第十九章:System of a Down
四人は、マクドナルドのテーブルで、ノートパソコンの画面に映し出された英文を、何度も何度も読み返していた。
差出人は、海外の有名メタル系Webマガジン『MetalForge』の記者、マーク・ライアン。
Live365でSoundCrowdの音源を聴き、衝撃を受けたこと。そして、ぜひインタビューをしたい、という熱烈なオファー。
「……で、なんでまた、わざわざ日本まで……」
冬馬が、信じられない、というように呟く。その疑問に答えたのは、メールの追伸だった。
『追伸:今回の来日は、SUMMER SONIC 01の取材が主な目的なんだ。その期間中に、ぜひ君たちの話を聞かせてほしい』
「サマソニ……!」
その名前に、小鳥と冬馬の目の色が変わった。
2001年8月。幕張メッセで開催される、巨大ロックフェスティバル。今年のラインナップには、彼らが神と崇めるニューメタルバンド『System of a Down』の名前があった。
「……返事は、どうしますか」
鈴が、おそるおそる三人の顔を見る。
「決まってんだろ」と小鳥が言った。「受けるに決まってんだろ。こんな面白い話、断る手はねえよ」
その言葉に、全員が頷いた。
返信は、英詞を書いている鈴が担当することになった。
***
インタビュー当日。
彼らは、SUMMER SONICの会場である幕張メッセからほど近い、外資系のホテルに来ていた。ロビーは、明らかに一般人ではない、Tシャツにタトゥーを入れた外国人や、忙しなく携帯で話す業界関係者たちでごった返している。
やがて、約束の時間に、長髪でバンドTシャツを着た、陽気な外国人、マーク・ライアンが現れた。
「Hey! You guys are SoundCrowd! I’m Mark! Man, your music is fucking insane!」
彼は、メンバー一人一人と固い握手を交わした。
インタビューは、ホテルのラウンジで行われた。
マークは、純粋なファンとして、SoundCrowdの音楽の核心に迫る質問を、熱っぽく、流暢な英語で投げかけてくる。
「まず、ボーカルの君に聞きたい。君の歌声は、天使と悪魔が同居しているようだ。どこから、あんな声が生まれるんだ?」
冬馬と蛯名は、その質問を隣にいる鈴に翻訳してもらおうと、彼女の方を見た。
だが、その前に、小鳥が、完璧な発音の英語で直接答えた。
「It’s not from anywhere. It's just what I have inside. That's all.」
(どこからでもない。俺の内側にあるものが、そのまま出てるだけだ。それだけだよ)
そのあまりにも自然な返答に、冬馬は驚いて小鳥の顔をまじまじと見た。蛯名も、少し意外そうな顔をしている。
マークは、その答えに興奮して身を乗り出した。
「哲学だな!最高だ!じゃあ、あの歌詞はどうなんだ?『硝子壁のノイズ』の、あの痛切な言葉は、君の内側から出てきたものなのか?」
すると、小鳥はふい、と隣に座る鈴の方を親指で指した。
「Lyrics? She wrote them all.」
(歌詞? 全部、彼女が書いた)
その一言に、今度はマークの目が、驚きに見開かれた。
彼は、今までほとんど発言せず、ただ俯いていた小柄な少女、鈴をまじまじと見つめた。
「……君が? 信じられないな。あの、世界への絶望と、それでも手を伸ばそうとする希望が混じり合った、素晴らしい詩を……」
マークの賞賛の言葉に、鈴は顔を真っ赤にして、さらに深く俯いてしまった。
小鳥は、そんな鈴の様子を見て、少しだけ満足そうに口の端を吊り上げた。
そして、インタビューが終わりかけた、その時だった。
ラウンジの入り口が、にわかに騒がしくなる。屈強なセキュリティに囲まれて、独特のオーラを放つ四人組が現れた。
冬馬は、息を呑んだ。
信じられない。System of a Downのメンバー全員が、そこにいた。
その姿に、マークが興奮して立ち上がった。
「おい、マジかよ! ちょっと待ってろ!」
彼は、SOADのメンバーに駆け寄ると、何事か楽しそうに話している。どうやら、顔見知りのようだった。
やがて、マークが手招きをしている。
「おい、こっちに来いよ! こいつらが、俺が話してた日本のヤバい新人、SoundCrowdだ!」
SOADのボーカル、サージ・タンキアンが、興味深そうな目で小鳥たちを見た。
小鳥も冬馬も、憧れのバンドを前に、ただのキッズのように固まっている。
「へえ。クールじゃないか」
サージはそう言うと、気さくに笑った。「一緒に写真を撮ろうぜ」
カシャッ、というフラッシュの光。
その一枚の写真に、まだ何者でもない日本のインディーズバンドと、世界的なロックスターが、一緒に収まっていた。
***
インタビューは、無事に終了した。
メンバーは、憧れのバンドに会えた興奮で、その日の打ち上げで、自分たちがこれから世界的なバンドになるかのような錯覚を覚えながら、大いに盛り上がった。
彼らはまだ知らない。
後日、ネット上に公開されるマークのインタビュー記事に、その一枚の写真が「次世代アジア発のラウドバンド、SOADのお墨付き!」という、大げさで、しかし最高に刺激的な見出しと共に掲載されることになるということを。
運命の歯車は、彼らの想像を遥かに超える速度で、回転を始めていた。




