第35話 「だから?」
5階には特に特筆することは無かった。
ただ、前は温存するために戦闘はしてくれなかった咲さんが積極的に戦ってくれるようになって、すごく楽だ。
「咲さん、ありがとう」
私が礼を伝えるも、咲さんは反応しない。
それは面白くないな……
「話してくれないなら殺すよ?」
咲さんはビクッと身体を震わせると、ゆっくりと話し出した。
「……死にたくないから、やっただけです……」
です?
敬語?
……似合わないなぁ……
「ですもやめて?元の口調に戻ってよ」
「……分かった。あた、しは死にたくないだけ」
咲さんはゆっくりと、忘れた自分を確かめるように機械的に喋る。
……それも良いかも。
「いいですね。先に進みましょう。」
私たちは6階に向かった。
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……6階は異臭がした。
階層が1つ違うだけで、どうしてこんなにも匂いが変わるのか。
それに、すごく嗅ぎなれた匂い……
臭いわけじゃない。
どちらかと言うと、私は好きな匂いだ。
……濃い血の匂いだ。
それを嗅いだはずだが、咲さんは表情1つ変えなかった。
確かに咲さんの言う通り、6階層は牢屋のようだ。
5階より上がオフィスのようになっていただけに、それだけで凄く歪だった。
あと警備が1人も見当たらないのも少し違和感があった。
廊下と壁の配置は5回より上と大して変わらない。
ただその壁が檻になっていて、部屋になっていた部分に牢屋の空間があるだけだ。
……牢屋の中には紫色になっているぐちゃぐちゃなスライムのようなものが蠢いていた。
時折呻くような声を出しているから、生きては……いるのだろう。
牢屋の中はほとんどそんなスライムが収まっていたが……
ツバメを探すために1個1個確認していて、スライム以外も見つけられた。
しかし……
「これは……どういうこと?」
咲さんが収められている牢屋もあったのだ。
更には……半分スライム、半分咲さんのような個体もいた。
牢屋の中の咲さんは一言も喋らず、壁に項垂れているだけだった。
私の隣にいる咲さんにとっても衝撃的だったのか、無表情から目を見開いて口を痙攣させている顔へと変貌していた。
私じゃない人間が咲さんをいじめていることに、少しの嫉妬感を抱くが、発散先が無い今は、忘れることにする。
こうやって檻の中の咲さんを見ていると、私でも気づくことがある。
私が殺す度に出てきていた咲さんは、ここから出てきていたのだろう。
今咲さんを殺して試してみてもいいが、せっかく咲さんが私に従ってくれるようになったのだ。そんな咲さんをまた怯えさせるのは惜しい。
というか、こんなものを見ていたら、流石に理解する。
咲さん……咲さんは、本物じゃないんですね。
面白い。
でも記憶は引き継いでいて魔法少女としての能力は使える。
クローンの兵隊のようなつもりだったのだろうか?
面白いなぁ……
私たちは6階層をゆっくりと歩く。
ツバメが居ると思っていたからだ。
……いない。
どうして?
ツバメはどこ?
……私たちが6階層の全体を周り終えて、7階層の階段が見えた時に……
階段の手前に、
特別大きな部屋があった。
部屋は牢屋の檻になっていた部分が壁になっていて、ドアだってある。
入らないと中が分からないみたいだ。
咲さんは6階層を歩き続けたせいもあって、体はガクガクに震えているし、顔だってなにかの表情を作ろうとして無表情に戻るというのを繰り返している。
そんな咲さんを連れて入ったら、
本当に咲さんが壊れてしまうかもしれない。
せっかく私のものになったのに、簡単に壊しては勿体ない気がする。
「咲さんはここで待ってて」
「……分かった。」
咲さんを置いて私はその部屋のドアを開けた。
咲さんから中が見えないよう、開けてすぐドアを閉めた。
そして、部屋を見渡すと……
部屋は見たことがないぐらい真っ白の部屋に……
中心に木製の椅子があった。
その椅子に縛り付けられている者が居た。
ツバメだ。
ツバメは項垂れていて、顔がよく見えないが……
まるで縛られていないと座ることすら出来ないみたいに、前のめりになっているのを縄がどうにか転ばないように引き止めているような状態だった。
「…………」
私の予定とは違う。
私は助けに来たツバメが私に感謝して、そんなツバメをあとからいじめる予定だった。
でも……
ツバメはもう意識が無いように見える。
ツバメの肩を揺さぶる。
「ツバメ、ツバメ」
呼び掛けてみる。
反応は無い。
顔を覗き込んでみると……
ツバメの目には何も収まっていなくて、口はダラっと開いていたが、唇も口の中も乾ききってしまっていた。
ツバメは死んでいた。
心音も確かめた。
脈も測った。
呼吸はしていなかった。
私のツバメに……
先に唾を付けて殺したやつがいるんだ……
許せない……!
許せない……っ!
ツバメはただ小百合さんを助けようとしただけなのに!!
ツバメは私が食べる予定だったのに……っ!!
……ツバメをこんな目に遭わせたやつは……
今まで感じたこともないような痛みと苦しみを持って、いたぶって殺してやる……っ!!
「ツバメーーーっ!!」
その時、天井のタイルがパカッと開いた。
その穴から……
数え切れない人の手が出てきて……
ツバメを掴む。
ツバメは抵抗もできず、椅子ごと運ばれて行く。
……何これ?
ツバメはこのまま連れて行かれるんだ……
このまま連れていかれるよりは、私が弔ってあげようかな……?
私がそんなことを悩んでいると……
腕は急に加速してそのままツバメを引き上げてしまった。
ツバメが天井の奥に消えると、タイルも塞がって人の手も帰っていった。
私にとってツバメがどのように使われた方が嬉しいのかは瞬時に判断できないことだった。
ただ……友人としての私は少し、……少しだけ悲しい気持ちになった……
私は部屋を出た。
しかし……咲さんが見当たらない。
逃げた?
逃げたの?
あんな目にあってまだ逃げられるの?
ツバメも居なくなったんだから、私には咲さんしか居ないのに。
私は咲さんを探して6階層を歩き回った。
すると、音が聞こえてきた。
私にとっては聞きなれた音であると同時に……
普通は聞いてはいけない音——
ブシャーー!!
グチャグチャ
「……死ね……死ね……死ね……」
近くにある牢屋の中から聞こえることに私は気づき、近づいてみた。
咲さんが見えた。
と同時に……
咲さんが馬乗りになって、牢屋の中の咲さんを殴打しているのが見えた。
なるほど。
自分がクローンならほかの自分を殺せば本物になれるとでも思ったのかな?
私は牢屋から離れて周りの牢屋を見てみるも……
予想通り牢屋の中は原型を留めていない死体ばかりだった。
紫のスライムスラも例外ではないみたいで、スライムは水に溶けたように紫色の染みだけになっていた。
しかし、時折その染みの中に人の手足が見えた。
やっぱりあのスライムは人になろうとしていたんだなと私は思った。
私は咲さんの元へと戻った。
「咲さん、何でもいいですけど、もう行きますよ?」
「……分かった」
咲はゆっくりと振り返る。
咲の体は紫の液体で塗れていて、とてもグロテスクだった。
こんな気持ち悪い液体じゃなくて……
……私色に染めたいなぁ
私はツバメを亡くして直ぐなのに、そんな気持ちになってしまい、
私は屈んでいた咲さんに、自分のお腹を引き裂いて血をかけた。
「……ッ!……」
咲さんは何も言わず、ただ私の血を被った。
「飲んで……?飲めば怪我が治るよ?」
咲さんは私の血を手元に貯めると、ズズズっと飲んだ。
……興奮する私と……
ツバメを亡くして直ぐなのにと思う自分がいることに、少し驚いた。
私達はそのまま7階層へと向かった。
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「何……ここっ!?私が調べた時にはこんなものが入ってるなんて書いてなかったっ!!」
……私が調べた限りではここは牢屋になっていて使われていないという話だった。
しかし、その牢屋は見ての通り、紫の何かと咲が入っていた。
たくさんの咲を見れば流石にわかる。
咲は既にあの時に死んでいるのだ。
つまり、今美香の隣にいる咲は偽物で、一緒にいると危ない……はずだが
5階層では美香を助けるような動きをしていたし、私は咲に敵意があるようには見えなかった。
2人はそのまま順調に進むと、6階層の最奥まで辿り着く。
部屋があった。
その部屋にどうやら美香だけで入るようだ。
咲は部屋の外で待機して、美香が入ったと同時に歩き出した。
……何をする気……?
っこっちに来てる!
私は気づかれたかと思って距離を取った。
だが……足音は私より離れた位置で止まっていた。
そして……
……そこからの光景は言葉にしたくない。
言ってしまえば頭から離れなくなってしまいそうだった。
咲は手を血だらけにしながら、咲を殺していた。
咲は変身すれば簡単に殺せるはずなのに……
わざわざ殴打を選んだ。
……私には咲の行動が全く理解できず、ただただ美香のことが心配になった。
そんな咲の元に、暗い表情をした美香が近づいてきた。
美香は咲を殺す咲を見て、何かを話した。
そして……
自分のお腹を引き裂いた。
……大量の血を滝のように咲にかけた。
咲は血まみれになっていて、そして手に血を貯めると……
飲んだ……
……気味が悪いわ……
2人は何をしているの……?
そう思っていたが……
よく見れば咲の傷だらけになっていた手が治っていく……
美香の魔法は人に血を飲ませることで治癒する魔法なのか?
しかし、血を飲ませるためにいつもこんなことをしていたら……美香はそれではいつか死んでしまう……
そう思ったが、美香のお腹は次第に治っていく。
なるほど。美香は人に分けられる自己治癒能力の持ち主だったのかと私は理解した。
なら、咲のためだったのかとも思った。
……美香は私が思うより、悪い人じゃないのかもしれないわ……
美香の前で美桜のことを誘ってしまったのが、美香の逆鱗に触れただけで、美香は悪い人じゃないのかもしれない。
誤解だったのなら……
申し訳ない。
だって今もここまで小百合を助けに来てくれている。
私達が失敗したような道のりを、実質一人で歩くなんて……
……美香は頼りになる存在なのかもしれない。
私は認識を改ながら、また2人に着いて行った。




