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第8話 悪魔、居候になる

「俺の人生、

 どこで間違えたんだ……」

 修二はベッドへ倒れ込んだ。

 その横では、ルルミアが正座して小さくなっている。

「す、すみません……

 ご迷惑を……」

「いやお前……

 悪いのはたぶん鬼塚部長だろ」

「鬼塚部長ですぅ……」

 ルルミアはしょんぼり肩を落とした。

 修二はちらりと時計を見る。

 時刻はすでに夜十一時を回っていた。

 数日前まで。

 自分は、廃部寸前のオカ研で、一人くだらないオカルト話をしていた普通の高校生だった。

 それが今はどうだ。

 悪魔と契約し。

 天使に監視され。

 しかも。

 悪魔が居候しようとしている。

「……で、

 お前どこで寝るんだよ」

「えっ」

 ルルミアが固まる。

「いや、

 住むなら寝る場所いるだろ」

「そ、そうでしたぁ……」

 今気づいたみたいな顔をするな。

 修二は狭いワンルームを見回した。

 ベッドは一つ。

 床には本やゲーム、学校のプリントが散乱している。

 まともに寝られそうな場所はほとんどない。

「……俺が床で寝るか」

「そ、それはダメですぅ!」

「なんで」

「契約者様に風邪引かれたら、

 評価に響くのでぇ!」

「完全に仕事目線!」

 ルルミアは慌てて手を振った。

「だ、大丈夫です!

 悪魔はどこでも寝れますので!」

 そう言って、床へちょこんと座る。

 小さな羽がぱたぱた揺れた。

「……ほんとか?」

「はいぃ!」

 数秒後。

「か、硬いですぅ……」

「だろうな!!」

 結局。

 修二は押し入れから毛布を引っ張り出し、床へ敷いてやった。

「ありがとうございますぅ……」

 ルルミアは嬉しそうに毛布へくるまる。

 その様子は、悪魔というより小動物だった。

「…………」

 修二は妙な気分になる。

 悪魔と同居。

 普通ならホラー映画の導入だ。

 なのに。

 まったく怖くない。

「なぁ」

「はい?」

「お前、

 ほんとに明日から学校来るのか?」

「はいぃ!」

 ルルミアは元気よく頷いた。

「地獄人間界滞在課から、

 編入許可も出ましたしぃ」

「仕事早ぇな地獄……」

「戸籍、

 学生記録、

 転校履歴も生成済みですぅ!」

「怖ぇよ!!」

 さらにルルミアは胸を張る。

「しかもぉ!」

「まだあるのか」

「わたし、

 オカ研に正式入部予定ですぅ!」

「予定っていうか、

 ほぼ強制加入だろ……」

「だって部員足りないんですよね?」

「まぁ……」

 現在、オカ研は修二一人。

 学校側からは、来年の新歓終了時点で部員五人を満たせなければ廃部だと言われている。

 つまり。

 ルルミアの加入は、普通にありがたかった。

「それに」

 ルルミアは少し嬉しそうに笑った。

「本物の悪魔がいるオカ研って、

 なんかすごくないですかぁ?」

「まぁ……

 名前負けはしてないな」

 その時だった。

 突然、部屋が光に包まれた。

 白い羽が舞う。

 そして。

「失礼します♪」

 セラフィナが当然のような顔で立っていた。

「また来たのかよ!?」

 修二が叫ぶ。

 セラフィナは室内を見回し、小さくため息をついた。

「……なるほど。

 まだ同居継続中でしたか」

「“継続中”って言うな!」

「クーリングオフ期間中ですので、

 仕方ありませんが」

 セラフィナはじろりとルルミアを見る。

「ですが、

 少しは警戒心を持ちなさい」

「うぅ……」

「男子高校生との同居ですよ?」

「おい」

 セラフィナは真顔だった。

「黒崎様が危険人物という意味ではありません」

「フォローになってねぇ!」

「ですが、

 若年男性と同居する際は、

 一定の警戒が必要です」

 ルルミアは真っ赤になった。

「わ、わたし……

 男の人とこんな近くで暮らすの、

 初めてですぅ……」

「お、おう……」

 逆に修二が困る。

「だから、

 その……

 やさしくお願いしますぅ……」

 そう言って、ルルミアは両手を頬へ当て、顔を真っ赤にした。

「やさしくってなんだよ!!」

「ふぇっ!?」

「なんでその言い方なんだよ!!」

 セラフィナが深いため息をつく。

「地獄、

 本当に教育どうなってるんですか……」

「あなたにだけは言われたくないですぅ!」

 しばらく、ぎゃあぎゃあと騒いだあと。

 セラフィナは小さく咳払いした。

「……まぁ、

 本契約後六ヶ月以内の、

 一時居住措置として今回は黙認します」

「無駄に法的だなぁ」

「ですが」

 セラフィナはじろりと修二を見る。

「黒崎様」

「はい?」

「もし変なことをした場合、

 天使界側でも即座に感知可能ですので♪」

「感知?」

 セラフィナはさらりと言った。

「以前ご説明した精神波ですね」

「あぁ、

 オーラとか言ってたやつか」

「はい♪

 特に男子高校生特有の欲望波は、

 非常に分かりやすいので」

「欲望波って言うな!!」

 セラフィナは真顔だった。

「異性へ強い感情を抱いた際、

 波長が急激に乱れます」

「やめろ説明するな!!」

「例えば」

 セラフィナが淡々と指を折る。

「“かわいい”と思った時」

「うっ」

「着替えを見た時」

「うぐっ」

「胸を意識した時」

「具体例やめろ!!」

「その際、

 天使界側へ高出力反応が届きますので」

「嫌すぎるだろそのシステム!!」

「一定値を超えた場合、

 私が現地確認へ向かいます♪」

「来るなぁ!!」

 ルルミアは顔を真っ赤にしながら羽をばたばたさせた。

「せ、セラフィナさん!

 もっとオブラートに包んでくださいよぉ!」

「必要な説明です♪」

「必要でも言い方ってものがあるだろ!!」

 セラフィナは何事もなかったように続ける。

「それと」

「ん?」

「私も明日から同じ高校へ編入しますので」

「は?」

「監視契約の一環です♪」

「監視だけで編入してくるな!!」

「学校内観測が最も合理的ですので」

「合理的で人生決めるな!!」

 セラフィナは当然のように続けた。

「なお、

 オカルト研究部へも所属予定です♪」

「お前もかよ!!」

「監視対象の近くで活動した方が効率的です」

「絶対ちょっと面白がってるだろ!」

 セラフィナは微笑んだまま否定しなかった。

 修二は頭を抱える。

 オカ研。

 廃部寸前だった、一人だけの部活。

 なのに今。

 悪魔と天使が、当たり前みたいな顔で入部しようとしている。

 意味が分からない。

 でも。

 少しだけ。

 ほんの少しだけ。

 オカ研っぽくなってきた気もした。

「ではまた明日、

 学校で♪」

「学校って言うなまだ慣れてねぇ!」

 セラフィナは優雅に笑うと、そのまま光の中へ消えた。

 静寂。

「…………」

「…………」

 数十分後。

「なんで俺が床なんだよ……」

 修二は毛布へくるまりながら呟いた。

 唯一のベッドでは。

「すぅ……

 すぅ……」

 ルルミアが気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 修二のベッドを完全占領して。

「普通逆だろ……」

 だが。

 起こすのも少し気が引けた。

 ルルミアは羽を小さく揺らしながら、幸せそうな顔で眠っている。

「……完全にくつろいでるな」

 悪魔なのに。

 警戒心というものがないのか。

 その時だった。

「んぅ……」

 ルルミアが寝返りを打つ。

 毛布がずり落ち、

 ルルミアの生足が見えた。

「うおっ!?」

 修二は慌てて視線を逸らす。

「……だから無防備すぎるだろ……」

 その瞬間だった。

 ぴかっ。

 部屋が一瞬だけ白く光る。

 そして、どこからともなくセラフィナの声が響いた。

『いま、波動感知しましたよ♪』

「うぉぉっ!?」

『くれぐれも、

 早まらないようお願いします』

「なんなんだよその監視システム!!」

 どうやら今回は、

 声だけの警告らしい。

 ルルミアはそんなことも知らず、

 すやすや眠っている。

「……はぁ」

 修二は天井を見上げた。

 明日から。

 学校へ行けば。

 そこには。

 悪魔と天使がいる。

 しかも。

 オカ研の部員として。

「……絶対、

 ろくなことにならねぇ……」

 だが。

 不思議と悪い気分ではなかった。


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