先ほどの陽一を擁護する発言は、心から陽一を思っての事ではないようだ。

自分より陽一の方が勝っていると、常に思っている隼人は、これ以上陽一に引けを取りたくないはずだ。

結婚相手まで、自分よりも良い条件の娘だと陽一との差は開く一方だ。


(それを懸念してか・・・)


正則は溜息を付きながら、お茶をすすった。


(どっちも強かな狐だな、まったく)


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