第29話 「葛藤」
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ツバメが大学に来なくなったその日の夜、私は自宅のソファで頭を抱えていた。
……私は知らない!
私は関係無い!
私は小百合さんなんて知らない!
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン
私に行く必要は無い!
私は見捨ててなんてない!
私は会えなくなるのが嫌だった!
その気持ちは……
普通のもの……
だから!私は悪くない!!
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン
そう思っても……胸騒ぎと罪悪感が消えてくれない。
「あーーーー!!もう!!どうすれば良かったの……!?だって……だって!私は……!」
「お姉ちゃん!?どうかしたんですか!?」
あ、つい声に出た。
もう……
私はおかしくなってからこんなのばっかだ……
ほんとダメだ……
ダメな人間だ……
「……何でもない」
美桜には言えない……
言ってなにかに巻き込むのは嫌だ
「何でも無い人はそんなこと言いませんよ……」
美桜はゆっくりと私の隣に座った。
「……私には話せないことなんですか?」
「ごめんね……話せないや……」
美桜は悲しそうな顔で私を見ていた。
でも……それでも……
話す訳にはいかない……
話すことは私が楽になるだけの行為だ。
それは美桜には……
美桜には毒なんだ……
「そう……ですか……じゃあ、私に何かできることはありませんか?い、今なら何でもしてあげますよ?」
美桜は顔を赤らめて言う。
あぁ……なんて甘美な誘いなんだろう……
その顔を……!
その顔を苦悶で歪に歪ませたい……!!
何でもなんて、言っちゃダメだよ……
私みたいな悪い人は堪えられなくなっちゃう……
でも、ダメだ。
私は美桜を大切にすると決めている。
ここは1つのラインだ。
超えてはならない。
美桜を大切にすることこそが、私が私を保てている理由だ。そうじゃなければ、またおかしな自分が帰ってきてしまう。治ってないんだ。私はおかしな自分を抑えているだけで、いつも、人をいじめることを考えてしまう。
「いい。私は美桜が普通に過ごしてくれてたら、それでいいから……」
いいんだ……
良いはずなんだ……
ツバメがどうなってもきっと……
きっと……
………………………………………………
……………………………………………………
良くないよ……!!
ツバメに何かあったら嫌だよ……!!
でももう遅い!!
ツバメは大学に来なくなった!
絶対何かあったんだ!
もう間に合わないんだ!
……でも
……でも、ツバメがまだ無事で、私の助けを待っているなら……
「……私はどうしたらいいの……!!」
私は落ちてくる涙を抑えられず、泣いてしまう。
そんな私に美桜は「せめてこれだけでも」と言って背中をさすってくれた……
私は一頻り泣いたあと、これ以上は美桜に甘えてしまいそうだったので、すぐに寝室で寝た。
しかし、
私を心配そうに見ている、もう1つの視線には気づかなかった。
「美香……」
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あたし達は闘志で溢れていた。
だから失敗なんて頭になかった。
だから、こんな酷い結果をもたらすなんて、思いもしなかった。
……こんなことになるなら、小百合を助けようなんてしなければよかった……
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「こっちよ。こっちは今警備が手薄……っ!皆静かに……」
あたし達は凪の手筈どおりに管理局に潜入し、どんどん奥へとスムーズに進めていた。
凪は事前に序列八位を殺しているらしく、それによって『魔法少女になれないことによる敗北』は防げるらしい。
現在地下3階。
小百合がいるのは地下8階だと言う。
しかし、ここに来て問題が起きた。
警備の数が多すぎるのだ。それは1人や2人増えてるだけならなんとかなるが……
通路の直線1つずつに1人ずつ人が立っていた。
……だから私たちは地下3階にあった倉庫に隠れることしか出来なかった。
そして、その地下倉庫で時間はどんどん経過した。
小百合の状況が分からないことへの焦燥感、そして……
「ワハハハハハハ!!ほれお主、そこら辺撃ってみい?」
「はい!」
バババババババ!!
「っ!!」
ツバメが悲鳴をあげかけるのを凪が口を塞いで止めた。
……あたしたちのスレスレを弾丸が通った。
私たちは物資を背に死角になっているはずなのに……
どうしてか先程からあのジジイは倉庫の入口に立って、こうやってあたし達のことが見えているかのように煽ってくる。
そう。焦燥感と、ジジイへの恐怖が、同時に来たあたし達は……とっくに限界だった。
……最初に耐えられなかったのはツバメだった。
頭を抱えて、何かをブツブツ言い始めた時に、何かをしてあげるべきだった。
そのまま頭を抱えたツバメはじじいに向かってよれよれと歩き出し、変身しないまま次第に加速してジジイに掴みかかろうとするが……
警備に捕まって、
警備に何かされた様子もなく、事切れた。
「……ばかっ」
凪が小さく吐き捨てる。
私も正直同じ気持ちだ。
だって、1人が出てきたら、他にも居るとバレるだろう。
でも……
あたしも……
あたしもジリジリと落ち着かなくなってきた……
もうバレている。
なら、ならもう行くしかないんじゃないか?
あたしは凪の顔を見たが、凪は顔が真っ青で、あたしを見ない。
私は気づいた。
もう作戦は失敗していることに。
……凪はまだ若い。ここで死ぬべきじゃない。
あたしが代わるべきだ。
あたしが小百合を撃ったんだ。
だったら、1人救うぐらいじゃないと、ダメな気がする。
「……変身」
「な、なにして!?」
光が私に集まってきて、武装がゆっくりと私に装着されていく。
「……凪、逃げて。小百合は助けられないわ。凪だけでも逃げて。」
「そんなこと出来るわけないでしょう……!?」
「出来なくてもするのよ」
あたしは武装を担いで、
バッと飛び出る!
そのままレーザー砲台を構えて……!
「ワハハハハ!!……ん?……おい、お主、その攻撃が効くと思っとるんか?ワハハハハ!!やって見るが良い!!ワシを殺してみろ!!ほれ!!」
じじいは腕を広げた。
……受けるつもりみたいだ。
「あたしと小百合によくも色々やってくれたわね!?ここで殺してあげる!!」
なんて大声を出す。
でも私の狙いはじじいじゃない。
レーザー砲台を発車直前で真上に向ける。
「逃げなさい!凪!」
ビューーーン!!
放たれた太いレーザーが天井に激突し……
バゴーン!!
あたしとジジイの上にある天井が崩れ……
「お主っ!やりおったな!ワシはこれでは死なん!死なんぞ!覚えておくが良い!タダでは済まさん!絶対!絶対——」
ガラガラガラガシャーン!!
……地上までの吹き抜けができる。
私は砂煙で見えなくなった視界をレーザーを撃って晴らす。
…………居ない……
これで死ぬなんて、思ってなかった。
それでも……
それでも少しは期待していた。
「少しは期待してたのよ……?あなたを助けられるって……小百合……」
小百合は何も答えない。
ただ、
小百合の持っていたレイピアが私の心臓を真っ直ぐ貫き……
プス
……レイピアから水が吹き出す。水は私の心臓にまとわりついて、ゾワゾワとした悪寒とともに心臓を壊していく。
「ぐふっ!!……小百合、あなたのことは……!きっと!きっと凪が助けてくれる……だから……!それまで……それまでの辛抱だわ……!」
死んだ。
……あたしの人生はそこで終わった。
後には何もない。
ここまでがあたしの人生……
だったら良かったのになぁ……




