第3話 悪魔契約と魂価格暴落
「ダメなの!?」
修二が思わず叫ぶ。
ルルミアは困ったように眉を下げた。
「はいぃ……
殺害依頼は現在全面禁止になってましてぇ……」
「悪魔だろお前!?」
「昔はいけたんですけどねぇ」
「昔はいけたのかよ!!」
ルルミアはノートパソコンを机に置き、
カタカタと何かを入力し始めた。
「えーっと……
“依頼者、
初回から殺害希望”っと……」
「記録すんな!!」
「あとで監査入るのでぇ」
「監査!?」
悪魔の口から出る単語ではない。
修二の頭が混乱していく。
ルルミアは真面目な顔で続けた。
「昔、
願いを雑に叶えすぎて、
大問題になったんです」
「例えば?」
「“世界を支配したい”
って願いを、
そのまま通した悪魔がいましてぇ」
「通したの!?」
「結果、
文明が三回くらい滅びました」
「三回!?」
「なので現在は、
“人類文明維持条項”が追加されています」
修二は頭を抱えた。
悪魔なのに妙にしっかりしている。
いや。
昔が雑すぎたのかもしれない。
ルルミアはパソコン画面をくるりと向けた。
そこには大量の項目が並んでいた。
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■ 願望カテゴリ
□ 恋愛
□ 金銭
□ 承認欲求
□ SNS関連
□ 学業・進路
□ その他
■ 禁止事項
□ 殺害
□ 洗脳
□ 国家転覆
□ 相場操作
□ Vtuberへの過剰投げ銭補助
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「最後なんだよ!!」
「過去に大事件が……」
「知らねぇよ!」
ルルミアはしゅんと肩を落とした。
「あと最近、
“異世界転生希望”も多いんですけど、
原則禁止になりました」
「なんで?」
「本当に死ぬ人が増えたので……」
「そりゃそうだろ!!」
修二は机へ突っ伏した。
なんなんだこの悪魔。
怖さより先に、
会社員っぽさが勝っている。
「じゃあ逆に、
何ならできるんだよ……」
「はいっ!」
ルルミアの顔がぱっと明るくなる。
「現在ご提供可能なのはこちらですぅ!」
彼女は鞄からパンフレットを取り出した。
表紙には、
笑顔の悪魔たちが並んでいる。
『あなたの人生に、
小さな奇跡を。』
その下には大きく、
『Hell Prime+』
と書かれていた。
「通販サイトか!?」
ルルミアはパンフレットを開く。
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【ベーシックプラン】月額666円
・小運アップ
・寝坊率低下
・虫除け加護
【スタンダードプラン】月額3,666円
・恋愛補正
・対人運強化
・テスト前集中力向上
【プレミアムプラン】月額6,666円
・ガチャSSR微増
・SNS炎上回避
・黒歴史投稿の事前警告
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「普通にサブスク!!」
「最近は定期収入が重要なのでぇ」
「悪魔の夢どこ行った!?」
修二はパンフレットを見ながら眉をひそめる。
「いや待て。
悪魔契約って、
魂で払うのが定番じゃないのか?」
「あー……」
ルルミアは少し困ったように笑った。
「昔はそうだったんですけどねぇ」
「違うのか?」
「魂の価値が急落した時期がありまして」
「暴落すんの!?」
「それ以降、
現世通貨でもお支払い可能になりました」
「なんだその世知辛い話!?」
ルルミアは指を折りながら説明する。
「最近は魂より、
安定した現金収入の方が重要なんですぅ」
「悪魔の夢どこ行った!?」
「もちろん」
ルルミアはにこっと笑った。
「お客様がどうしてもとおっしゃるなら、
魂払いも可能ですよぉ♪」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ!!」
「あとPayPayも使えますぅ」
「悪魔がPayPay言うな!!」
修二は頭を抱えた。
怖い。
怖いはずなのに、
妙に生活感がある。
「……じゃあ、
お前ら金集めて何してんだ?」
「人間界活動費ですねぇ」
「活動費?」
「転移コストとか、
端末代とか、
サーバー維持費とか……」
「サーバーあるの!?」
「最近クラウド管理なのでぇ」
「夢壊れる!!」
ルルミアは少し寂しそうに笑った。
「昔みたいなの、
もう駄目なんです……」
その声だけ、
ほんの少し暗かった。
修二はそこで初めて気づく。
この悪魔。
もしかして案外、
苦労人なのではないか。
「……じゃあ、
部員増やしたりは?」
「はい?」
「オカ研。
来年の新歓終わるまでに、
五人いないと廃部なんだよ」
ルルミアはぱちぱち瞬きをした。
「五人……」
「今一人」
「あと四人必要?」
「そう」
ルルミアは急に真剣な顔になった。
ノートパソコンを高速で操作する。
「えっと……
学校生活支援……
青春サポート……
友人関係補助……」
「そんなカテゴリあるの!?」
「最近、
学生契約増えてるのでぇ」
修二はなんとも言えない顔になった。
「……悪魔ってもっと、
魂取るとかそういう感じじゃないのか」
「昔はそうだったらしいですけどぉ」
ルルミアは肩をすくめた。
「いまは時代的に難しいんです」
「時代ってなんだよ」
「コンプラですぅ」
「万能だなその言葉!」
その時だった。
ぶるるるるっ!!
ルルミアのスマホが震えた。
画面を見る。
『鬼塚課長』
「あっ……」
ルルミアの顔が一瞬で青ざめた。
「……出ろよ」
「やだなぁ……
絶対怒られる……」
震える手で通話ボタンを押す。
「も、もしもし――」
『ルルミアァァァ!!!』
「ひぃっ!?」
スマホから怒鳴り声が炸裂した。
部室の窓がビリビリ震える。
『お前また契約取れてねぇだろうがァ!!』
「す、すみません課長ぉ……!」
『今月ゼロ件だぞ!!
研修何ヶ月目だァ!!』
「うぅ……
が、頑張ってますぅ……!」
『頑張って結果ゼロなら意味ねぇんだよ!!』
修二は思わず耳を押さえた。
怖い。
普通に怖い。
『今どこだァ!!』
「に、人間界ですぅ……!」
『営業中か!?』
「い、いまお客様のところで、
契約手続き中ですぅ……!」
一瞬の沈黙。
『……おぉ!?』
鬼塚課長の声色が変わった。
『マジで契約入りそうなのかァ!?』
「は、はいぃ!
たぶん仮契約までは……!」
『やるじゃねぇかァ!!』
ルルミアの顔がぱっと明るくなる。
『いいかァ!!
その契約、
絶対取ってこいよォ!!』
「は、はいぃ!!」
『今月ゼロのまま終わったら、
煉獄支社送りだからなァ!!』
「ひぃぃっ!?」
しかし鬼塚課長の怒鳴り声は止まらない。
『あと最近は天界側に客取られてんだよ!!』
修二が反応する。
「……天界?」
『“癒し”だの“救済”だの、
ぬるいサービス始めやがって!!
こっちは競争激しいんだ!!』
「は、はいぃ……!」
『じゃあその契約、
絶対まとめろよォ!!』
「はいぃ!!」
ぶつっ。
通話が切れた。
部室に沈黙が落ちる。
「…………」
「…………」
ルルミアは涙目だった。
「……悪魔も大変なんだな」
「はいぃ……」
彼女はしょんぼり肩を落とした。
「もう……
地獄、ブラックすぎて……」




