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世界の風上 その中で  作者: イクラ太郎
第一章 平和なひととき
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第三話 特鋭個体 その意味は

「......!」


 闇騎士は勢いよく地面を蹴り、アラタの元まで一足で近く。手に持った大剣を振り上げ、アラタ目掛けて薙ぎ払う。


ガコッ!!


 しかしその後響いた音は、肉を切り裂く音でも、骨を砕く音でもない。


「.......!?」


「危ないな....」


 いつのまにかアラタはその手に巨大な斧を何処からか取り出し、闇騎士の剣撃を受け止めている。

 だが先程響いた音は金属と金属のぶつかった音でもない。

 アラタは斧を振り払い、一旦距離を置く。


———アンナモノ......イママデモッテイナカッタ......ドコカラトリダシタ......マサカアレガ......!


 頭ではそう考えながらも、闇騎士は攻撃の手を緩めるつもりはない。再度剣を両手に構え、アラタの元へと走り出す。

 アラタはその場から一歩も動こうとしない。だが相手と自分の距離が腕一本分まで近づくと、闇騎士に斧を持つ手とは別の手を突き出し、口元を綻ばせる。


「『暴嵐突破(エエカトル)』」


 突き出した掌の空気が渦巻き、暴風が吹き荒れ、闇騎士を飲み込む。直撃したことで闇騎士は後方数十メートルに吹っ飛ばされる。その通り道は風によって地面が大きくえぐられている。


「........まあ、地面は後で直せばいいか。」


「接近戦を匂わせといて風の魔術で近づいてきたところを確実に潰す。アラタがよく使う手だね。」


「性格の悪さが出てるわね。」


「うるせぇぞ!!そこ!!」


 今の一撃で吹っ飛ばされた闇騎士の姿は砂煙のせいで見えないが、そこから闇騎士が出てくる様子もなければ、砂煙が大きく揺らぐことすらない。


「なんだ?もう終わりか?危険度B(クラスビー)ならもう少しやれるだろ。」


 そう問いかけても相手からの一切の返事がない。もう終わりか、と思い踵を返し、二人の元へと戻ろうとした。


「じゃあ、当初の目的の新種とやらを探しに———!?」


「!!アラタ!!」


ガギゴッ!!


 突如アラタの背後に闇騎士が現れ、アラタに向かって一撃を放つ。アラタは間一髪でそれを斧で背中越しに防ぐ。


「.....ホウ........ヨクフセイダナ.......カンゼンニ...フイヲツイタツモリダガ.......」

 

「良いこと教えてやるよ。俺を中心に半径4メートルは常に風の魔術による膜がある。この中に入ったものは全て瞬時に感知することが出来るんだよ。」


———けど、こいつはさっき突然俺の領域内に現れたッ!!


「ナルホド......ダガ..」


 闇騎士の姿が突然視界から消える。だか周囲の風の膜によってその動きは確認できる。下だ。その場からワンステップ離れ、闇騎士の姿を目視で確認する。その身体は、下肢が地面に沈むように飲み込まれていく。沈んでいく身体の周りには、先程武器を取り出す際に見た黒い影があった。


「それがお前の『個体能力(オリジナルアビリティ)』か.....!我が身を影にして自在に出入りできる!!」


「ソウ......ダガリカイシタトコロデ......カンケイ....ナイ......」


 ズズッと闇騎士の全身は影に飲み込まれ、そこから姿を消す。そこに残った影は、すぐさま移動し、木陰に混じれてその場所を見失う。


———まずい!!


 そう思ったのも束の間。既に闇騎士はアラタの背後へと回り込んでいた。


「———ッ!!」


 周囲の風の膜によってその居場所は分かっても、その時には既に敵との距離は近すぎる。相手が影となり、地面を這うとき、アラタの風の結界には干渉しないからだ。


———カンチシタトコロデ......ハンノウデキナケレバ....カンケイナイ......


ブンッ!!!


 闇騎士の大剣が大きく横に一閃される。そして———


「あ————!.......」


 アラタの身体を横に真っ二つに切り裂いた。


———ヤハリ....コノテイド......ドウヤラ......チガッタ....ヨウダ.....


 闇騎士は勝利を納めたにも関わらず、何故か落胆していた。目以外は確認できないその顔でも、その表情は想像できる。


———......マダ.....ニヒキ...ノコッテイタ.......ノダッタナ......


 闇騎士はリンとレイラの相手をする気はなかった。闇騎士にとっては彼らと闘う理由がないからだ。たった一人その理由があった者との戦いも、意味のないものとなってしまった。

 だがここで闇騎士はあることを感じた。

 それは違和感。

 仲間が斬り殺されたというのに二人からはそれを嘆く声も、怒りの罵声も聞こえてはこない。ただじっと傍観しているだけだ。まるで———


「!?———!!」


 闘いがまだ終わっていないかのように———


「ハァッ!!!!」


ガガガッゴン!!!!


 突然の衝撃に闇騎士は受け身すら取れずに地面へと思いっきり叩きつけられた。

 先程上体下肢を切り離されたアラタが、その上体を宙に浮かせ、片手に持った斧で闇騎士を殴りつけたのだ。

 その身体の別れ目は、肉や骨などは一切覗かせておらず、何なら霧のかかったようなモヤで覆われていた。


「......ナッ........ゼ........!?」


「何故って?ハハッ!なあお前、もう一つ良いこと教えてやるよ。」


 アラタは闇騎士を指差し、嘲笑するかのような笑みを浮かべる。

 地面に直立していた下肢は、気体になったかのように分解されていき、その姿を消す。


「『特鋭個体』って知ってるか?」


 気体となった下肢は上体へと吸い込まれていき、やがてその気体が再び下肢を形成し、アラタは元の姿に戻る。


「トクエイ......コタイ.......?」


「そう!この世界で魔術を使える者は、個人差はあれどほぼ全員が火、水、土、雷、風の五属性を扱える。ああ、派生属性は別枠な。」


「だが稀に、その常識から弾かれた個体が存在する。ソイツは限定された一つの属性以外は扱うことが出来ない。」


「けどそれと引き換えに、そのただ一つ使える属性だけが、異常に強化される。」


「それが『特鋭個体』。今見せた芸当も異常に強化された風属性魔術によるものだ。」


 アラタはドヤ顔で闇騎士に向かってその自己体質を説明する。

 だが、彼の前居た学園では、この体質はあまり良く思われていなかった。その学園では、魔術師は幅広く物事に対応するべきであり、一つの属性しか扱えないアラタは落ちこぼれ扱いされ、冷たい扱いを受けていた。


「まっ、そもそも俺たちの目的はお前じゃないし、そろそろ終わらせるぞ。」


 そう言うと、アラタは手に持った斧を頭上に掲げる。


形態変化(モードチェンジ)———『(ランス)』。」


 斧がまるで紐をほぐすように分解されていく。この斧の材質の正体は木。形作っていた根がバラバラに解け、新たな形へと変化していく。やがてそれは二本の根が交互に絡み合ったような長槍へと形を変えた。


「........」


「ん?風以外使えないんじゃないのかって?これ正直俺もよくわからないんだけどさ。前の学園の書庫で見つけた土属性の魔導書読んでたら使えるようになってたんだわ。」


「.........ソウカ....」


「......なんか他と違って反応薄いな。まあ良いか。」


 ダッと風による勢いで闇騎士との距離を一瞬で積める。

 闇騎士は縦一線に剣を振りかざす。だが外れる。身体を回転させ、交わしたアラタは手に持つ木の槍へと魔力を込める。


———魔力による槍の強化、及び風を纏わせる!


 風が渦巻き、槍の周囲を纏う。 

 アラタの手にあるのは、その力で生み出された嵐そのもの。そこにあるだけで周囲を風圧で消し飛ばさんとばかりの威力を想像させる。

 そしてその槍を闇騎士の胴体目掛けて———


「クッ.......!!!」


 力一杯———


「『神槍神羅(グングニル)』!!!」


 放たれた———

 







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