第105話 副隊長の姉、再び
ファラエスから任務を言い渡されて、一日が経っていた。
という訳で、俺とセリアはソーナの家に来ている。オルフィーナさんと会うためである。
今回の任務は、オルフィーナさんの護衛だ。町を観光するオルフィーナさんを外敵から守る。それが、俺達の使命なのだ。
「あ、お待たせしました」
俺がそんなことを考えていると、オルフィーナさんが家から出てきた。
彼女に以前もついてきたメイドと執事も一緒だ。
「お久し振りですね。お二人とも」
「ええ、お久し振りです。オルフィーナさん」
「お久し振りです」
オルフィーナさんは、笑顔で俺達に挨拶してくれた。
久し振りに会ったが、元気そうで何よりだ。
「うん?」
「あれ?」
「あっ……」
そこで、俺とセリアは声をあげた。
家から、もう一人見覚えがある顔が出てきたからである。
それは、我らが副隊長ソーナだ。
「ソーナ、ここにいたのか……」
「ええ、実はそうだったのよ」
俺とセリアは拠点に一度行ったが、その後すぐにここに来た。
そのため、ソーナが拠点にいるかどうかは確認していない。だから、俺達は少し驚いてしまったのだ。
だが考えてみれば、姉が久し振りに帰っているのに、拠点に行くのもおかしな話かもしれない。
「今日はソーナと一緒に出かけることになったのです」
「ええ、お姉様が案内して欲しいと言うから、私も同行することにしたわ。申し訳ないわね」
どうやら、今回の観光にソーナも同行するらしい。
この場合、護衛対象が増えることになるのだろうか。それとも護衛が増えることになるのだろうか。
「まあ、俺達は構いませんよ」
「はい、問題ありません」
どちらにせよ、俺達は問題なかった。
何人いようが、警戒するのはあまり変わらないからだ。
「ごめんね、二人とも……」
ソーナは、俺達に謝ってくる。
なんだか、とても申し訳なさそうだ。
副隊長として、急な任務変更をしたことを悔やんでいるのだろうか。
ただ、こちらとしては、本当に気にしていないので、落ち込まれると困るくらいだ。
「あんまり、気にするな」
「ソーナさん、ボク達は気にしていませんから……」
「……ありがとう、二人とも」
俺達の言葉に、ソーナも少し元気を取り戻す。
これで、特に問題もなくなった。
「いや……」
そう思った俺は、あることに気づく。
同行者は、ソーナだけではないはずだ。そちらも、念のため確認しておいた方がいいだろう。
「ところで、オルフィーナさん。そちらの二人も同行するんですか?」
「あ、はい。そうなのです。そういえば、お二人にはまだ詳しく紹介していませんでしたね」
俺の質問に、オルフィーナさんはそう言ってきた。
確かに、執事とメイドの紹介はされていない。ずっと、オルフィーナさんについていることは知っているが、名前も知らないのだ。
紹介してもらえるなら、丁度いいくらいだろう。
「二人とも、自己紹介をしてもらえますか?」
「はい」
「わかりました」
オルフィーナさんの合図で、執事とメイドが前に出てくる。
どうやら、自己紹介をしてくれるようだ。
「私は、オルフィーナ様の執事をしております、アルマです」
まず自己紹介してくれたのは、執事の方だ。整った顔立ちの中性的な執事である。
「スレイドさん、セリアさん、よろしくお願いします」」
この人を見ていると、ファラエスのことを思い出してしまう。なぜなら、同系統のイケメンだからだ。
ただ、心の中で思うのは、男を見てファラエスを思い出すのは申し訳ない。男のようだと気にしている彼女に、こんなことを思っては駄目だ。
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします……」
もちろん、俺はファラエスのことを女性として魅力的に思っている。
どれくらい思っているかというと、この執事の尻などを時々見てしまうくらいだ。
いや、そんなことはどうでもいいか。
「私は、シャロールと申します。オルフィ―ナ様のメイドです」
続いて自己紹介をしてくれたのは、メイドの方だ。大人っぽい綺麗なメイドさんある。
「スレイドさん、セリアさん、よろしくお願いします」
こちらの特徴は、わかりやすい。
そのとても大きい胸である。
俺が知っている胸が大きい女性といえばファラエスだ。だが、この人の胸はそれ以上に大きい。
ただ、心の中で思うのは、胸が大きさだけではないということだ。ファラエスの胸はとても柔らかく、いい感触である。
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします……」
そのため、一概にファラエスよりも彼女の方が優れているということにはならないだろう。
ただ、どちらの胸も時々目で追ってしまうのは事実だ。
いや、そんなことはどうでもいいか。
「という訳で、アルマとシャロールです。二人とも、幼い頃から、私についているのです」
「そうなんですか……」
「はい。誰よりも信頼できる使用人達です。お二人も、何かあったら二人に言ってください。大抵のことは、なんとかできますから」
オルフィーナさんは、嬉しそうに二人のことを語る。
本当に、二人のことが好きなのだろう。その顔から、すぐにわかる。
幼い頃から一緒なので、かなり絆も深いのだろう。なんだか、少し微笑ましい。
こういう時に思い出すのは、ファラエスとクレッタのことだ。
彼女達も、幼い頃から一緒であり仲がいい。
さっきから、俺はファラエスのことばかり考えている気がするな。
「さて、それではそろそろと出発してもいいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
そこで、オルフィーナさんがそう言ってきた。
今日の目的は、町の探索だ。いつまでも、ここで油を売っている訳にはいかないだろう。
こうして、俺達は出かけることになった。
計六人で、中々の大所帯だ。
◇◇◇
俺達は、オルフィーナさんの護衛を行っている。
道中は馬車での移動だ。周囲を警戒しつつ、馬車を操作する。
「師匠、馬車の操作、慣れてきましたね」
「まあな……」
御者席には、俺とセリアが乗っていた。
ソーナは、とりあえず中に入ってもらっている。騎士とはいえ、今日は休日のようなものだ。本人は少し渋ったが、こちら側では駄目だろう。
「でも、今回はゆっくりだしな……」
「町中ですからね……」
町中であるため、馬車の速度はほとんど出ていない。危ないから、当然のことだ。
そのため、そこまで馬車の操作は必要ない。だから、俺でも簡単に扱えるのだろう。もちろん、前回の経験も生きているだろうが。
「周囲も、問題はなさそうですね……」
「そうだな……今の所は、大丈夫そうだ」
町の人々に、怪しい人は特にいないように見える。
こちらに視線を向けてくる者はいるが、それは馬車のせいだ。この移動方法は、非常に目立つ。そのため、少しくらい見るのは当然である。
最も、馬車が通ること自体は珍しいことではない。そのため、周りの人はすぐに気にしなくなる。
それで気にするような者は、とりあえずマークしていく。ただ、単に気になるだけの者達だった。特に、こちらに危害を加えようとする者はいない。
「このまま、何もないといいですね……」
「ああ、そうだな……」
なんだかんだ、俺とセリアはかなり警戒していた。
これは、軽い任務などではない。むしろ、討伐任務などよりも疲労が大きいくらいだ。いつもの倍くらい、神経を使うからだろう。
事前のファラエスから言われたことが、効いているのもある。
真剣にやることで、疲労するのだ。
だが、それはいいことなのだろう。
こうして、俺とセリアの任務は進んで行く。
その後もしばらく、馬車での移動だった。




