第6話 二重契約とオカ研再始動
「悪魔がPayPay言うな!!」
修二のツッコミが部室へ響いた。
ルルミアは「えへへ……」と誤魔化すように笑いながら、ノートパソコンを閉じる。
悪魔契約。
本来なら、もっと恐ろしく、禍々しいもののはずだった。
だが現実はどうだ。
営業成績に悩む新人悪魔が、契約書類を電子処理しながらカップ焼きそばを食べている。
夢があるのかないのか分からない。
その時だった。
ぱぁっ――
「うわっ!?」
突然、部室が白い光に包まれた。
ふわりと白い羽が舞い落ちる。
「またかよ!!」
光の中から現れたのは、先ほど帰ったはずのセラフィナだった。
「失礼します♪
監視契約執行通知に参りました」
「帰ったんじゃなかったのか!?」
「営業は足で稼ぐものです♪」
「天使が泥臭ぇ!」
セラフィナは涼しい顔で机の前へ立った。
そして、修二へ小さく一礼する。
「黒崎様。
先ほど、悪魔契約成立を確認しました」
「あぁ……まぁ」
「よって本日より、
天使界側監視契約を執行します♪」
「監視契約?」
修二が眉をひそめる。
一方、ルルミアは顔色を変えていた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいぃ!!
聞いてないですぅ!!」
「契約規約第七条です♪」
「長すぎて読んでないですぅ!!」
修二は頭を押さえた。
「だからその監視契約って何なんだよ」
セラフィナは当然のように説明を始める。
「通常の悪魔契約は、
願望実現を目的とした“干渉契約”です」
「干渉契約?」
「契約者の人生へ直接介入し、
願望達成を補助する契約ですね♪」
「まぁ、
悪魔契約って言われたらそっちな感じするな」
「一方、天使界側監視契約は、
“観測と保護”を目的とした契約です」
「保護?」
「悪魔契約者が、
精神的・社会的危険状態へ陥った場合、
天使界側には介入義務が発生します♪」
「なんか急に役所っぽいな……」
「実際かなり法務寄り制度です♪」
「夢がねぇなぁ……」
修二は腕を組む。
「でも普通、
悪魔と契約した人間全員にそんなの付くのか?」
「いいえ♪」
セラフィナは即答した。
「通常は行いません」
「じゃあなんで俺だけ?」
「簡単です♪」
セラフィナはにこやかに言った。
「危険なのがルルミアさんだからです♪」
「なんでですかぁ!?」
ルルミアが涙目で叫ぶ。
セラフィナは淡々と続けた。
「通常、悪魔営業担当は、
新人であっても一定以上の適性試験を通過しています」
「へぇ……」
「契約内容管理、
対価設定、
精神誘導、
危険願望判定――」
「なんか急に怖くなってきたな」
「ですがルルミアさんは、
その全ての評価が最低水準でした♪」
「ひどいですぅ!!」
「特に問題視されているのが、
“情に流されやすい”点です」
「悪魔向いてねぇ……」
「さらに極度のドジ体質。
過去には転移事故、
契約書誤送信、
召喚座標ミスなど多数」
「ちょっと待て怖ぇよ」
セラフィナは静かに続ける。
「そのため天使界では、
“もしルルミアさんが本契約まで到達した場合、
予測不能事態へ発展する可能性あり”
と判断されています♪」
「俺、
そんなヤバい悪魔と契約したの!?」
「そこまでではありません♪」
一拍置いて。
「たぶん」
「たぶん言うな!!」
ルルミアは涙目で羽をばたばたさせた。
「わ、私はちゃんとやってますぅ!!」
「では契約継続率を」
「やめてくださいぃ!!」
修二は思わず吹き出した。
なんなんだこいつら。
悪魔と天使の会話とは思えない。
すると、ルルミアの腹がぐぅぅぅ……と鳴った。
「…………」
「…………」
ルルミアが真っ赤になる。
「お、お腹じゃないですぅ!!」
「完全に腹だろ」
「これは地獄エネルギー不足で――」
ぐぅぅぅ……
「二回鳴ったぞ」
「うぅ……」
修二はため息をついた。
「……カップ焼きそば食う?」
ルルミアの顔がぱっと明るくなる。
「いただきますぅ!!」
「元気だなお前」
数分後。
机の上にはカップ焼きそばが並んでいた。
ルルミアは幸せそうに箸を動かしている。
「あつっ、あつっ」
「猫舌かよ」
「悪魔舌ですぅ!」
「違い分からんわ!」
一方、セラフィナは腕を組んだまま呆れ顔だった。
「……契約成立直後に焼きそばを食べ始める悪魔、
初めて見ました」
「人間界ジャンクフードは、
地獄で大人気なんですぅ!」
「理由が知りたくないな……」
修二は少し笑う。
その時だった。
ふと、担任の言葉が頭をよぎる。
『部員五人未満なら廃部』
「……待てよ」
二人が同時に振り向いた。
「はい?」
「なんでしょう?」
「お前ら、
学校通えるのか?」
一瞬、沈黙。
「あ」
「あら」
ルルミアが勢いよく立ち上がった。
「いけますぅ!!」
「いけるの!?」
「人間界長期滞在用の身分生成サービスありますのでぇ!」
「サービスって言うな!」
セラフィナも頷く。
「天使界側も、
人間社会への合法的介入には、
現地身分が必要です♪」
「合法的介入って怖ぇな……」
「戸籍、
学生記録、
転校履歴まで自動生成可能です」
「怖ぇよ!!」
ルルミアは目を輝かせた。
「つまりぃ!」
びしっと修二を指差す。
「私たち、
オカ研入れますぅ!!」
「え」
「監視対象の生活圏へ溶け込むのは合理的です♪」
セラフィナが淡々と言う。
「また、
悪魔側のみが学校社会へ介入するのは、
天使界規定上好ましくありません」
「めちゃくちゃ理屈で来るな……」
「よって」
セラフィナは優雅に微笑んだ。
「私もオカルト研究部へ所属します♪」
「お前もかよ!!」
修二は指を折る。
「俺、
ルルミア、
セラフィナ……」
三人。
「オカ研、
三人になるじゃねぇか……!」
ルルミアが感動したように口を押さえる。
「ぶ、部活っぽいですぅ……!」
「まだ二人足りませんけどね♪」
セラフィナが冷静に言った。
「うぅ……
あと二人ぃ……」
ずっと一人だった。
廃部寸前で、笑われるだけだったオカ研。
でも今。
悪魔と天使のせいで。
初めて“部活”っぽくなっていた。
修二は小さく笑う。
――なんか、
ちょっと面白くなってきたかもしれない。




