第103話 修行中の来客
俺は騎士団の拠点に来ていた。
今日は、特に任務もないので、セリアの修行ということになった。
今は、セリアと訓練場で修業中だ。
「セリア、その調子だ」
「はい!」
セリアは、修行を始めた頃に比べると、大分技の切れが増していた。
俺の技にも近づいているし、何よりセリア自身の地力もあがってきている。このままいけば、俺を越えることすらできるだろう。
「はああっ!」
「くっ!」
そこで、セリアから鋭い一撃が放たれた。
その一撃に、俺は少し後退ってしまう。手加減しているとはいえ、俺をここまでするとは驚きだ。
「よし!」
「うっ……」
セリアは一度剣を引き、別の方向から攻撃してくる。
俺はそれに合わせて、刀を構えて迎え撃つ。だが、その攻撃は非常にいいものだ。
セリアはさらに剣を引いてくる。また、一撃を加えてくるつもりだろう。
「はっ!」
「えっ!?」
そこで、俺は剣を振るった。
セリアが剣を引くのを予測していたため、先に刀を動かせたのだ。
そのことに、セリアは驚いてしまっているらしい。
俺は、セリアの寸前で刀を止める。これ以上は、踏み込むべきではない。
「セリア、油断したら駄目だぞ」
「あ、はい。すみません……」
俺の言葉に、セリアは悲しそうな表情になる。
これは、俺の間違いだ。先に否定から入るべきではなかった。
「いや、セリア、今の攻撃はよかった。だから、最後まで油断しないようにすれば、さらに良くなるということだ」
「そ、そうなんですか……」
「ああ、だから、そんな顔をするな」
「あっ……」
俺は、セリアの頭を撫でる、
褒めるべきところは褒めなければ、セリアが落ち込んでしまう。
最初はよかったのだから、今日は褒めるべきなのだ。
「し、師匠……ありがとうございます」
「いや、俺の方こそ悪かった。先に褒めるべきだったな」
今度は、セリアも笑顔になってくれた。
この表情は、いつ見てもかわいらしい。
「楽しそうだな、スレイド、セリア」
「え?」
「うん?」
そこで、声が聞こえてきた。この声は、聞き覚えがある。
俺とセリアは、ゆっくりと声の方向を向く。
「セリク!」
「お兄さん!」
「ふ、久し振りだな、二人とも」
そこには、セリアの兄であるセリクが立っていた。
それを認識し、俺はセリアの頭から手を離す。流石に、兄の前で撫でるのは色々と問題な気がしたのだ。
「ど、どうして、ここに?」
「ここは訓練場だ。五番隊隊員の俺がいても、何もおかしくないだろう?」
「そ、それもそうか……」
確かに、ここは訓練場なので、騎士団の誰もがいる可能性はある。
だが、まさかセリクがいるとは、思っていなかったので、驚いてしまったのだ。
「まあ、お前達を探していたのも確かだがな……」
「何?」
「お前達に言っておきたいことがある」
驚く俺達に対して、セリクはそう言ってきた。
どうやら、俺達を探していたようだ。
あまり心当たりがないのだが、一体なんの用だろうか。
「本日、ザギル隊長から通達があった。カノン副隊長の病気が完治したとな……」
「あっ……」
「なるほどな……」
セリクの口から出た言葉で、俺達は理解した。
そういえば、カノンさんは五番隊の副隊長だ。同じ隊のセリクが、そのことを知るのは必然なのかもしれない。
「そもそも、病気だったことを初めて知ったが、これからは任務等にも参加するらしい」
「カノンさんが……か」
「ああ、大方の予想はできているが、お前達が何かしたのだろう?」
「あ、いや……」
セリクは、俺やセリアがカノンさんのことに関わっていることに勘づき、ここに来たようだ。
その予想は当たっている。だが、言っていいものかどうかわからない。
カノンさんの事情は、色々と複雑なので、その辺りが難しいのだ。
「ふ、答えは求めていないさ。言いにくい事情があることはわかっている」
「セリク……」
「だが、お前達が関わっていることを知っているのに、礼の一つも言わないのはどうかと思ってな……」
セリクは、俺達に深く聞くつもりはないようだ。
それはありがたいことである。それにしても、セリクは中々に鋭いようだ。
「我らが隊の副隊長を救ってくれて、ありがとう。隊を代表して、礼を言っておく」
「……ああ」
セリクの言葉に答えた時点で、俺が関わっていることを表しているような気もする。
だが、答えないという選択はとりたくなかったのだ。セリクがこのようにお礼を言ってきた。その事実が、俺にそうさせていたのである。
「ふっ……お前には、助けられてばかりだな。いつか、この恩を返せる時が来ればいいのだがな……」
「別に構わないさ……」
「そういう訳にもいかない。これは、俺の心情の問題だからな……」
「セリク……」
セリクの言葉は、俺にも理解できるものだった。
自身の心情が晴れない限り、納得できないのは当然のことだ。
それなら、俺がいくら気にしないように言っても無駄だろう。
「それなら、いつかお前の力を貸してくれ。それで、チャラということにしよう」
「……そうだな。俺の力が必要になったら、いつでも言うといい」
俺の言葉に、セリクは笑みを浮かべた。
その笑顔は、どことなくセリアに似ている。兄妹だから、当然ではあるのだが、そのことが少しおかしく思えた。
「さて……」
そこでセリクは、セリアの方に目を向ける。
どうやら、何かを言うようだ。
二人の仲は、仲良くなっているはずだが、それでも少し心配である。
「セリア……」
「お兄さん……」
「お前も、中々強くなっているようだな……」
「え?」
セリクは、とても穏やかな口調だった。
これなら、心配はなさそうだ。
「み、見ていたんですか?」
「ああ、最初から見させてもらっていた」
その言葉に、セリアは頬を赤くする。
流石に、実の兄に色々と見られるのは恥ずかしいのだろうか。いや、もしかしたら、嬉しいのかもしれない。
「お前は、お前の道を歩み、強くなっている。そう思うと、俺も何故か嬉しくなった」
「お兄さん……」
「これからも、スレイドの元でしっかりと鍛えてもらえ。お前は、きっと俺をも越える力を持っている」
「そ、そうなんでしょうか……」
「ああ……」
セリクは、セリアに真剣な目で語りかけた。
どうやら、セリクから見ても、セリアの才能は優れたものであるようだ。
やはり、セリアはいい剣士になる。俺はそれをさらに確信するのだった。
「それでは、俺はもう行かせてもらう。あまり、師弟の仲を引き裂きたくないのでな……」
「あっ……」
セリクは、それだけ言って去っていく。
かつて、俺達を引き裂こうとしていた者の発言とは思えないものだ。
「い、行ってしまいましたね……」
「ああ……」
俺とセリアは、顔を見合わせる。
なんだかよくわからないが、俺達は笑ってしまう。
「セリクも、大分丸くなったものだな……」
「はい。お兄さんは、とても優しい人になりました。でも、きっとあれが本当のお兄さんなんです」
「ああ、そうだな……」
セリアの言う通り、セリクは本来あのような人間なのだ。
家の事情で色々と歪んでしまったが、本当は優しい人間なのだろう。セリアに対する態度が、そう感じさせてくれるのだ。
「まあ、とりあえずそれはいいとして、休憩でもしようか? 結構、疲れているしな……」
「あ、はい。そうですね、かなり長い時間動いていましたから……」
とりあえず、俺達は休憩することにした。
セリクが来るまでに、かなり修行したので、中々疲れているのだ。あまり修行しすぎるのもよくない。休むのも、必要なことなのだ。
俺とセリアは、ベンチに座って休むのだった。




