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魔法少女ごっこをしてるだけなのに、勝手に周りの人が曇っていくのはなぜ?  作者: さたけやま


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第36話 「痛み」

私たちは7階へと向かう階段を降り始めた。

 

 7階……

 咲さんに今知っている情報を全て吐かせた。


 だが……


 7階に関する情報は無かった。


 8階に小百合さんが居ると言う話も聞いたが……


 8階に小百合さんが居るというのは、咲さん達が潜入した時の話であって、警戒された今はそんな事も無いかもしれない。


 管理局は8階よりも下があるらしく、下に行けば行くほど情報が少なくなるらしいが……

 私としてはそんなものには一切興味が無い。


 ……というかツバメももうダメだったんだし、帰って良くないかな?


 私は自分の行動に限りなく違和感を覚えた。


 そんなことを思っていたら、いつの間にか7階に着いていたようだ。


 ……ズリ……ズリ……ズリ


 7階は1階から5階と変わらず、オフィスのような見た目に……

 6階でもそうだったが、警備がいないのが特徴だった。


ズリ……ズリ……ズリ……


 しかし、

 

 ……何かを擦るような音がずっと鳴っている。


「……嘘……でしょう……」


 咲さんが呆然とつぶやく。

 私にはなんの事だか分からず、また見渡してみるが……


 ただの廊下とドアしか見当たらず、全くもって驚くようなものは見当たらない。


「……ぐっ……」


 咲さんは心臓を抑えて、そのまま蹲ってしまう。


「咲さんどうしたんですか?」

「……この階に……怪獣が……いる……わ」


 咲さんは苦しそうにそう言う。

 そういえば理子ちゃんが怪獣からは逃げられない、みたいな話をしていた気がするな。

 ……理子ちゃん今何してるんだろうなぁ……

 無事なら……


 少し嬉しい……のかなぁ……


「……へん……しん……」


 咲さんがゆっくりと唱える。


 そして、いつもの機体に乗る。

 

 機体はかかと部分から火のようなものを出し始める。


「……だめっ!……動かないで……!……嫌よ……!……いやっ!!」


 咲さんが大きな声を出した瞬間、火が強く吹き出して、その勢いのまま廊下を一瞬で通って曲がり角を曲がってしまった。


 ……あれ?

 咲さんの替えは無くなったかもしれないんだよね?


 ……ならあの咲さん貴重じゃん。


 急がなきゃ。


 私も咲さんの後を追って行く。


 咲さんには追いつかないが、咲さんの機体は音が大きいので、道は何となくわかる。


 その通りに近づいていくと、機体の音が近づいてきた。

 と、言うより、機体の方が止まっているみたいだ。

 怪獣からは逃げられない、という話から察するに怪獣から一定以上距離を取れないのだろう。


 ……ズリ……ズリ……


 しかし、何かを擦るような音はまだ鳴り続けていた。


 ……咲さんはどうして殺さないのだろう?

 ガス欠かな?

 

 私はそう思いつつなんとか最後の曲がり角を曲がる。


 ばっと、廊下を一望すると……


 咲さんが手を出さない理由がわかった気がした。


 ……私も手を出せないかもしれない。


 そこには……


 黒い体の3mはありそうな巨人が、その体の高さが天井に収まっていないからか、首を直角に曲げながら、頭を垂れた状態で立って歩いていた。


 ……しかし、その顔の位置にはとても小さい顔が……


 そして、

 とても見覚えがある顔で……


「……ツバメ……」


 巨人の顔にはツバメが据えられていた。


 ……どうして……?

 胸が痛い……

 どうして涙が止まらないの……?


「……おえっ……」


 びちゃびちゃ


 今の……私の口から出たの……?


 どうして……


「美香っ!」


 咲さんが私に向かって、注意を促す声を上げた。


 吐き気を堪えて、滲む目で改めて巨人を見ると、巨人はどうみても女性の体でさえなかった。筋肉質な体を晒しながら、腰ぎぬだけをしていて、左手だけ後ろに引っ張られているかのように後ろに張っていた。


 少し気になって左手の先を、巨人の体の隙間を縫って覗いてみると……


 ……あぁ……見なきゃ良かったな……


 ズリ……ズリ……ズリ……


 その音は……


 その音は……


 手に持っていたツバメの顔が無い死体を引きずる音だった。


 それは……巨人にとっておやつを持ち歩くような感覚だったのかもしれない。

 ……だって、ツバメは腰から胸にかけて、大きな噛みつきあとと共に、抉られていた。


 ……どうしてこんなに悲しい気持ちになるのだろう……

 私がツバメを手に入れたら、こんなことよりもっと惨いことをしていただろう。

 

 それなのにっ……なんでっ!!


 なんで私の胸はこんなに痛いの……っ!!


「……美香、こいつは私がやるわ。美香は下がってて。」


 咲さんは大きな白と青の長い銃のようなものを構えて、その放射口に光が集まり始める。


 ……ダメ

 ダメだよ……


 ツバメが……居なくなっちゃう……


 ……っ!?


 私は何を考えて……

 だってツバメはもう……死んでいるはず……


「美香!伏せておいて!」


 咲さんの声で我に返り、咲さんを見ると、咲さんの放射口から、ちょうど青い光が出て……


 通路ごと覆い尽くすような高出力の光が……


 跡形もなく全てを壊してしまった……


「……あっ……ツバメ……」


 私の目からはまた涙が溢れてくる。


 咲さんは私の方に歩きながら、苦しそうな顔をする。


「ごめんなさい……美香……殺すしか……無かったのよ……」


 咲さんはそう言いながら、私を抱きしめる……


 咲さん……私あんな酷いことをしたのに……

 どうして抱きしめてくれるの……?

 どうして抱きしめられるの……?


 私にはわからないよ……


 分からない……


 私の目からはまた涙が吹き出す。


 咲さんはこんなに凄いのに……

 私は何をしているんだろう……


 ……私は泣き止んでもまだ……


 呆然としていた。


 咲さんはそんな間も私の近くに立っていた。


 それもまた……余計に私の心を痛めつける。


 ……私は……もう、優しい人の近くにはいられない……

 胸が痛い……

 耐えられない……


 私は……私が生きていくには……優しい人を……全て殺さなきゃいけないのかもしれない……


 じゃないと耐えられない……


 この胸の痛みは……


 私が感じたどんな痛みよりも……


 痛い……


 ……咲さんは殺したくない……


 だから……


 残りの優しい人は……全部殺さなきゃいけないんだ……っ!

 美桜だって、能愛だって、kだって、望ちゃんだって……


 私はあの人達のそばに居られない……っ!!


 だったら……その人達も……殺すしかない……


 嫌だなぁ……っ!


 殺したくないなぁ……っ!!


 ……私はそのまま蹲ってしまい……

 ここから動けなくなってしまった。


 ———————————————————————————

「なんて……っ!!なんておぞましい……っ!!ここまでするの!?」


 ……私は7階層の化け物を見て、涙が止まらなかった。

 ツバメ……強い魔法少女という訳では無いが、小百合を助けるために着いてきてくれた優しい女性。

 向かう道中も私と咲さんの気持ちを紛らわすために会話を回してくれていた。


 ずっと人のためだったのだ。


 そんな人の……最後がこうなの……?


 ツバメは悪いことは何もしていない。


 ただ自分の好きな人に幸せになって欲しかっただけ。

 その気持ちを……


 その気持ちを踏みにじるなんて……


 ……もう冷静じゃいられないわ。


 ……あぁっ美香が見てしまった……


 ……そうなるわよね……っ


 美香がそうなってしまうのも仕方ないし、誰も咎めない。

 美香がああなってしまったのは……

 ツバメの顔だけじゃなくて……

 

 ……ツバメの顔でツバメの体も食べたということに気づいてしまったのもあるだろう……


 惨い……!

 なんて惨い……っ!


 ツバメ……ツバメ……っ!!


 関係は決して深くはなかった……

 それでも……


 それでも同じ目的に向かって一緒に行動していたから、親近感を抱いていた。


 それが全て……全て私に悪い方に返ってくる……


 ……私の視界には咲さんが怪獣を討伐して……


 ……美香が蹲ってしまうところまで見えた


 それ以上は……


 それ以上は見ていられなかった……っ!

 気持ちが分かってしまう……っ!

 伝わってくるのだ……っ!


 あぁ……ツバメ……っ!


 私は隠れたまま、涙を流し続ける。

 見られたって良いはずなのに。

 ツバメの体がさっきまでいた場所で泣くのは美香の権利のような気がした。


 だから私は密かに泣いた。

 美香がツバメを思う時間を邪魔したくなかった。


 それがせめてもの……せめてものツバメのためになると……

 そう信じて……

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