第102話 二人に挟まれて
俺はファラエス、カノンさんと一緒にベッドで寝転がっていた。食堂で会ったことをきっかけに三人で寝ることになったのだ。
順番的には、ファラエス、俺、カノンさんの順番になっている。
「本当に、この順番でいいのか?」
「ああ、問題ないよ」
俺の言葉に、ファラエスは笑顔で答えてくれた。
この順番を決めたのはファラエスだ。俺は、ファラエスが真ん中だと思っていたので、この順番に少し驚いた。
ただ、カノンさんと向き合えるし、俺を抱き枕にできるしで、ファラエスにはメリットしかない順番らしい。それなら、俺は何も言うべきではないのだろう。
「……スレイド君、もう少し寄ってもいい?」
「あ、はい」
そんな中、カノンさんが俺との距離を詰めてきた。といっても、体が当たらないくらいの距離だ。
意外にも、カノンさんは緊張しているらしい。
だが、考えてみれば、これが普通の反応だ。男と同衾するのに、こうならない方がおかしいのである。
「カノンさん、もっと距離を詰めても大丈夫ですよ」
「そ、そうなのね……」
「はい。スレイドに抱き着くくらいでいいと思います」
緊張するカノンさんに、ファラエスはそんな言葉を放った。
こちらは、中々距離感が近いので、そういう基準で助言しているのだ。
「それじゃあ、スレイド君、失礼するわね」
「あ、はい……」
カノンさんが、俺に手を回し、その体をくっつけてきた。その胸が背中に当たり、柔らかい感触が伝わってくる。
既に、ファラエスの柔らかさも感じている中でのこれは、中々に心を揺さぶってくるものだ。
「……スレイド君、温かいわね」
「え?」
「こんな風に人肌を近くに感じるのなんて、中々ないから……」
「カノンさん……」
抱きしめてきたカノンさんは、俺に対してそんなことを言ってくる。
カノンさんは、病のため、人を避ける生活を送っていた。そのため、人肌と触れ合うことなどほとんどなかったのだろう。
だから、俺の温かさに対して、そのような言葉を放ったのだ。そう思うと、少し辛い気持ちになってくる。
「まあ、俺のでいいのなら、好きなだけ味わってください」
「そうね。そうさせてもらおうかしら……」
俺の言葉に、カノンさんがどのような表情をしたのかはわからない。ただ、悪い反応ではなさそうだ。
「カノンさん、私のでもいいですからね」
「あ、うん……」
その時、ファラエスが声を出した。
なんだか、少し焦っているような声な気がする。もしかして、俺に対する対抗心があるのだろうか。
なんだかんだいって、ファラエスはカノンさんをすごく慕っている。そのため、俺がカノンさんに対してそう言うのが嫌なのかもしれない。
「それなら、こうしてもいいかしら?」
「え?」
「これなら、ファラエスの温かさも感じられるでしょう?」
「は、はい……」
どうやら、カノンさんはファラエスの手を握ったようだ。俺の位置からでも、微かに確認できる。
指を絡めて、固く握られているため、しっかりと温もりを感じられるはずだ。
「あ、スレイド」
「うん?」
そこで、ファラエスが俺に話しかけてきた。
なんだか、これも焦ったような感じだ。何か、問題でもあるのだろうか。
「決して、君を蔑ろにしている訳ではないよ」
「あ、ああ……わかっている」
何やらファラエスは、俺が蔑ろにされたと感じたのではないかと思ったらしい。
そんなことは、ほとんど感じていなかったが、確かにそう考えてもおかしくない状況ではあった。ファラエスは優しいので、そういう所も気にするのだろう。
「それなら、よかった」
「お、おお……」
ファラエスはそう言いながら、俺に体をさらに寄せてくる。
その柔らかさに、俺の心は揺さぶられてしまう。
これも親愛の証であるのだろうが、色々と昂ってしまいそうだ。
「さて、そろそろ寝ましょうか」
「はい、そうしましょう」
「あ、はい……」
カノンさんの言葉で、俺達は眠ることになった。
あまり眠れそうにないが、きっとなんとかなるはずだ。
◇◇◇
気がつくと目が覚めた。どうやら、朝のようだ。
昨日はしばらく眠れなかったが、なんとか眠れた。いくら昂っていても、激しい眠気には勝てなかったようだ。俺が、ああいう状況に少し慣れてきたのもあるかもしれない。
「おっ……」
そこで、俺は気づく。今日もファラエスの胸に埋まっているということに。
最早、恒例となったこの体勢だが、慣れることはない。未だに緊張するし、未だに嬉しいのだ。
しかも、今日はそれだけではない。後ろにカノンさんの胸も感じるのだ。これは、中々にすごいものである。
「んっ……」
「うん?」
俺がそんなことを考えていると、ファラエスが声をあげた。どうやら、起きたようだ。
「あら……」
「あっ……」
さらに、後ろから声が聞こえてきた。カノンさんも、起きたらしい。
「おはよう、スレイド。おはようございます、カノンさん」
「ええ、おはよう」
「ああ、おはよう」
ファラエスの挨拶に、俺とカノンさんが応える。
とりあえず、皆起きたようだ。
「あっ……」
「あらら……」
そこで、ファラエスとカノンさんが同時に声をあげた。
一瞬、疑問に思ったが、すぐに理由がわかる。
「ふふ、ずっと温もりを感じていたわね」
「は、はい……」
二人とも、ずっと手を繋いだままだったのだ。
昨日の夜から、寝ている間、話さなかったのである。それは、二人の絆が強いからだろうか。
よく考えてみると、その状態で、俺だけ体勢が変わったのだ。やはり、ファラエスの胸に顔を埋めているのは、俺の責任なのだろうか。
「……それにしても、スレイド君、本当にファラエスの胸に埋まっているのね」
「あ、はい……」
「ええ、スレイドがここを好きなのか、私がここを好きなのか、わからないんですけど……」
「なるほどね……」
そこで、カノンさんがそんなことを言ってきた。
確かに、この光景は驚くべきことだろう。初見なら、猶更だ。というか、カノンさんの胸も当たっているのだが、それはいいのだろうか。
「ちょっと、ごめんね」
「え? あっ……」
「えっ……」
俺がそんなことを考えていると、カノンさんが動いた。
その手で、ファラエスの胸を揉み始めたのだ。
それにより、俺の顔にも胸の変化が伝わってきた。その感触は、至福のものであり、俺の心を朝から昂らせてくれる。
「な、何するんですか!?」
「いや、揉みたいなあって……」
どうやら、カノンさんはファラエスの胸を揉みたかったらしい。揉みたかったなら、仕方ないだろう。
「揉みたいからって、揉まないでくださいよ……」
「いや、ごめん。家だし、つい……」
「そう思うなら、手を止めてくれませんかね?」
「あ、うん……」
ファラエスに問い掛けられている間も、カノンさんは胸を揉み続けていた。
その間、俺も心地いい感触に包まれていたのだが、残念だ。
「まったく、そろそろ起きますよ」
ファラエスは、ゆっくりと体を起こす。
もう起きるようだ。俺としては、もう少しこうしていたい気分だったのだが、仕方ない。
「スレイド君、私達はもう少しベッドにいる?」
「え?」
「まだ、眠たいでしょう? 私の胸を貸してあげるから……」
そんな俺に、カノンさんがそう言ってきた。
その提案は、非常に魅力的なものだ。
だが、そろそろ起きないといけないのも事実である。
「カノンさん! スレイドを誘惑しないでください」
「はあ、仕方ないなあ……」
ファラエスの言葉で、カノンさんも体を起こす。
結局、起きるようだ。それなら、俺も起きるしかない。
こうして、俺の新たなる一日が始まるのだった。




