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81.最初の問題

強気な陽一は、今回の自分が起こした騒動に対して何とも思っていなかった。

香織の困惑も、会社の動揺も、正則の怒りも、彼にとってはどこ吹く風のようだ。


もともと香織の仲を隠す気などなかった陽一にとって、返って好都合だった。

正則を始め、佐田の家に関する問題とは、いずれ対峙することになる。

恋仲を隠している以上、その問題は先送りになるわけだ。


そして、陽一は問題を先送りにするタイプではない。

目の前の問題は、出来るだけ早く、そして簡素に、なるべく労力を掛けずに片付けたい彼にとって、絶対に秘密にしたいという香織の意向に渋々付き合っていただけだ。


これを機に、面倒な問題を一つ一つ、さっさと片付けてしまおうと考えているとき、早速一つの問題がやってきた。


それは、秘書の二人がやたらと積極的になってきたことだった。


これは陽一には想定外だった。

まったくの真逆を想定したので、内心閉口した。


秘書二人は、諦めるなどという思考にはならなかったらしい。

なによりも会長が反対しているのだ。別れる可能性は高い。

さらに、香織程度の女が陽一を落とせたのなら、自分たちにも可能性があるという結論に至り、横恋慕作戦に走った。


もともと控えめだが自分に色目を使っていた二人が、控えめさがなくなり、大胆になってきた。

用事も頼んでいないのに、やらたら陽一の周りをウロウロされて目うるさい。

お茶やコーヒーを淹れてくる回数が倍増し、その都度、差し入れが置かれる。

カバンやコートも陽一が持とうとする前に、奪うように掴むと、にこやかに陽一に差し出される。

坂上に至っては、出迎えや送りなど、今まではエレベーターホールまでだったのに、荷物持ちと称して、地下の駐車場まで付いてくる。


終いには、忘年会にかこつけて、クリスマスの予定を聞いてくる始末だ。


陽一は溜息を付いた。

ここの問題は解決するに及ばないと高をくくっていたのに、いきなり面倒なことになった。


(ったく、面倒臭い・・・)


また香織が怒るかもしれないが、仕方がない。

陽一は一番手軽な方法を取ることにした。


ある日の定時後、陽一は坂上を部屋に呼んだ。


「ごめんね、坂上さん、定時過ぎに。一件頼まれごとをいいかな?」


「はい!もちろん!」


坂上が陽一の席に近寄ると、陽一はスマホを取り出した。


「あ、そうだ。ごめん、坂上さん。ちょっと、先に一本電話していい?」


「はい」


陽一は、坂上が待っている前で電話を掛け始めた。


「あ、香織?今朝、言い忘れてたけど、今日は遅くなると思うから、夕飯はいらない。先に寝てていいぞ」


陽一の話す内容を聞いて、坂上が青くなった。

スピーカーの音が少し大きいせいか、スマホ越しから香織の声が漏れ聞こえる。


『はい、分かりました。・・・って、あれ?朝、ちゃんと聞きましたよ。それ』


「それから、お前、ソファで寝るなよ。ベッドまで運ぶの大変なんだからな」


『分かってますよ!そんな毎回みたいに言わないで下さいよっ、もう!』


ぷくーっと膨れる香織の顔が目に浮かび、つい口元が緩んだ。


じゃあと言って電話を切ると、坂上に振り返った。

案の定、彼女は絶望的な顔をして、陽一を見ている。

陽一はそんな坂上に、にっこりと微笑むと、


「ごめん、ごめん。待たせちゃって。これを企画本部の部長へ渡してくれる?そして、その場で返信を貰ってきて」


そう言って、書類の入った封筒を差し出した。


「・・・かしこまりました・・・」


坂上はうなだれるように俯きながら書類を受け取ると、フラフラっと副社長室を出て行った。


「ったく、これで少しは静かになるだろ・・・」


陽一は呆れたように呟くと、椅子に座り、仕事に戻った。



                  ☆



電話を切った香織は首を傾げた。


(何でわざわざ電話してきたんだろ?いつもならこんな連絡はL●NEなのに・・・)


陽一の魂胆など知る由もない。

不思議に思いつつも、夕食を作る必要がないという気軽な気持ちが香織を支配していたので、大して疑問にも思わなかった。

そんな香織と、サンタクロースに扮したカーネルサンダースの目が合った。


「『今日、ケンタ●キーにしない?』なんつってね~♪」


アホらしく独り言を言いながら、ルンタッタと一人ファストフードに入っていった。


今回の事で陽一との同棲は公なものとなったが、香織がそれに気が付くのは後になっての事だったというのは言うまでもない。


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