第二話 遺跡 その秘密は
「新種ですか?」
「はい。」
ルナの言葉に興味を示したのだろうか、レイラは少し食い入った様子で彼女に言葉を投げる。それに対して返答したルナの表情は、少しばかり楽しく、嬉しそうだ。
「他の生息モンスターは全てこれまでに発見された種です。ですがたった一体、今までに発見されたことのないモンスターの存在が報告されました。」
「なるほど、つまり僕たちにはそのモンスターの調査、及び捕獲を依頼したい、と。」
「はい。出来ることなら私も同行し、自身の目で確かめてみたかったのですが。」
「とんでもない。貴方ほどの方に何かあれば僕たちでは責任を取りかねます。」
先ほどからの会話、リンとレイラの口調にアラタは違和感を感じていた。
「なあ?なんでお前らそんな改まった喋り方なんだ?」
「失礼だね。僕は初対面の人にはいつもこんな感じだよ。」
「いや微妙に違うな。なんというか固い。そんなに凄い人なの?この子。学会で受賞したぐらいしか知らないんだけど。」
「なんでそんな断片的な情報しか知らないのよ。」
「アラタは新聞とか読まないし、そもそも流行とかにも疎いからね。多分今回も小耳に挟んだ程度だと思うよ。」
「もう少し君は世間にも目を向けなさい。」
学長はそう言って手でルナをさし、彼女を紹介する。
「彼女の御家、ガルドバイン家は代々続く名門中の名門貴族だよ。この学園もガルドバイン家に支援してくださっている。」
その言葉を聞いてアラタはハッと思い出す。ガルドバイン。確かに実家にいた時に何度か聞いたことのある名前だ。その位はこの国でもかなり上位だと聞く。では、目の前にいる少女はそのご令嬢と言うことだろう。
「....あ!紅茶なくなりましたね。すぐにお代わり用意します。肩凝ってませんか?ほぐしますよ。」
「結構です。」
「変わり身早いね。」
地中に埋まった巨大な遺跡の中を、三人の男女が歩き、奥へと進んでいく。ルナ嬢に頼まれた新種の調査は難航していた。渡された構造図を見ながら、かれこれ遺跡の中を二時間探索しているが、目的のモンスターは一向に見つからない。
「はあぁぁぁぁーー。」
アラタは不満げに大きなため息を上げる。
遺跡探索を始めてから、新車ではなくともモンスター自体には幾度か遭遇している。
「....!来た!モンスター!お前ら手ェ出すなよ!」
ベチャン!
進行方向先の曲がり角からヘドロのような不定形のモンスター現れる。
「....おい。確かコイツって。」
「うん。ドロヘドロ。火属性以外の攻撃は全部無効化されるよ。」
「じゃあ積んでるじゃねぇか!!」
「それアンタだけよ。」
「邪魔だから下がってて。」
ビュッ!!
モンスターは体の一部であるヘドロを高圧の水鉄砲のように射出する。
その攻撃を三人は散開し、難なく避けた。
リンは手を前に出し、魔力を集中させる。するとその掌に魔法陣が描かれ始める。
次の瞬間、その魔法陣から巨大な炎が姿を現す。
「”紅毒鳥”。やれ。」
発現した炎はその形を大きな鳥へと変化させる。キィィィ、と言う鳴き声と同時にその火の鳥は標的に向かい猛スピードで突撃する。
ザシュッッ!!
紅毒鳥の鋭い鉤爪がモンスターの体の一部を切り裂く。モンスターの体はそれによってパックリと大きく裂けるが、すぐにその裂け目は塞がり、元の姿へと戻る。
一見無意味な攻撃に見えたが、今の一撃でモンスターの命運は尽きた。モンスターの体表が斜め一直線に赤く変色する。その部分がグツグツと煮えたぎり、高熱を発し、まるで毒のように全身へと広がっていく。最後にはモンスターの灰すら残らず燃え尽きた。
「よくやった。戻れ。」
その言葉で紅毒鳥はリンの元へと戻り、周りを一周した後に光の粒子となってリンの掌に吸い込まれていく。
「便利だなぁ。お前の”魔操術”。」
“魔操術”。読んで字の如く、魔物、つまりモンスターを操り、従わせる魔術。使用できる者はかなり限られている。
「そこまでの物ではない。無条件で従わせる訳でもないし、普段戦うモンスターとパートナーとして向き合わなくちゃならない。」
「ふーん。まあその辺は使用者本人じゃなきゃ分からんな。....オォ!次のモンスターが来たぞ今度こそ俺が——」
「オッケー。」
進行通路先を見ると、俺たちより少し大きい程の二足歩行の大トカゲが、口から涎を垂らしながらこっちに向かって走ってくる。
レイラは肩にかけたポーチから何か瓶のような物を取り出し、すかさずモンスターに向かって投げつけた。
「アァ!オイテメェ!」
投げつけた瓶は空中で不自然に割れ、中から無数の黒いスポンジのような小さな玉が飛び出す。それが宙に散乱してる中、構わず大トカゲはドタドタ向かってくる。そしてその小型のスポンジの雨のにちょうど差し掛かった時。
「えぐれ。」
その物騒な言葉と同時に彼女は自分の指をパチンッと鳴らす。すると。
グサっ!グニャッ!グチャッ!
宙にばら撒かれた球体が突如姿を変え、巨大な杭となって大トカゲの身体を容赦なく全方向から串刺しにする。
あれは彼女の発明品だ。彼女は体術や魔術を扱うよりも魔道具の製作、使用に長けている。
「いっちょ上がり。」
「うわっ!グッロ!」
「テメェなに人の出番取ってんだ!!」
「すっとろいのが悪いのよ。」
「実戦績は成績に大きくプラスされるんだ!等級昇格の判断材料にもなるんだぞ!それなのに俺はまだ一匹もモンスターを倒していない!」
「分かったよ。次遭遇したモンスターは君に任せるよ。それでいいだろ?」
「とは言っても....。」
レイラは遺跡の構造図を確認する。
「もうすぐ行き止まりよ?」
歩き出して数時間。既に遺跡の最深部に到達するところ直前。アラタはどうにかモンスターが出現することを願っていた。
「あ!!」
通路の角を曲がった時、モンスターはいた。淡い蒼色の毛並みをした、いたちのような目の赤い動物。自分の毛並みを舐め、熱心に毛繕いをしている。
「....なあ。あれって。」
「ああ。”新種”だ。先に調査した人が描いた絵の特徴と一致する。」
「....捕獲するわよ。」
目の前のモンスターを捕獲する為、俺たちは気付かれないようにジリジリと距離を縮めていく。
「キュウ!!?」
しかしモンスターは三人の存在に気付き、一目散に奥の方へと逃げていった。
「あ!コラ待て!」
「なにあいつ速っ!!」
「スピードで俺に勝てると思うなよ!!」
モンスターを追って三人は遺跡の更に奥へと進んでいく。長い長い通路を抜けると、そこは少し広い広間だった。部屋の中央には何やら魔法陣が描かれている。
さっきのモンスターはどこにも見当たらない。
「チィッ!見失った!!」
「でもここが最深部よ。」
「ああ。何処かの影や隙間に隠れているのかもしれない。探そう。」
部屋の探索をする為、リンとレイラの二人は部屋の中央、魔法陣の方へと向かう。それを追い、アラタも部屋の中央へと歩き、ちょうど二人が魔法陣の上に立っているタイミングでアラタもそれに足を踏み入れた。すると。
「ッ!?なんだぁっ!!?」
「ちょ!何したのアンタ!?」
突如魔法陣は眩い光を放つ。視界が真っ白になり、思わず全員が目を瞑る。数秒後、何か感覚としての違和感を感じる。三人は恐る恐る目を開ける。そこには。
「...なんだ....これ....?」
そこは先程までいた石造りの遺跡の一室ではなかった。
壮大な緑溢れる大森林。木の高さは見上げてもその先がハッキリと視認できない。それほどの高さと周りに生茂る緑の存在。
三人は思わず息を呑んだ。これ程の自然は滅多に見ることが出来ないからだ。見渡す限り強く主張される生命力に感動すら覚えている。
しかし、ただ一人それとは別の感覚を持つ者がいる。アラタだ。彼はこの場に驚き、感動はすれど、困惑や不安の感情は一切湧き出ることはなかった。
今の彼の感情はまだ言葉にすることが出来ない。ただただ何かを感じる。その感覚の表現を限界まで削ぎ落とし、なんとか言語化するならば、それは「懐かしい」と言ったものだった。もちろん、彼はこの場所に今日初めて来た。
「....事前情報にはこんな場所なかったよな。調査員が見つけられなかったのか?」
「分からない....。しかしすごいな。ここで読書をすればどれだけ心地いいだろう。」
ザッ
彼らの後方から草むらを歩く足音がなる。それに反応して三人は一斉に振り返る。
鎧を着たような、見るからに硬い皮膚に覆われた人型のモンスターがそこに立っていた。頭部も金属ヘルメットを付けたような見た目をしており、その隙間から紅い眼光を輝かせている。
何よりも不気味なのが、その体色が黒一辺に覆われていることだ。一言で言うならばまさに闇騎士だ。初めて見ればアンデットかを疑うほどの禍々しさは、この生茂る生命の大地にはあまりにも不釣り合いだ。
「....ナゼ...ココニハイッテコレルノハ....デハ..マサカ....」
見たところ口のような器官は見受けられないが、その闇騎士はカタコトながらも人語を発した。
「....タシカメヨウ..」
闇騎士が右足を前に出すと、そこから影が地面にズズッと浮き上がる。すると、その影の中から剣柄が姿を現し、闇騎士がそれを持ち、引っ張ると、これまた使用者に負けず劣らずの禍々しい剣が全貌を明らかにする。
「....なあ。」
その一連の動作を身終えると、アラタは二人の方に振り返り、口を開く。
「今度一緒にここで講義をサボらないか?菓子や茶を用意して、みんなで駄弁ろう。」
明らかな強敵を目の前にして出た言葉は、そんな日常で聞くような下らない言葉だった。しかし、それを聞いた二人は。
「...別に構わない。必要な成績は既に取得している。一度サボるぐらい問題ないだろう。」
「一年生も連れてきましょう。今海外にいる三年生にも教えてあげないと。」
何も違和感なく会話を繋げていく。彼らにとってはこの程度の場面は何度も経験済みだ。
「だが生憎俺は今成績がギリギリだ。余裕を持つためには結果を出さなくてはならない。例えば強いモンスターを倒すとか。」
「人語を話すことができ、感じ取れる魔力量から予想するに、危険度B以上は確定だろう。」
「経験済みだ。単独でな。さて。」
アラタは闇騎士の方へと振り返り、ある程度の位置まで近づいて立ち止まる。
そして両者構える。
これから繰り広げられる戦闘に備えて。
「お前を倒せば何日サボれる?」
「....オマエノチカラ...ミセテミロ!」
戦闘開始。




