第6話 「そういえば中学2年生」
私は自分の部屋でベッドに腰掛けてぼーっと考え事をしていた。約束はしていないが、そろそろ来る気がするのだ。
今日はツバサが一日中自分の推しについて喋るから大変だった。
帰り道でも、人に見られてる気がして落ち着かなかった。なんなら、女児が「次いつ出るんですか?」と聞いてきたが、「秘密だよ」なんていった。
いや、秘密も何も私未だに管理局とかいう事務所から連絡がない。まぁ私が悪いんだけど、だから、私は次いつ出るのかも、出ない方がいいのかもよく分からない。
そんなことを考えていたら、ノックがなった。
いつもより、少し控えめな音がした。それだけで私は少し違和感を覚えて、少し落ち着かない気持ちになった。
「どうぞ」
入りますね
という声と同時にドアが開く。
「美桜、適当に座ってよ」
私の部屋は収納棚と、勉強机とそれとセットの椅子。そしてベッドしかないので、椅子を譲るつもりでベッドに腰掛けた。
「では……」
美桜はベッドに座る私の隣に座った。
体と体がピッタリ密着していた。
少し驚くが、昔から美桜はくっつきたがる傾向にあるので、まぁこんなもんだろう。
「美桜、ごめん。お姉ちゃん、魔法少女になっちゃった。」
本題は私から切り出した。美桜からは言い出しづらいかもしれないし、約束を破った側としての責務だと思った。
「っ!」
美桜は体をビクッとさせて俯いてしまった。
「ごめんね……」
「いえ、」
美桜は後に続く言葉を言えないでいるみたいだった。
「……理子ちゃんがさ、本当に死んじゃうんじゃないかって思ってさ、なら、なるしかないかなって」
私は正直に言う。
「そう……なんですよね……謝らないでください……。お姉ちゃんは悪くないんです……悪くは……ないんです…」
美桜は絞り出すように言う。
美桜の反応を待つ。美桜は沈黙に負けたのか、私の待つ姿勢に影響されたのか、口を開く。
しかし、言った言葉は、私の予想していた言葉とは大きく違った。
「お姉ちゃんは……お姉ちゃんは、なにと契約したんですか……?」
美桜はハッとなにかに気づいたような顔をしたと思ったら、なんでもありません!と焦ったように言う。
なにと?…………なにと?
契約って事務所と、という話か?
なら……どことも契約してない……
いや、うーん。あの不審者を使って魔法少女になった時点で私はどこかの事務所と契約したことになるのか?
分からない。
今、何故かピリピリとした空気なので、契約ってなにって聞きづらい。そうだ。逆質問だ。美桜の答えを聞いて考えよう。
「逆に美桜はなにと契約したの?」
美桜はまた肩を震わせた。そして、沈黙が5秒ほど続いたあと、「……妖精です」と答えた。
美桜は伏せていた顔を上げ、私をじっと見て、私の反応を見ている。
「へぇ〜……センスいいね」
美桜は私の答えを聞いて、少し目を開いて、でも何も言わなかった。
え、
……どういう意味?妖精?
美桜はいつのまに厨二病になったの?
あぁいや、美桜は中学2年生だったか。……なら合ってるのか?
なら乗ってあげないと可哀想なのか?……私も、もう20歳だ。そういうのは恥ずかしい。
でも、うん。私はお姉ちゃんだ。
うーん。妖精と関係がありそうなもの。
妖精……悪魔?天使?神?
……だめだ。私そういうの疎いからよく分からない。
「それは……あの契約のこと言ってるんだよね?」
ブラフだ。
「はい……魔法少女は絶対一度行っている契約です。」
美桜は顔を歪めた。また俯いた。「……そうです……そうです……お姉ちゃんだって、絶対なにかと契約してる…」
ボソボソと呟いているのが全て聞こえている。
……魔法少女は絶対行っている?
魔法少女全体で厨二病ごっこが流行ってるのか?なら、ほかの魔法少女のパターンを聞けば分かるか?私は回答の正解を求めて質問する。
「理子ちゃんは何と契約してるの?」
美桜の眉がピクっと痙攣した。
「……妖精です」
「凪ちゃんは?」
「……妖精、です」
「ええと、あとは……ええと、さゆ、り、そうだ!小百合さんは?」
「っ!?なぜその名前を!?」
美桜は伏せていた顔を勢いよく上げ、私を見ている。美桜は少し恐怖を滲ませた顔をしていた。
……え?私何か変なこと言った?
元序列1位とツバメが言っていた名前を出してみたが、美桜の反応は明らかにおかしかった。
……まさか、小百合さんって、後輩から嫌われているのか?そうでなければ、位が高い人間がこんな反応をされるなんておかしい。
序列1位として売られていた小百合さんは他の魔法少女より給金が高くて、他の魔法少女に目の敵にされているとか?
世知辛いなぁ……
「ごめんね。よくない人の名前を出したね。」
「い、いえ、良くないというか……。……あの、絶対管理局の前で、その名前を出さないでくださいね?」
「わ、わかった。お姉ちゃん約束するよ。」
「絶対ですからね!?」
「前の約束破って信用が無いんだね……。次は絶対破らないから!お姉ちゃんを信じて!」
美桜はそれまでの焦っていた顔を急に呆けた顔に変えた。
「前……ですか?」
美桜は首を傾げた。
ゾクッ
あれ?
今なんか……
……まぁたぶん気のせいだ。
多分私が約束だと勘違いしていただけだろう。
あとは、美桜の心配事を消しておくか。
「美桜、私はちゃんと魔法少女をするから、安心して。成り行きとはいえ、私も責任を感じてるから。」
美桜はまた顔をくしゃりと歪めて、手をぐっと握っていた。
「ちゃんとなんて、やらなくていいです……嫌なら逃げてください……。お姉ちゃんは絶対、死なないでください!」
そういうと、美桜は抱きついてきた。
死なないで?自殺者でも出ちゃったのかな?
まぁいいや。
「お姉ちゃんは美桜がいる限り、死ぬつもりは無いから大丈夫だよー」
抱き締め返して、頭でも撫でてやる。
「わた、私が死んだらお姉ちゃんも死ぬの?」
美桜は泣きそうな顔をしながら、何故か怖いことを言っている。
「お姉ちゃん、心中は嫌かな……」
私は少し苦手だ。死ぬ時は一緒に、みたいな考え方。私はそれぞれがそれぞれの人生を終えた果てに、老衰で死ぬのがいいなぁと思う。
美桜は何かを考えるような間が空いたあと、「お姉ちゃんが望むなら私は心中でも……」
なんてボソッと言ってた。
聞かなかったことにした。
怖かった。
聞かなかったことにしたかったので、そのまま美桜を胸元に押し付けて、あやして、寝落ちさせた。
ふと、私どこで寝たらいいの?と一瞬思ったが、まぁ姉妹だしいいかと、美桜の隣で寝た。




