第17話 【イン・ザ・女子風呂】 4
鼻の奥を引っかかれるような感覚、まずい鼻血だ!
新太はすぐさまその前兆を感じ取ると、右手で顔を覆った。ただでさえ目立ちたくないこの状況で、鼻血など出してしまえばもうジ・エンドだ。
なるべく穏便に、何事もなく担任である桐生萌花に智也の様態が無事であることを報告し、素早く入浴して立ち去る、というのが今回のミッションなのである。
「アイリス、ちょ、ちょっと止まってくれる?」
これ以上に左手を引っ張られ続けて移動すれば鮮血が垂れてしまう寸前のところで、新太はアリスに静止をかける。
「なぜ?」
一瞬、怪訝そうな顔でアイリスは新太の顔をのぞき込み、状況を察した。そしてーー
「……進もう」
「いやなぜ進む!? この状況で鬼畜なの!?」
「着替える場所までもう少し、それまで我慢」
新太の手を握っていない方の手でアイリスはいくつものロッカーが並んでいる場所を指さした。
「はぁ、わかったよ……」
なくなく了承し、新太はなんとか血を垂らすのをこらえ、ようやくロッカー前にたどり着いた。
するとなにやら思いついたかのように、アイリスが尋ねる。
「鼻血に、回復魔法を使えばいいんじゃない?」
模擬決闘での絶望的な状況を一変させるほどの回復魔法を使えるのならば、鼻血を止めるくらい容易なはずだろう、という考えだ。
回復魔法では未だ授業でも指導がなく、アイリスにとってみればなぜアレほどの回復魔法を『騎士アリス』が使用したのか疑問でしかなかった。
試すような瞳が新太を見つめている。
「なるほど、その手があったのか。ちょっとやってみるよ」
気づかされ、新太は【光矢】を使った時の手順を思い起こす。
想像。
使用したい回復魔法を思考し、それを自分の中で抽象的なものから、より具体的なものへとする……。
(今俺が使いたいのは、止血をする魔法。部位は顔。血が止まる……血が止まって、傷口も癒えてなくなる……!)
「属性選択、戦闘能。使用するのは、【癒傷】……!」
自信なさげに新太はそうつぶやく。
だが、すぐさま鼻奥の切れたような痛みはなくなり、滴りかけていた鮮血もするすると新太の身体へ吸い込まれていった。
(なっ、やはりすごいわ……)
わかっているとは言え、アイリスは面食らった。もはや、『騎士アリス』という存在が面白くてたまらない。




