第28話 「行けない」
「ここら辺にいたはずなんだけど……」
あたしは美香を案内して、先程まで小百合がいた位置まで来る。
しかし、あたしのゴーグルのレーダー機能には、小百合も小百合と話してた女性も見当たらない。
……ん?
いや、
何か残ってる。
あたしの弾丸……?
あたしは弾丸に近づく。
……しかし、ゴーグルには黄色い警告文が4つ出て、エラーを吐く。
流石にあたしも直接触る真似はせず、近くで観察する。
「いないですねぇー……もうちょっと探そうかなぁ……さっきの強い圧みたいなのが気になるしね。咲さんごめんなさい!私——」
美香が近づいてきて、銃弾を見て眉を潜める。
「なんで銃弾なんて……!もしかしてツバメに何か……!」
「落ち着いて。これはあたしが……あたしが小百合に撃ったものよ。あなたの知り合いに撃ったものじゃないわ」
「さ、小百合さん!?……確かツバメが言っていた元序列一位……」
「……元?小百合は今は序列一位じゃないの?」
「え、はい。ツバメが言うには2年前に引退したとか……」
……引退……
あたしが知る限りだと、小百合は怪獣を討伐したあと……そのまま行方知れずになった。
でも2年……
あたしの最後の記憶では小百合は1ヶ月行方知れずになっているところだった。
……1年と11ヶ月。
その期間ずっと……
ずっと操られていたのね……
小百合が居なくなってから管理局内の動きは怪しくなった。
小百合が居なくなると同時に、『聖女』が管理局の肩を持つような発言を続けて、気が付けば『聖女』は管理局陣営に加わっていた。
あれは操られていると、みんなが思っていた。
あたしもそうなったんだろう……
「あたしが撃った理由は……操られていたからよ」
全てを言う必要は無い。
美香にまで被害が及ぶ可能性もある。
「操る……じゃあツバメには関与してないんですよね?」
「ええ。あたしには記憶が無いから予想、だけど」
美香は少し考え込む。
「ならツバメはどこに行ったんでしょう……?」
「あたしが少し探してみるわ。」
レーダー機能の範囲を広げる。
こういうことをすると魔力を多く消費してしまうが……
小百合の手がかりになる存在を逃がすよりはマシだ。
「うーん……あっ居た。」
「えっ本当ですか!?どこですか!?」
「そこの木の裏」
美香が私の指した方向に歩いていって、木の裏をのぞき込む。
「……ツバメ〜……」
その反応が気になって、私も見に行く。
……気絶してる……っ!?
何か外的要因が!?
あたしは急いでレーダーの精度を上げる。
『極度の興奮により気絶』
あっなんだ。
特に怪我とかじゃないのね。
「ツバメ!ツバメ!」
美香がツバメの肩を揺する。
「うーん……うち……はっ!小百合さん!!」
「はぁ〜……そんなことだろうと思ったよ……」
「だって小百合さんだよ!?小百合さんは——」
そこからのツバメの話は大抵聞き流した。
……知っている話であるのと同時に、聞いてられないぐらい長く話したからだ。
あたしはツバメがそれを話してる間に機体を脱いだ。
要は変身解除……だ。
あたしの場合変身は変身中ずっと魔力を使ってしまう。
適度に温存していかないと。
しばらく経って、ツバメが話し終えたあと、私たちは互いに自己紹介をした。
「——銃弾が当たった瞬間さ、小百合さんの様子が変わって、それであっちに飛んでっちゃったんす」
ツバメが先程までと態度が随分と違うが、冷静に指を指す。
その方向を見ると……
「管理局……!」
管理局本部がある方だった。
あたしを操ったのと同じ方法で操られているのか……
それとも小百合が自分の意思で管理局に赴いたのか……
どちらにせよ、小百合が心配だ。
「あたしは管理局に向かうわ!」
……あたし一人じゃ……『聖女』にもジジイにも勝てないけど……それでも……!
それでも小百合の助けになりたい……!
「その話、待ってもらってもいいかしら?」
あたしと美香とツバメの3人の中心に、1人の女性が降りてくる。いや、女の子かな。身長が高くて髪が長くてスタイルが良いからつい、大人かと思ったが、制服を着ていた。
……どこか小百合と似ている。機体に乗っていないから魔力は測れないが……感じる圧は序列一桁代のそれだ。
「凪ちゃん!?久しぶり、だね……」
……どうやら美香とは知り合いみたいだ。
「美香さん久しぶり。それより、管理局に無策に突っ込むのはやめて貰えないかしら?」
凪は私を真っ直ぐ見ていた。
「どうして?あたしは小百合を助けたいの。」
凪はその目線を私からずらすこと無く、ハッキリと……
「あなたが弱いからよ」
そう言った。
「弱いっ!?あたしが!?」
「えぇ。あなた一人では小百合を助けるなんて無理だわ。変に突っ込んで管理局に警戒されたら私が困るじゃない。」
確かに……
確かにあたしじゃ管理局に突っ込むのはむちゃな気がするけど……
それでも譲れない……!
凪は私が話し出す前にまた続けて話し出す。
「私が小百合を助けるプランを練るのを待ってて貰えないかしら?今の私は管理局に信用されているし、小百合がどこにいるか探ることだってできる。それにそもそも正面からなんて無理よ。見つからないように行くしかない。そういう所も含めて私がプランを練る。だから待っててちょうだい。」
「あなたも……あなたも小百合を助けたいの?」
「えぇ。……私はそのためにこれまで見捨ててきたんだもの……」
凪は暗い顔で言う。
「分かった。でもあなたが捕まったならすぐに言いなさい。その場合は正面からだろうと押し入るから。」
凪は少し笑った。
「分かったわ。2人はどうする?」
凪は美香とツバメに話しかけた。
美香は悩ましそうな顔で答える。
「えっ……どうするって言われても……私……」
美香とは対称的にツバメは気合いがこもった顔で返した。
「うちは行く。小百合さんを救えるなんてファン冥利につきるしね。」
ファン……
死んでしまうかもしれないのにファンだから来ると。
……小百合はいいファンを持ったわね。
「私は…妹、美桜のことが1番なんだ……だからごめん。私は行かない。管理局を敵に回すような行為を他人を助けるためには行えない。」
美香の言うことも一理ある。
というか普通そうだろう。
残してきた者がいるなら、そっちを優先するということに全くもってあたしも異論が無い。
凪もそう思ったのか動じた様子はなく、そのまま話し出す。
「じゃあ、連絡先交換しましょ?私が連絡したらすぐに行動してちょうだい。タイミングが合わなくなるかもしれないから。」
「分かったわ。」
「うん」
あたしとツバメは気合いを込めて頷く。
「あんまりここに居て、なにか疑われても嫌だし、私はもう行くわ。」
「あたしも……しばらく身を隠すわね」
「え、うちは……普通に帰ろうかな」
この時……美香は何も言わず、頭を抱えて、何かに蝕まれているかのように苦しんでいた。
あたしたちは美香以外の互いの顔しか見ていなくて、それには気付けなかった。
そして、ここでお開きとなった。
決戦の日は近い。
小百合が救われる日も……また……近いはずだ
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「私も行った方が……いや!……私には美桜と能愛が居る……2人がいれば私は他には……でもここで小百合さんを助けに行かなければ見捨てたことになる?っ!それじゃ理子ちゃんの時と一緒!……でも私……」
……私は美桜と能愛が大切
私にはまだ周りに手を伸ばせるほど余裕が無い。
でも……
そんな風にして見捨てた理子ちゃんのことが頭をよぎる。
それに……ここで見捨てるのは、おかしくなってた時の私と一緒じゃないか……?
もしかして、また私は命の価値を比べたの……?
小百合さん1人と、美桜能愛の2人で……
ダメだ……
前みたいになっちゃダメだ!
でも……
他人を助けることが……
それが何に繋がるんだろう……
美桜だって他人のために命かけたら喜んでくれないし、能愛だって心配するだろう……
ツバメのことは凄く心配だけど……
私は……
ごめん……
私は行かないよ
ううん。
行けない。
美桜と能愛に会えなくなると思うと、行けない……
怖いんだ……
ただ、怖い……
命は惜しくない。
会えなくなるのが、嫌なんだ……
抱えてるものが大きくなっちゃったんだ……
ごめんね……
やっぱり私はもう、他の人の事なんかどうでもいいんだ……
ごめん……
ごめん……
……そう思って家に帰った私は日常を過ごす。
咲さんやツバメ、凪ちゃんが小百合さんを助けに行くと決めてから、2週間後、決行の日だと教えてくれた日の翌日から、
ツバメは大学に来なくなった。




