表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Songbird  作者: 七日
25/26

第二十五章:唾と契約書

蛯名からの電話で、ARTEMIS RECORDSからの再契約の申し出を聞いた時、小鳥は、電話の向こうでただ静かに、獰猛に笑っていた。

後日、バンドはいつものマクドナルドで作戦会議を開いた。

「本当に、行くのか? もう関わらない方がいいと思うけど……」

冬馬が不安げに言うと、小鳥はポテトを齧りながら言い放った。

「これは戦争だ。俺たちが、俺たちのやり方で、連中に分からせてやるんだよ。音楽を、舐めるなってな」

蛯名は、その言葉を聞いて、ただ「お前の好きにしろ」とだけ言った。彼は、もう小鳥を止めない。


***


再び、あの無機質なレコード会社の会議室へ。

だが、今回は全てのパワーバランスが逆転していた。ふてぶてしくソファに深く腰掛ける小鳥、その両脇を固めるように立つ冬馬と鈴、そして、その後ろに腕を組んで控える蛯名。彼らの放つオーラは、もはや無名の新人バンドのものではなかった。


A&Rの木村とプロデューサーの中田が、前回とは比べ物にならないほど下手に出て、彼らを迎える。そして、奥の扉から、このレーベルのトップである社長が現れた。


社長は、深々と頭を下げて過去の非礼を詫びると、新しい契約書をテーブルに滑らせた。

「君たちの才能を、我々は正しく評価できていなかった。我々の完全な過ちだ。もう一度、チャンスをくれないだろうか」

契約書には、「インディーズ」ではなく「メジャーデビュー」の文字。巨額の契約金、完全なクリエイティブコントロールの保証、大規模なプロモーション活動。全てが、以前とは桁違いの、破格の条件だった。


小鳥は、その契約書を一瞥もせず、ゆっくりと立ち上がった。

そして、深々と頭を下げる社長の元へと、静かに歩み寄る。

社長が、期待を込めて顔を上げた、その瞬間。


ペッ、と。


生々しい音が、静まり返った会議室に響き渡った。

小鳥は、社長のその顔面に、真正面から唾を吐きかけたのだ。


「ひっ……!」と木村が悲鳴を上げる。中田は激昂して立ち上がった。社長は、何が起こったのか理解できないというように、呆然とその場に固まっている。

会議室がパニックに陥る中、小鳥は、冷たく、静かに言い放った。


「お前らの『商品』になるつもりはねえ」


そして、今にも掴みかかってきそうな中田の方を振り返ると、その耳元で、悪魔のように囁いた。

「俺たちの音楽は、お前らみたいな豚にはもったいねえよ。『分かりやすいフック』、見つかったか?」


冬馬と鈴、そして蛯名も、静かに立ち上がる。

唖然とするレコード会社の人間たちを尻目に、SoundCrowdの四人は、騒然とする会議室を後にした。


***


ビルの外に出ると、真夏の太陽が、彼らを照りつけていた。

誰からともなく、笑い声が漏れた。

最初は、くすくすという小さな笑いだった。だが、やがてそれは、全員に伝染していく。

金も、メジャーデビューという後ろ盾も、全てを自分たちの手で蹴り飛ばした。

だが、彼らは、何物にも縛られない、本当の「自由」を手に入れたのだ。


腹を抱えて笑い転げる四人の姿は、これから始まる、本当の伝説の幕開けにふさわしい、最高の凱旋だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ