第9話 朝のホームルームが地獄になった件
翌朝。
修二は重い足取りで学校へ向かっていた。
「……行きたくねぇ……」
昨夜のことを思い出す。
悪魔との同居。
天使の編入宣言。
しかも二人ともオカ研へ入部予定。
意味が分からない。
頭がおかしくなりそうだった。
「黒崎さん、
待ってくださいよぉ~!」
後ろから聞こえてきた声に、修二は肩をびくっと震わせる。
振り向く。
そこには制服姿のルルミアがいた。
「……うわ」
「うわってなんですかぁ!?」
ルルミアはぷんすか怒る。
だが。
正直、驚くのも無理はなかった。
黒髪――いや、よく見ると紫がかった長い髪。
小柄な体。
ぱっちりした瞳。
制服姿になると、普通に美少女だった。
なお角と羽は消えている。
「変装魔術ですぅ♪
人間には普通の女の子に見えてます」
「いや十分普通じゃねぇよ……」
通学中の男子たちがちらちら見ている。
「誰あれ?」
「めっちゃ可愛くね?」
「転校生?」
ひそひそ声が飛ぶ。
修二は頭を抱えた。
「目立つなぁ……」
「えへへ♪」
ルルミアは悪気なく笑う。
その時だった。
「おはようございます♪」
後ろから、さらに澄んだ声が聞こえた。
「げっ」
修二が振り向く。
そこにはセラフィナが立っていた。
白銀の長髪。
透き通るような肌。
姿勢まで完璧。
制服姿なのに、妙に神々しい。
周囲の空気が変わる。
「えっ」
「うそ」
「なにあの人……」
通学路がざわついた。
男子だけではない。
女子まで見惚れている。
セラフィナは優雅に微笑んだ。
「本日より、
同じ学校へ通わせていただきます♪」
「その言い方やめろ」
「監視契約の一環ですので」
「朝から胃が痛ぇ……」
ルルミアがむっとする。
「なんで朝から一緒なんですかぁ」
「監視対象の通学確認です♪」
「絶対それだけじゃないですよねぇ!?」
修二は深くため息をついた。
学校へ着く前から、
もう帰りたかった。
◇
「……で、
今日は転入生を紹介する」
一時間目前のホームルーム。
担任の一言で、教室がざわついた。
「転入生!?」
「この時期に?」
「男?女?」
修二は机へ突っ伏していた。
知っている。
知っているが。
現実逃避したかった。
「入ってくれ」
教室の扉が開く。
まず入ってきたのはルルミアだった。
「ひっ……」
分かりやすく緊張している。
クラス中の視線が集中した。
男子が固まる。
「かわい……」
「黒髪めっちゃ綺麗……」
「やば……」
ルルミアは黒板の前でぺこりと頭を下げた。
「る、ルルミ……じゃなかった!」
いきなり危ない。
教室がざわつく。
「る、ルル瀬るみあですぅ!」
絶対とっさに決めた偽名だろ。
修二は頭を抱えた。
「よ、よろしくお願いしますぅ……」
ぺこり。
男子の空気が一瞬で柔らかくなる。
「かわいい……」
「噛んだ」
「なんか小動物っぽい」
女子側からも、
「めっちゃ緊張してる」
「可愛くない?」
と好意的な声が漏れていた。
ルルミアはおどおどしながら修二の方を見る。
助けを求めるな。
その直後。
「続いてもう一人だ」
教室の空気が変わった。
セラフィナが入ってきた瞬間、
空気が止まる。
静寂。
ガチで静まり返った。
修二は思った。
あ、これダメなやつだ。
セラフィナは教壇前へ立ち、完璧な微笑みを浮かべた。
「セラフィナ・――失礼。
白城セラです♪」
名前修正した。
「本日より、
皆様とご一緒させていただきます」
声が綺麗すぎる。
姿勢も完璧。
笑顔も完璧。
男子が完全停止していた。
「えっ……」
「女神?」
「芸能人?」
女子ですら見惚れている。
担任が咳払いした。
「二人とも海外生活が長かったそうだ。
仲良くしてやれよ」
どんな設定だ。
修二はもうツッコむ気力もなかった。
すると担任が続ける。
「席だが――」
嫌な予感。
「ルル瀬は黒崎の隣、
白城はその後ろな」
教室がざわついた。
「は?」
「黒崎?」
「なんで?」
修二は静かに天井を見上げた。
終わった。
学校生活が終わった。
ルルミアは嬉しそうに小走りでやって来る。
「よろしくお願いしますぅ♪」
その勢いで、机へ太ももをぶつけた。
「いたぁっ!?」
「初日からドジるな!!」
教室から笑いが漏れる。
その後ろへ、
セラフィナが優雅に座った。
「今後ともよろしくお願いします♪
監視対象様」
「学校でその呼び方やめろ!!」
クラスがざわつく。
「監視対象?」
「なにそれ?」
修二は机へ突っ伏した。
始まった。
絶対、
ろくでもない学校生活が始まった。




