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世界の風上 その中で  作者: イクラ太郎
第一章 平和なひととき
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第一話 任務 その内容

『おはよう人間諸君。私は魔王。』


 先程まで晴天だった青空は突然漆黒に染まり、町の上空に男の姿が大きく映し出された。一、二回の咳払いの末、彼は高らかな声を上げ,宣言する。


『私は、貴方達人間を支配する事をここに宣言する。覚えているかな?そう、70年の時を経て、魔王は復活した。』


 その言葉を聞いた民衆は一斉に響めき、70年前という悲劇を口にされた途端、空気はドッと重くなる。


『歴史を繰り返しはしない。私は新しき事象を世界の1ページに刻み込む。』


 男は口角を大きく歪ませる。


『諸君らの健闘に期待しよう。それでは——』


「....」


 映像が消え、空の色は元の澄んだ青色に戻る。辺りは静寂に包まれる。だがその間も長くは保たず、次第に周囲の人々が騒ぎ出す。

 一人の青年は冷めた表情で虚空を眺めていた。さっき市場で買った林檎は知らぬ間に半分程になっていた。おそらく自分で食べたのだろうが、口の中には味の情報が全く残っていなかった。


————1週間前————


 教室の入り口を通り抜け、いつもの教室後方の彼の指定席に着く。

 

 彼の名前はアラタ=リ・エアデヴァルト。ここレクスダント学園高等部の二年生だ。身長は百七十後半程で、切り揃えられていないボサボサな青髪と、エメラルドの様な緑の目が特徴的だ。


 鞄から教科書を取り出して昨日の講義がどこまで進んだかを確認していると、教室に入ってきた身長百九十近くはある長身の男がそのアラタに向かって歩いてくる。そしてその前の席に座る。


「おはよう。今日はサボってないようだね。アラタ。」


「ああ。最近流石に危機感を持ち始めたよ。」


「ならなんで昨日休んだ?」


「寝坊。」


 この男の名前はリングウォーツ=エルライト。長いためアラタはリンと呼んでいる。アラタは2年からこの学園に転校してきた。その時最初にできた友がリンだ。


「先生怒ってたよ。このままだと落第しかねないって。また転校するのは嫌だろ?」


「言うな。それにあの学校は俺自ら見限ったんだ。」


 そんな事を話しているとガラガラと教室の扉が開く。そこからガタイの良い、顔に大きな傷のあるサングラスをかけた男が入ってくる。こんな見た目でも彼はここの教員だ。


「はい先に着けー!チンタラするな!」


 その声で立ち歩いていた者、お喋りをしていた者が一斉に席に座り出す。

 その教員は出席を取らずに教科書のページをいきなり指定し、解説をしながら黒板に内容を纏めていく。


「えーここの問題。そうだなじゃあウォルソン。こっちきて解いてみろ。」


 名前を言ってその名前の生徒に問題を解くように指示するが、誰も立ち上がろうとはしない。


「おい!聞こえなかったのか?お前だお前!早くこっちきてこの問題解いてみろ。」


「.......いや、僕ウォルソンじゃなくてマリックです。」


「ん?そうかすまんな。まだ生徒の顔と名前が一致してないんだ。人のことを覚えるのは苦手だからな。」


「いや、そもそもこのクラスにウォルソンなんて名前の人はいません。一致してないどころか新しく生徒作り出してますよ。」


「うるせぇなぁ。じゃああれだマルッコ!今日からお前の名前は俺の講義の時だけウォルソンだ。よろしくなウォルソン。」


 急で身勝手な無茶振りにマリックもとい今日からウォルソンと名付けられた生徒は戸惑う。そんなことはお構い無しと言わんばかりに、彼は授業を進める


「マジかアイツ。」 


「あの歳でボケたのかな?ああいうのは前触れなく突然くるものだから怖いね。」


 などとアラタとリンはコソコソ話をし,アラタは紙に落書きでもしながら講義の内容を聞き流しているうちに今日の分の講義は終了する。


「この後どっか行く?」


「市場近くに新しいカフェがオープンしたらしい。結構女子とかに話題になってるし行ってみないかい?」


「オーケー決まり。」

 

 この後の予定を話しながら席を立ち、教室を出て行こうとすると、今日の最初の講義で生徒の名前を新しく命名した教員、ダラマン=ギャラハットが教室に入りアラタ達二人を呼び止める。


「アラタ=リ・エアデヴァルト!リングウォーツ=エルライト!話がある。ついて来い。」


「ゲッ!まさか説教か?」


「君だけならわかるけど、僕は成績も素行も優秀だよ。だから多分。」


 リンは自分たちが呼ばれた理由を察したようだ。アラタもその数秒後に「あー」と納得する。だがどのみち彼にとって面倒くさい事には変わらない。


「せんせー!アラタくんなら今日休みです!とても大事な用事があると言っていました!!」


「そうかアラタ。それは大変だな早く来い。あまり教師を舐めるなよ。」


 「何故俺の顔と名前は覚えているんだ。」とアラタはブツブツと文句を言いながらも、観念して項垂れながらギャラハットの行く先に着いていく。


————


 向かった先は学長室だった。中に入ると学長は正面の席ではなく、客用のソファーに腰掛けていた。その横と正面のソファーには一人ずつ少女が腰掛けていた。

 

 学長の正面に座っている少女。

 少しピンク混じりの銀髪と、青紫色の目。その服装は明らかに庶民のものでは無い高価な物なのは一目瞭然だ。少し幼さが残るその顔つきは、さながらどこかの貴族のお嬢様といったところだ。

 この学園では見かけたことがないため、恐らく彼女は客であり、今回の『依頼人』だろう。

 

 アラタはこの顔をどこかで見たことがあるような気がするが思い出せない。


 そしてもう一人。学長の横に座り、出された紅茶を優雅に啜っている少女。この少女の顔を二人はよく知っている。

 レイラ=ローレライ。少し赤い茶髪がトレードマークの、アラタ達と同じ、レクスダント学園高等部の二年生。そして、アラタ達と同じ『班』。


「あーあぁ。三人揃っちまったよ。こりゃ確定だわ。」


「まあ、学長室に呼ばれた時点でわかっていた事だ。」


「アラタ。文句を言うな。それでは私はこれで失礼します。」


「ああ。ありがとうギャラハットくん。」


 ギャラハットは一礼して部屋を出ていく。それを見送ったアラタはレイラに話しかける。

 

「レイラ。お前学園に来てたんだな。講義には出てなかったみたいだけど。」


「私は今日の講義は午後からなの。だからさっきまで友達とカフェに行ってたの。」


「それってこの前オープンした例の所かい?」


「そうだけど。」


「どうだった?僕たちも行ってみようとさっき話していたんだけど。」


「うーん.......まあ悪くはなかったかな。ただそんなに話題になる程の店でもなかったわよ。良くも悪くも普通な感じ。」


 などと客の前で世間話をし始める生徒三人に、学長が口を挟む。


「君たち。無駄話は後にしてくれないかい?今大切なお客さんの前なのだよ。」


 学長に諭されてアラタ達は黙り、仕方なく本題に入る。

 席は謎の少女とレイラが入れ替わり、俺たちはレイラの横に座る。


「まずは紹介から。この方はルナ=ガルドバインさん。」


 学長の紹介に続いて、そのルナと呼ばれる少女が頭を下げ、自己紹介をする。


「ルナ=ガルドバインです。よろしくお願いします。」


「.......ルナ.....ガルドバイン!?」


 リンがその名前を聞いて反応する。アラタもこのどこかで見た少女の正体を思い出した様だ。


「ルナ=ガルド....あー!知ってるぜ!!あれだろ!!17歳でモンスターの研究学会で賞を受賞し———」


ガツンッ!!!


 ルナに指を指して自分の知識をひけらかすアラタをリンが殴り、黙らせる。


「申し遅れました。私はリングウォーツ=エルライトと申します。以後お見知り置きを。」


「先程も申しましたが、レイラ=ローレライと申します。よろしくお願いします。」


「..........?アラタ=リ・エアデヴァルト。.......よろしく。」


「こちらこそ宜しくお願いします。」


 状況をいまいち把握していないアラタを差し置いて、学長が話は進める。


「君たちを読んだのは他でもない。”任務”だ。君たちにはある遺跡の調査を頼みたい。」


「調査?」


「はい。私自らが説明します。」


 ルナ=ガルドバインは横に掛けていたバックから、縦横に一本ずつの溝が入り、中央に水晶が埋め込まれた縦横七センチほどの石を取り出す。

 取り出した石をアラタたちの前に出し、水晶の部分にそっと手をかざした。すると、その部分が淡く光り、何かの建物の構造のような立体映像が宙に映し出される。


「これは、先日新たに発見された遺跡です。既に調査は行われていますが、その過程でとても興味深いことが分かりました。」


「...興味深いこと?」


「はい。この遺跡には、今まで発見されなかった新種のモンスターが存在します。」



 一部の記述が間違っていたので訂正しました。

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