第10話 超能力サブスクと時間巻き戻し案件
転入騒動から数日。
ルルミアとセラフィナがクラスへ現れて以来、修二の学校生活は完全におかしくなっていた。
休み時間になれば、ルルミアの周囲には男子が集まり。
「る、ルル瀬さんってどこから来たの?」
「え、えっとぉ……
地――海外ですぅ!」
危なかった。
一方。
セラフィナの方はさらに酷い。
近寄るだけで空気が張り詰める。
男子は緊張し。
女子はなぜか姿勢を正す。
もはやクラス内カーストを超越していた。
そして修二はというと。
「黒崎、
お前なんなの?」
「知らねぇよ……」
クラス男子から半分くらい敵視されていた。
意味が分からない。
◇
放課後。
オカルト研究部――通称オカ研の部室で、修二は椅子にもたれながら天井を見上げていた。
今どきオカルト研究部なんて、時代遅れもいいところだ。
スマホ一つで何でも調べられる時代に、
UFO。
超能力。
心霊現象。
そんなものを語っても、大抵は笑われる。
実際、修二も笑われてきた。
「あぁ……」
修二はぼそりと呟いた。
「俺も超能力使えたらなぁ……」
「あ、
それでしたら使えますよぉ」
「使えるの!?」
修二が勢いよく顔を上げる。
ルルミアは当然のように頷いた。
「はい♪
悪魔契約で可能ですぅ」
「マジかよ!」
「まぁ、
魔法と超能力って、
似たようなものですしぃ」
「軽いな、おい」
すると。
「厳密には異なりますが♪」
白い光と共に、セラフィナが当然のように現れた。
「うわっ!」
「どっから入ってくるんだよお前!」
「強めの願望波を感知しましたので♪」
「超能力欲しいだけで来るの!?」
「男子高校生が“力が欲しい”と言い出した時点で、
警戒対象です」
「偏見だろ!!」
セラフィナは真顔だった。
「過去統計上、
高確率で碌なことになりません」
「否定できねぇ……」
ルルミアがむっと頬を膨らませた。
「勝手に出てこないで欲しいですぅ」
「黙らっしゃい」
「ひぃっ」
ルルミアが縮こまる。
修二はため息をついた。
「で、
超能力ってマジでできんの?」
「はい♪
ただですねぇ……」
ルルミアはスマホを取り出した。
「ちょっとお高いです」
修二の顔が引きつる。
「……魂か?」
「いえ、
そこまでは」
「いくらだ?」
ごくり。
ルルミアが画面を操作する。
────────────────
【超能力オプション】
■ 微弱念力
月額980円
■ 気配察知
月額1,980円
■ テレパシー
月額29,800円
■ 浮遊能力
月額98,000円
■ 時間停止
現在新規受付停止中
■ 人格操作
契約不可
────────────────
「時間停止あるじゃねぇか!!」
「い、いまは受付停止中ですぅ!」
「そこじゃねぇよ!!
存在してる時点で怖ぇんだよ!!」
ルルミアとセラフィナが、
すっと目を逸らした。
「……おい」
「あー……」
ルルミアが冷や汗を流す。
「実はですねぇ……」
「嫌な予感しかしない」
セラフィナが深くため息をついた。
「昔、
大事故が起きました」
「やっぱりか」
ルルミアは遠い目をした。
「“某未来ネコ型ロボットアニメの未来の便利道具みたいなのが欲しい”
って願ったお客様がいましてぇ」
「うわぁ……」
修二は嫌な予感しかしなかった。
「担当は私じゃなかったんですけど、
その願いを叶えたら……」
「叶えたら?」
ルルミアは静かに言った。
「……かなりヤバいことになりました」
「だろうな」
セラフィナが額を押さえる。
「あれは天使界でも大問題になりました」
「そんなレベル!?」
ルルミアが指を折りながら説明を始める。
「最初は軽かったらしいんですぅ」
「ほう」
「でも……
だんだん要求がエスカレートしてきてぇ……」
「嫌な予感しかしない」
「“透明化能力”とか、
“入れ替わり”とか、
“ドアを使った瞬間移動能力”を要求してきたんです」
「最後、どこでもドアじゃねぇか!!」
「叶えたのか?」
「はいぃ~……」
「全部アウトじゃねぇか!!」
「そうなんですよぉ……
特に男子中学生との相性が最悪でしてぇ……」
修二が目を逸らす。
「……否定できねぇ」
セラフィナが冷たい目を向ける。
「ですよねぇ♪」
「なんで嬉しそうなんだよ」
ルルミアは続けた。
「しかも、
途中から調子に乗り始めましてぇ」
「嫌な予感しかしない」
「時間操作系に手を出したんです」
沈黙。
「……あっ」
「はい。
“時間を止めてやりたい放題”
から始まりまして」
「うわぁ……」
「未来を覗く、
過去を書き換える、
並行世界へ干渉する……」
「やべぇ」
「その結果、
世界線が七本ほど壊れました」
「軽く言うな!!」
セラフィナが深くため息をつく。
「時間管理局、
地獄法務部、
天使界監査局、
全部出動でした」
「なんだその大事件……」
ルルミアは小声で続けた。
「しかも、
問題の時間停止能力なんですけどぉ……」
「うん」
「最初は、
“カップ麺が伸びないように三分止めたい”
って理由だったらしいんです」
「平和なスタートだな」
「でも人間って、
慣れるんですよぉ……」
「嫌な言い方するな」
「最初は小さなズル。
次は覗き。
その次は試験問題。
その次は銀行金庫。
その次は――」
「堕ちる速度が早ぇよ!!」
「なので現在、
時間停止系は全面凍結中ですぅ」
修二はスマホ画面を見る。
「……なるほどな」
「なお、
当時の営業担当は懲役一万年になりました」
「重いな……」
「そうでもないです」
「そうでもないの!?」
「人間時間換算で、
三年くらいですしぃ」
「地獄時間ややこしいな!!」
ルルミアはさらに声を潜めた。
「でも問題はそこじゃなくてぇ……」
「それよりも?」
「影響があまりにも大きかったので、
時間巻き戻し処理が行われました」
修二が固まる。
「……時間、
巻き戻せんの?」
「単独では無理です」
セラフィナが真面目な顔で言った。
「時空干渉は、
天使界と地獄、
双方の承認が必要になります」
「共同作業なんだ……」
「えぇ。
あれは本当に危険でしたので」
ルルミアも頷く。
「悪魔側だけでは処理できなくて、
天使界側に協力してもらったんですぅ」
「へぇ……」
「ちなみに依頼者さんは、
特にお咎めなしでした」
「え、
そうなの?」
「はい♪
記憶だけ消させてもらいました」
「優しいな」
「いえ」
セラフィナが真顔で言った。
「被害者でもありましたので」
「…………」
「人間は、
力を持てば必ず暴走するわけではありません」
セラフィナは続ける。
「ですが、
“制御できない力”は、
その人自身を壊します」
部室が少し静かになる。
ルルミアが慌てて空気を変えた。
「で、でも!
微弱念力くらいなら安全ですよぉ!」
「どんなことできんの?」
「スプーンちょっと曲がります♪」
「地味!!」
「あと、
消しゴムが落ちにくくなります」
「さらに地味!!」
「でもテスト中便利ですぅ!」
「お前、
それ絶対ズル用途だろ」
ルルミアはえへへと笑った。
修二は椅子にもたれ、天井を見上げる。
超能力。
子供の頃、
一度は憧れた。
空を飛びたい。
物を動かしたい。
未来を見たい。
だが。
もし本当に手に入ったら。
人間は、
本当にそれを正しく使えるのだろうか。
「……やめとくか」
修二がぼそっと呟く。
「おや」
「珍しいですねぇ」
二人が少し驚いた顔をする。
「いや……
なんか怖くなった」
ルルミアとセラフィナは、珍しく同時に頷いた。
「それが正常です♪」
「正常ですぅ♪」
「そこだけ息ぴったりかよ」




