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魔法少女ごっこをしてるだけなのに、勝手に周りの人が曇っていくのはなぜ?  作者: さたけやま


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第8話 『執着』


ほらだめだった。


 私は自宅のベッドで自分のお腹を見て、そう思った。


 1ヶ月だ。

 1ヶ月程度であの怪我が綺麗に治るわけがなかった。


 お腹には横1本、分かりやすいツギハギの後ができていた。

 さらに目線を少し上に向けると、心臓があるあたりも怪我が治らなくて赤黒く変色していた。私の臓器に何かをした結果らしいが、私には何をしたか教えられなかった。


 管理局手配の病院は腕と足という見える箇所は治してくれるが、腹や胸は見ての通りだ。死なない程度に治される。そして私の場合は、たまにこうやって改造される。


 フフフ


 私はどんどん壊れていく。

 私は中学生だったはずだ。

 

 でも、私はもう子供を作れないらしい。

 

 いつの間にかもう、夢だった子供二人と好きな男性と一緒に暮らすような、幸せな家庭だって、築けないらしい。


 学校に行くといっつも思ってしまう。

 あなたたちみたいに惰性で過ごしたかったって。


 私が命をかけて守り続ける社会はちっとも良い方向へ行かない。

 管理局の闇は依然健在。

 私って何を守ってるんだろう?


 最初のうちは確かに守れた実感があったはずだ。


 ……でも、今の私は壊しているだけだ


 フフフ


 守ったものより壊したもの方が多いなんて、面白い。


 それじゃ、私は怪獣と変わらないじゃないか。


 なんなんだろう私って、ほんと面白い。


 ………………………………

 ………………学校に行かなきゃ


 私は準備を済ませると、家を出る。

 家を出た瞬間から、私は表情を作った。


 『理子』は無表情で出歩いたりしない。

『理子』は私みたいな人間じゃない。

 

 本当のことを言うとツインテールは嫌いだ。女児が好むような可愛いものは、私が嫌いなものだ。

 ……私はナギナギみたいにロングで下ろす方が好きだ。

 ちょっと前までは誰もいないところでは下ろしていたが、そうしていたら、『私』が心地よくて手放せなくなりそうで、やめた。


 いつか私は『理子』になる。

 もう切り替えが上手くできなくなってきた。

 だから私は『理子』になろうとしている。

 能天気で、人に好かれて、可愛い。

 小動物みたいな『理子』

『理子』は管理局の闇に触れず、楽しく、過ごせるのかな……?


 きっと無理だ


『理子』は能天気でバカでどうしようも無い人間だから、管理局に良いように食い潰されて終わる。

 ざまぁみろ


 ……………………

 …………………………


 あぁ!そう終わるぐらいなら『私』が最後に派手に暴れてやろうか!


 あぁ、いや、分かってる。武器も封じられた私には何も出来ないってことぐらい。

 何も出来ない、何も変えられない、『私』ってなんで生きてるの?


『理子』は何も出来なくても、なにも変えられなくてもきっと生きていける。

 あぁ『理子』私の半身。『理子』が羨ましくてたまらない。『私』は『理子』になりたかった。


 なってしまうのではなく、なりたかったのだ。


「……理子?」


 ぱっと顔を上げると心配そうに見つめるナギナギと美桜がいた。

 あれ?ここ、どこ?


 っ!?どうして席についている!?

 いつ!?

 私はちゃんと表情を作れてた!?作れて……ない……


 あの歪な笑みを早く、貼り付けないと、『私』がバレてしまう……


 ……………………

 …………………………


「2人とも!おはよ〜!」

「お、おはようございます」


 美桜……?その顔は気づいてないんだよね?なら大丈夫だよ。


「……おはよう」


 あ、れ?


 ……ナギナギは何か気づいている……?明らかに今何かをおかしく感じているような顔をした!

 ……だめ、気づかないで!私に気づいたらあなたまで巻き込んでしまう!私はナギナギを巻き込みたくない!


 ……でも気づいほしいんだ


 誰にも理解されない『私』に気づいてほしい


『私』を抱きしめて欲しい


『私』を愛して欲しい


『私』だけを、愛してキスしてくれたら、きっと


それならきっと、『私』だって、生きてていいって思える。


『私』で、生きられるんだ


「今日の一時間目に抜き打ちテストがあるらしいわ。私は勉強するし、席に戻るわね」


 あぁ、行かないで!

 

 『私』に気づいて

『私』を見て

『私』を理解して

『私』を愛して

『私』だけを見て


 『私』以外何も見ないで!


「うん〜!理子も勉強するね!」

「あぁ、なら私も席に戻りますね」


 ……………………

 ………………………………気持ち悪い


 ———————————————————————————


「……理子、顔色が悪くないですか?」


 ……美桜?


 あれ?ここ、どこだっけ?

 あぁ……学校……

 時間は……あれ?もうお昼休み?

 今日って、何があったっけ?

『理子』、ちゃんと授業受けれてたかな?

『理子』、ちゃんと話せてたかな?


 『理子』は今日も楽しそうに過ごせたかな?


 ……?


「理子、今日はもう帰った方がいいと思います……あまり体調が良くないみたいですし。」

「理子、大丈夫だよー!あんまりよく覚えてないけど、今から頑張るからね〜!」


「理子、今日はもう帰りなさい」

「どうして?理子は元気だよ?理子は大丈夫だよ?理子は大丈夫なはずだよ?だって、理子だもん!」


 ナギナギは私の話を聞くと、何故か表情を歪めて、先生の元へと歩いていく。何かを話すと帰ってきた。


「理子、先生から早退の許可は貰ったわ。帰りなさい。」

「なんでそんなことするの?理子は今日から頑張ろうと思ってたのに。出鼻をくじかないでよ。私が!……」


 今何を言おうとしたんだろ?

 なんで急に頭が暑くなったんだろ。

 分かんないや。


 理子、今日変みたい。


「ごめん、ナギナギ。やっぱり帰るよー。理子変みたい!てへっ!」

 安心させるために頭を手で叩き、舌を出す。


「……えぇ、寄り道せずすぐ家に帰りなさい」


「うん!じゃあ、ふたりともばいばーい!」

「えぇ、さようなら」

「は、はい。ばいばい...」


 理子どうしちゃったんだろ?

 1ヶ月も入院したからおかしくなっちゃったのかな?


 ?入院?


 そんなのしたっけ?理子、どこもおかしくないよね?


 まぁいいや。休みができたと思って、楽しもー


 ———————————————————————————

学校からの帰り道、理子はやっぱり体調が良くない気がして、そのまま家に帰ることにしたんだー


 うぅ

 ……なんだか吐き気がするなー


 理子……病気になっちゃったのかな。


 嫌だなぁ注射とかされるのかな?

 怖いなぁ……


 ぐらっ


 あれ?頭が重くなって……


 あれあれ?グラグラする

 真っ直ぐ立てない


 あれ?

 あれ?


 あっ……やばい……倒れ……


「理子ちゃん!?」


 あ、今のお姉さんの……


 ———————————————————————————

 あれ?理子、


 あぁ……倒れちゃったんだっけ?

 お姉さんが見える。


 あれ?これって

 膝枕だ。


 理子膝枕されてみたいと思ってたんだよね!

 愛されてる気がするから


 ?


 理子は男の子が好きで、それなのにお姉さんに膝枕されて愛を感じて、嬉しいの?


 何でだろ?


「あ、理子ちゃん起きた?」

「うん!理子もう平気……っととあれ?」

 起き上がろうとしたら、急にまた頭がクラクラしてまた膝枕に戻っちゃった。


「よく分からないけど理子ちゃんの体調が良くないなら、無に動かなくていいからね。お家の人呼べる?それともお家まで運ぼうか?」


 お姉さんは心配してくれている。

 安心させなきゃ。


 笑顔を作ってー


 ?


 あれ?なにか喉からせり上がってくる……


「おえっ」


 ビシャビシャ


 あ、れ?


「お、うぉえ……」


 ビシャビシャ


 ダメダメ!お姉さんの膝の上で吐いちゃってる!

 堪えないと堪えないと……


 ごく、ごく、ごくっ


 ……必死に唾を飲み込むが一向に帰ってくれない!


 どうしよう!どうしよう!


「あー理子ちゃん、仰向けで吐くと危ないから、まずは起き上がろっか。」

 お姉さんは私を抱き起こす。そしてベンチから下ろして立たせる。


「支えるからさ、もう最後まで出しちゃお?」


 ダメだダメだ!

 今出したら何かほかの物が出てきそうな気がする!


 ごくっごくっごくっ


 「ほら」


 さすさすさすさす


 お姉さん、背中をさすらないで!

 理子に優しくしないで!

 私……


「おぇぇぇぇ」


 出ちゃった……

 

…………………………


「もう全部出せた?」

「うん……」


 私はベンチに座って、ただお姉さんが私の吐瀉物を片付けるのを見ていた。


「そっか。なら良かった」


 ……私はさっきまで何をしていたんだろう。

 私を見失って、挙句の果てにこんな迷惑をかけて。

 しかもお姉さんは、私を守ってくれた人。


『理子』で会うって決めたはずなのに。


 お姉さんだってそっちのがいいに決まってる。


 ……笑顔、作れるかな


 ぐっぐっ


 あ、出来そう。


 ほら、歪な顔の完成……


「お姉さんありがとう〜!迷惑かけてごめんね〜!それと、前は助けてくれてありがと〜!」


 お姉さんは掃除してくれていて、私を見ない。

 その方がいいのかもしれない。今は上手く笑えている自信がない。


「いや、気にしないで。それより、前は割り込んでごめんね?」


 ……割り込む?

 あぁ、お姉さんが入ったことによって取り分が減ったと思っているのだろうか?


 フフ。そりゃ思わないだろう。


 私に取り分なんて元々無かった、なんて。


「それこそ気にしないでよー!理子は助けてくれて嬉しかったな〜!」

「そう?なら良かったのかな……」


 そういうとお姉さんは、ティッシュとか雑巾とか、掃除に使ったものを袋に入れて縛る。


「理子ちゃん、やっぱりお家まで私が」


 そして、私に向き直ると固まった。


 あ、やっぱり笑えてなかったんだ。

 もう『理子』にはなれないのかな。

 さっき、吐き出しちゃったから。

『理子』は私の吐瀉物に溺れて、死んじゃったのかな。


「……理子ちゃん、ちょっと笑顔を緩めてみてくれない?」

「笑顔を……?こう?」


 少し緩めてみる。


「うーんもうちょっと、もうちょっと、もうほんの少し、ちょっと……あ、良い。理子ちゃんはなんかそっちのが可愛いや」

 そういうと、お姉さんは少し笑った。


「可愛い……?」


 私は自分の顔がよくわからなくて、スマホで見た。

 

 そこには、無表情から少しだけ笑っている『私』がいた。

 

 あれ?これって『私』?

『私』のことを可愛いって言ったの?

『理子』じゃなくて、『私』が可愛いの?


 あれ?なんだか暑くなってきた。

 どうしてだろう。


 あ、そうか。

 お姉さんは『私』を見ちゃったんだ。

『私』に可愛いって言ったんだ。


 お姉さんは『私』に気づいちゃった。


 どうしよう

 心臓がドクドク早鐘を打っている。


 私もしかして……


 あぁだめだ。

 気づいたら欲しくなってしまう。

『私』をもっと理解して欲しい

『私』に触れて欲しい

『私』を愛して欲しい

『私』とずっと一緒にいて欲しい


 ……お姉さんが『私』を愛している証拠に、そっと口付けをしてほしい。


 でもだめだ。

 だめなんだ。

 ……お姉さんは巻き込めない。


 お姉さんは優しい。でもだからこそ、私みたいな穢れた人間とは釣り合わない。


 ダメだ。ここにこれ以上いたら、お姉さんに何をするか分からない。


 今もその体に触れたくてたまらない。


 帰ろう。今すぐ帰ろう。お姉さんとはもう会わない。近づかない。

 そうすればメッキが剥がれることもない。

 お姉さんは巻き込まない。


『私』はいつか壊れてしまうけど。

 お姉さんまた私にいや目に合わされるのは回避出来る。


「お姉さん、さよなら……」


 ……私はベンチから勢いよく飛び降りると、公演を抜け、家まで駆け出した。

 お姉さんの言葉は聞こえなかったし、顔は見なかったので、何を考えていたかは分からない。


 でも、もう会わないのだから関係ない。

 そうだ。関係ない。


『私』を理解してくれる人が今後現れないとしても、私は、もう、お姉さんを巻き込む訳にはいかない……


 ポロポロと、しかし、次第にざーざーと、

 涙は雨のように振り続け、わたしの頭と顔が曇ってしまっていることを察した……


『私』を見てくれる人がいて気づいた。


 『私』は誰にも気づかせちゃいけない。


『私』を誰かに知ってもらおうなんて思ってはいけない。

『私』は隠し通す。


『私』はこのままきっと死んでいく。


 だから『理子』は今日も家に帰る。


『理子』はまだ死んでいないからだ。

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