第104話 再びの護衛任務
俺とセリアは修行の後、ファラエスに呼び出されて、隊長室まで来ていた。
こういう呼び出しは、大体何かわかっている。恐らく、任務があるのだろう。
「さて、二人とも、大体わかっていると思うんだけど、任務があるんだ」
「やっぱりか……」
「はい。なんとなく、そんな気はしていました」
ファラエスの口から放たれた言葉に、俺達はゆっくりと頷く。やはり、予想通り、任務であるようだ。
「今回の任務は、護衛任務だ」
「護衛任務……オルフィーナさんの時と同じものか……」
「ああ、というか、依頼者まで同じなんだけど……」
「え?」
ファラエスの言葉に、俺とセリアは驚いた。
依頼者まで同じということは、オルフィーナさんが依頼者ということだ。まさか、彼女からの依頼だとはまったく思っていなかった。
「もしかして、また町に来るまでの護衛を……?」
「いや、そうではないんだ。それは向こうの町の騎士が担当してくれたからね……」
「担当してくれた?」
ファラエスの言葉に、俺は少し引っかかってしまう。なぜなら、その言葉が過去形だったからだ。
その意味は、ファラエスの次の言葉で判明する。
「ああ、オルフィーナさんは、既にこの町に来ているんだ……」
「ええ!?」
「もう、来ているのか!?」
俺とセリアは驚いた。
オルフィーナさんが、この町に来ているなど、まったく知らないことだ。
来ているなら、妹であるソーナが何か素振りくらい見せそうなものだが、そんなことはまったくなかったはずである。
「私どころか、ソーナすら知らなかったみたいなんだけどね」
「え?」
「お忍びで来たらしいんだ……」
ファラエスの言葉で、俺達は理解した。
そもそも、ソーナすら知らなかったのだ。それなら、俺達がわからないのも当然だろう。
それにしても、お忍びで来たとは、中々すごいことだ。
大方、ソーナを驚かせようとしたといったところだろうが、かなり大胆である。
「困ったものなんだけど、これも仕方ない。とにかく、そのオルフィーナさんを護衛するのが、今回の任務なんだ。あ、ちなみに、また指名してきたんだよ?」
「そうなのか……」
今回も、オルフィーナさん直々の指名だったらしい。
騎士団は、そのような制度はないはずなのだが、立場が立場であるため、そのようなことができるのだろう。
「それで、今回はどういう護衛なんでしょう?」
「ああ、そうだな。オルフィーナさん、何かあるのか?」
「……何やら、町を見学したいらしくてね……それで、その護衛が今回の任務だ」
「町を見学……」
任務の内容は、町を見学するオルフィーナさんの護衛であるようだ。
ただ、少しだけ引っかかってしまう。ファラエスが、あまりはきはきとしていないのである。
「……もしかして、それって……」
「ああ、なんとなく、そう思うが……」
そのことから、俺達は予想していた。
今回の任務が、どういうものなのかということを。
「まあ、観光案内くらいに考えてもらってもいいかもしれないね。もちろん、襲ってくるものから守るのが一番だけど……」
「……やっぱり、そうなんですか……」
「なんだか、締まらない任務だな……」
どうやら、今回は観光案内的なものであるらしい。
もちろん、外敵からオルフィーナさんを守らなければならないが、町中で襲ってくるものなど、そうないだろう。
「二人とも、それでも、油断したら駄目だよ。何があるかなんて、わからないんだからね」
「……そうだな」
「すみません、少し気を抜いてしまいました」
だが、ファラエスの言葉で、俺達は反省する。
万が一に備えるのが、俺達の役割なのだ。油断したりするのは、絶対にあってはならない。
「どんな任務でも、油断はしない。それこそが、私達聖道騎士団の役目だ」
「ああ、わかった。必ず、任務を果たしてみせる」
「はい。気を引き締めていきます!」
こうして、俺とセリアの新たなる任務が決定するのだった。
◇◇◇
任務を告げられて、しばらくの間、俺とセリアはファラエスの仕事を手伝っていた。
「さて、そろそろ帰ろうか」
「ああ……」
「はい」
大方の仕事が片付いた時、ファラエスがそう言ってきた。時間的にも、タイミング的にも帰ってもいい頃合いだ。
「うん? スレイド、悪いけど出てくれるかな?」
「ああ」
そこで、隊長室の戸が叩かれた。
ファラエスに言われたので、俺は戸を開く。
「あ、スレイド君」
「あ、スレイド」
「カノンさん、それに、ソーナか」
そこには、カノンさんとソーナが立っていた。
二人も、帰る頃合いとみて、ここに来たのだろう。
「まあ、とりあえず入ってください。ファラエス、それでいいか?」
「ああ、そうしてもらおう」
とりあえず、二人を中に入れることにする。まだ片付けが終わっていないので、待ってもらう必要があるからだ。
俺の言葉に、ファラエスも頷いてくれたので、問題もない。
「それなら、失礼するわね」
「失礼します」
二人は隊長室の中に入ってきた。
中では、ファラエスとセリアが片づけを続けている。
「ファラエス、調子はどう?」
「あ、はい。すぐに終わるので、少しだけ待ってください」
「ええ」
それから少しの間、俺達は片づけを行った。
◇◇◇
言葉の通り、ファラエスはすぐに片づけを終えた。俺とセリアも片付けられたので、これで完了だ。
「さて、それでは帰りましょうか」
「あ、ファラエス隊長、少し待ってください」
そんな中、ソーナが声をあげた。
何やら、話したいことがあるようだ。その内容は、大体わかる。恐らく、オルフィーナさん絡みのことだろう。
「私、今日は自分の家に戻ろうと思うんです。お姉様がいるので……」
「ああ、なるほど、わかったよ」
どうやら、ソーナは自らの家へと戻るらしい。
そこには、オルフィーナさんが待っている。恐らく、姉と過ごすために戻るのだろう。
こうして、俺達は家へと帰るのだった。
◇◇◇
俺はソーナとともに歩いていた。
家まで帰ってから、ソーナ一人で帰らせるのは可哀そうだという話になった。
そのため、俺がソーナを見送ることにしたのだ。騎士団の団員とはいえ、女性を夜道で歩かせるのは、忍びないからである。
「スレイド、ごめんなさいね」
「うん? 別に、これくらい、どうってことないぞ?」
「あ、それもなんだけど、お姉様のことも謝っておきたくて」
そんな中、ソーナが突然謝ってきた。
俺は、この付き添いのことかと思ったが、それだけではないらしい。なんとなく、ソーナが何を言いたいかは予想できる。
「任務のことか?」
「ええ、変な任務で、しかも指名して、本当にごめんなさい」
「それも、構わないさ。どんな任務でも、きちんとするのが、騎士の仕事だろうしな……」
「スレイド……」
任務のことについては、もう自身の中で解決していた。ファラエスに言われた時点で、その話は終わったのだ。
そのため、そこまで気にしてはいない。
「はあ、指名なんて、騎士団はそんなシステムじゃないのに……」
「ソーナ……」
だが、ソーナはかなり気にしているようだ。
彼女にとっては、姉が観光案内のような依頼を出し、指名までしたのが許せないのだろう。
これは、オルフィーナさんも大変そうだ。
「あっ……」
「おっ……」
そんな会話をしている内に、ソーナの家が見えてきた。
すると、ソーナは一歩前に出る。
「スレイド、ありがとう。ここまででいいわ」
「そうか、それじゃあな。あまり、オルフィーナさんを責めるんじゃないぞ?」
「それは、わからないわね」
「まあ、仕方ないとも思うが……」
それだけ言って、ソーナは駆けて行く。
家の玄関まで行き、こちらに手を振ってくる。
俺がそれに応えると、ソーナは家の中に入っていく。
これで、見送りも終わりだ。
俺も家に帰るとしよう。




