1 始まりの影 プロローグ
その日、私は友人とショッピングモールに来ていたと思う。
目的は、春から使う小物入れと少し大人びた服を見ることだった。
高校生活の終わりが近づいているせいか、みんなはいつもより少し浮かれていて、私もそんな雰囲気につられていたかもしれない。
やっと、学生服の透けるブラウスから解放され、好きな服が着られる。
3年間いつも不思議だった。品性があるようで無いような、ギリギリなデザイン。「これ透けてますよね?」 と聞けば 「そんな事は無い」 と教師から返答が来る。
席の後ろの品が無い男子は、私の背中を視線で穴でも開ける気だったのだろうかと、そんな野蛮な男子の話で友人と盛り上がっていたと思う。
そして買い物も終わり、友人たちと別れた後だった。
昼に飲んだタピオカLサイズが悪かったのだろうか、大きなアイスとパンケーキが効いた?
それとも、大盛ナポリタンとメロンソーダの組み合わせがお腹をノックしているのか。
お腹が痛くなったのを覚えている。
これは、アレです。令嬢にあるまじき事態だ。
冷えた物を調子に乗って、やってしまった。
トイレは空いている所を選びたいので、上階の人のいないエリアに行きたかった。
――用を済ませ、ほっと息をついたその瞬間、スマホが震える。
いやな警告音だ。これは地震速報か。体がビクリと跳ねた。
影の出現よりも地震の方が怖いなんて。
瞬間、足元がグラリと揺れる。
それで終わった。
大きな地震ではなくてよかった。でも、トイレの外で何かが落ちた大きな音がした。
また余震があるかもしれないし、外に出よう。
そう思った瞬間。やわらかい癒し系のアラーム音が流れ、同時に館内放送でもチャイムが流れる。
『影の出現予報が発令されました』
スマホと館内から同じ音声が流れる。
地震との重なりに少し恐怖を覚えた。
『約10分後、当施設周辺に影猟奇の出現が予測されています。対象範囲は300m、中規模と予測されています。慌てず気分が軽くなる方へお進みください。屋外ではスマートフォン、赤色誘導の案内に従ってください』
影、こんなタイミングで影か。いかなくちゃ。
こんな事は避難訓練でよくやるし、都会に住んでいれば毎日のようにどこかに出現する。
ただ、スマホの誘導と気分の状態を感じて少し歩くだけだ。
本当に用が終わった後で良かった。
さっきのお腹の状態で、地震と影が同時に来ていたら10分で出られるわけがない。
自尊心と脱出を天秤にかける事になるんじゃないかな。淑女としての人生は終了だ。
そんな事を考え、品が無いと感じ恥じながらトイレから出た。
・・・あれ、防火扉シャッターが閉まっている。
地震の揺れで作動したのだろうか。
緑の出口表示がぼんやりと光っているが、通路はふさがれている。
当然、私は隣の鉄扉に手をかける。
「うん? あれ? 開くはずだよね?」
開かない? 力が足りないかな?
いや、開かない。びくともしない。何かが向こう側で引っかかっている感触がある。
もう一度全力で押すが、とても開きそうにない。
ウソ?
鳥肌が立つのを感じる。
でも落ち着いて、慌ててもいいことが無い。避難訓練でもゲームでもそう。
影の出現は身近に起る、最善の避難ルートは影出現前まで確認できる。
スマホを取り出してみるが、この施設から出なければ意味がない。
トイレの窓から助けを呼べないか。
即座に戻って確認をする。小さな窓が見えるが、鉄格子がはまっていて人が通れる大きさではない。
考えればここは上階だ、避難している人に声が届くかどうかわからない。
「あれ、これまずいよね」
今この状態で緊急通報に電話をかけても時間内にどうにかなるか怪しい。
まだ時間はある。影領域が展開されても10分から20分は安全だ。
そう習っている。
助けを呼び、誰かに気づいてもらわなければ!
防火扉の前で私は、叫ぶ 「誰かいませんか! 扉が開かないんです! 助けてください!」
扉を力の限り叩き、叫び続ける。
まだ時間に余裕があるはずだ。避難中の人がいるかもしれない、係員だって確認に来るはずだ!
でも、返事はなかった。
代わりに黒い帳が幕を下ろす。
照明の光が弱くなり、全てが墨を垂らしたように世界が変る。
スマホの画面から電波の表示が消えてしまった。
圏外。
影領域が展開されたのだ。
そして本能が告げている、ここは人の居る場所ではなくなった。と。
!! もう時間がない、早く逃げないと!
耐性や覚醒の無い人間は、15分から20分で症状が出はじめる。
記憶の欠落、激しい頭痛、そして平衡感覚の喪失。
有名なにっこり動画配信者はこれを 「観測力の欠如」 と表現していたか。
最後は自我の喪失、それ以上、領域内にとどまり続ければ。
〇ぬ。
・・・? あれ? 私、〇ぬの?
そんなわけがないよ、ただ卒業式後に合わせて友達と買い物に来ただけじゃん。〇ぬわけが無いって。
ここが開けば全て間に合うって。
そして、逃げればいい。扉を開けて外に出て、赤色灯にしたがって気分が軽くなる方へ進めばいい。
それだけじゃん。
痛みを気にしている場合じゃない、肩ごと鉄扉に打ちつける。
何度も、何度も。
肩の感触が無くなった時、少しだけ扉がキィィと鳴った。
「動いた! お願い、もう少しだけ動いて!」
腕が青く腫れている、服か破けているのも気にしていられない。
時間がない!
上品に、淑女に、品性を。
そんな風に育てられてきた、それは正しいと思う。
この理性を吹き飛ばすこの状況は本当に現実なのか。
・・・うん?
今日はどうして私はここにいてこんな状況になっているんだっけ。
ちがう! これは記憶の欠落が始まっているのか 「あああああああっ! 動いてよぉおおおおお!!」
「私、〇にたくない! お父さん! お母さん! 神様! 誰か!」
・・・、黒の幕が私をゆっくりとさえぎった。
お開き下さりましてありがとうございます。
更新は週2回頑張りますか。消耗する犠牲、ハートとヒートを使いましょう。
そして伝えてみたい事をなろう風に書きます。
筆をおく前にもう一度ぐらい貴方様に面白いと言って頂こうと思います。
もぎ取った、ランカーの力を見るといいです。




