3章 幕間1 「後始末」
わたくしは後始末をするため、先程の女性が部屋から出たあとも部屋に残っていた。
「咲も、助けに来てくれてありがとうございますねぇ〜」
……咲は何も返さず、ただ頬を手で擦る。
「……咲?どうかしましたか〜?」
……咲は何も返さない。
ただ頬を擦るだけだ。
わたくしは少し心配になって咲に手を伸ばした。
「咲——」
パシン
「…………」
わたくしは自分の手を見る。
……払われた?
わたくしの手が?
どうして?
わたくしのことをあんなに慕ってくれていた咲がどうして……
愛想を尽かした?
いや、それならこんな所まで助けに来てくれないだろう。
「……咲、何かあったんですか?」
咲は何も返さない。
そして、何故か自分の胸も擦り始めた。
「咲……?」
咲のことを訝しんでいると、
ガチャリ
ドアが開く音がして、青い顔をして項垂れた凪が入ってきた。
「あら〜凪ちゃん。さっきはちゃんとお礼を言えなくてすみません〜助けてくれてありがとうございます〜」
わたくしは凪ちゃんに助けてもらったから、咲達の元へ駆けつけられた。
凪ちゃんにも感謝している。
「……小百合……美香さん、どうしたのかしら……?」
「……どういう意味ですか〜?」
凪は口を開いて……
またきゅっと閉じて……
また開いたかと思ったら
「なんでも……ないわ……」
そう言った。
もしかしたら……
わたくし1人を救うために……
大きな……
とても大きな犠牲を払ったのかもしれない。
わたくしはその規模感も具体的なものも分からず、ただ漠然とそう思った。
「他に捕らえられている方はいらっしゃらないんでしょうか〜?」
「……あとは現序列一位と二位がそれぞれ捕まっているはずだけど……ここまで見当たらなかったからもっと下にいる可能性が高いわ。」
「あらあら……」
……現状を見ると……
様子がおかしい咲に、気落ちした様子の凪ちゃん、
そして代償を負ったわたくし。
更に咲と凪ちゃんはここまでの疲労もあるだろう。
それを加味すると……
今ならお爺さんにも負けるかもしれない。
しかし、この先にはお爺さんだけじゃなく現序列一位と二位も居るかもしれないとなると……
一旦撤退するしかないかもしれない……
ここまで来られること自体がこの先ない機会かもしれない。
次はもっと警備が強くなるかもしれない。
……それでも……
無謀に突っ込んで3人とも死ぬよりは、マシなはずだ。
「皆さん、1度帰りませんか〜?」
「分かったわ。」
……咲にも呼びかけたつもりが、咲は何も返してくれず、まだ胸を擦っていた。
だが、放置する気はもちろん無かった。
「……凪ちゃん、咲のこと、連れて行ってくれませんか〜?」
「小百合は?」
「もちろん私も帰りますが〜……私は代償のせいで左手が動きません〜。左目も一部機能が使えなくなっています〜だから咲を持つことができません〜……それに、わたくしの右手が空いていれば、最低限守ることはできますわ」
「分かったわ。」
凪ちゃんはそう言って、咲に近寄って……
そんな凪ちゃんとすれ違うように咲が動き出す。
そして、凪ちゃんを置き去りにして咲は部屋を出て行った。
「……私……」
凪ちゃんは自分の手を見て、顔をしかめる。
「凪ちゃんのせいじゃないですよ〜」
わたくしにも何がなんだか分からないが、ただ凪ちゃんのせいじゃない事だけは分かった。
……もっとも、凪ちゃんはまだ誤解しているようだが……
そして、わたくしたちは2人だけで管理局を後にした。
外に出てすぐ、わたくしは変身を解いた。
そして、人に見つからないようこそこそと凪ちゃんと、久々に家に帰った。
……家は温かく、居心地が良かった。
わたくしは帰ってきたのを実感し、嬉しく思った。
そして、
わたくしが付けていた記録に手を伸ばす。




