第2章 幕間3 「治癒」
私の姿は今、自宅にあった。
能愛を連れ回すようになってから2ヶ月が経った、秋の季節。
そして、今日は……
「能愛が魔法を完成させた日だもんね?まさか出来てない、なんて言わせないよ?私を期待させたんだからさ、できてるんだよね?」
「うん。美香も、満足すると思う」
「そっかぁ〜!良くやったね」
私は能愛の頭を撫でる
「うん……だから、またギュってして?」
「うんうん!いいよ〜ほら、ギュー」
「あっ……!ふふふふ…」
能愛はこうやって懐いてくれるようになった。
そして、私がお仕置をチラつかせると……
「出来てなかったら、どうなると思う?……楽しみだね?」
「美香……あ、あれだけは……」
なんて言いながら、能愛は顔を真っ赤にする。
可愛いんだね〜
この間は胃に直接クジラを入れたのに、あれの何がいいんだろう……
まぁいいか。
「お姉ちゃん……能愛ちゃんばっかりじゃなくて……私も……」
「うんうん。ほら、3人でギュッてしよ?」
私が能愛ばかり構っていたら、美桜も拗ねてしまった。
なにかの積み重ねなのか、この間みたいに少し壊れている。
「「「ギュー」」」
まぁ今が幸せなら昔なんてどうでもいいか。
私たちは離れて互いを見合って、少し笑う。
「……能愛。美桜のこと、お願いね。」
「うん。やってみる。」
「夢みたいです……!治るなんて思ってなかったので……」
「手順は?」
「まずは美桜の頭を叩き割る。」
…………………………………………
「へぇ〜それ美桜、死んじゃうんじゃない?」
「平気。美香の肉を食べさせれば、治る。」
「お姉ちゃんの肉……食べたいような、食べたくないような……」
「で、頭割って?どうすんの?」
「粉々にする」
…………………………
「へぇーそれ美桜、死んじゃうんじゃない?」
「平気。美香の肉を食べさせれば、治る」
「私の肉万能だなぁ……」
「私が食べる前提なのはなんとも言い難いですが……」
「……それで、美桜の怪我の原因を見つけて、そこに『聖女』の魔法をかける。」
「へぇ〜。大変そうだねー」
「大丈夫。私にかかれば絶対できる。」
「頼もしい!」
「じゃ、早速やろっか」
「分かりました……」
美桜はベッドに寝転がる。
……あー、ベッドになんか敷けば良かったなぁ……
絶対血でベチャベチャになるじゃん……
まぁいいか。
美桜の血ならきれいだよ。
きっと。
「美香……私が頭を潰す?」
能愛は私のことを心配してくれてるのかな?
私は美桜の為ならなんだってできる。
そう、美桜を殺すことだって……
「ううん。私がやるよ。」
「そう……分かった」
能愛は一瞬悲しそうな顔をしたが、口答えはしなかった。
「じゃあ、やるね?」
「うん」
「はい……あ、いや、少し待ってください」
美桜はスマホを取り出すと記録する。
「はい、終わりました。お願いします!」
「分かった!」
美桜……これでやっと救われるね
「それ」
私は手を美桜の頭に振り下ろして……
グチャグチャグチャグチャグチャグチャ
頭を叩き割る。
美桜は悲鳴すら上げる間もなく、頭が無くなった。
「ありゃ。能愛、もう全部粉々だからいけるんじゃない?」
「うん。やってみる。」
能愛がかざした手から、眩い光が散乱し、その手を美桜の頭らしき場所において……
「13歳の5月1日……」
年月を唱えると、美桜の頭が再生していく。
いや、正確には、『聖女』の魔法は決めた時間に物事を戻す力らしい。
能愛の話によれば、私の体を治す魔法も少し近いものらしく、治ったように見える度に契約当時の体を再現し続けているらしい。
「おぉ……完全に治ってる……あ、いや、ちょっとだけ顔が幼いかも?」
「14歳の10月から、13歳の5月。戻した時間は、ちょうど成長期の間ぐらい。顔に変化が出るのも当然。そして、変化が出たなら、成功の証」
「お、おぉ……」
……思ったより一瞬だったな……
「美桜?大丈夫?私がわかる?」
美桜がゆっくりと目を開く。
「……ん……?……きゃああああ!!!」
……あれ?
何か失敗したの?
……美桜?
「わた、私は……怪獣に頭を……壊され、て……きょ、今日は何日目……何日目なんですか……?お姉ちゃん!?なんでお姉ちゃんがここに……あ、ここ、お姉ちゃんの部屋?」
………………………………
……………………………………
あ、そっか。
美桜、頭を壊したから、これまでの『記憶は受け継げないけど、感情は受け継いでいる状態』から、『感情ごと記憶もリセットした状態に』戻ったんだ。
あ、あれ?
じゃ、じゃあ、
美桜と過した、あの日々が、なくなっちゃったの……?
……あれ?
「み、美桜、スマホ!スマホ見てみて!?」
「……スマホですか?」
美桜はスマホを見る。
大丈夫。そこには記録がある。記録があれば記憶になる。それなら、それなら美桜でしょ?記憶があるなら、美桜だよね!?
「な、なんですか!?これ!!お姉ちゃんが他の女の人とキスした!?それにお姉ちゃんが魔法少女になっていた!?これ何の話ですか!?どういうことなんですかっ!?」
あ、違う。
これは美桜じゃない。
私と、私と一緒に生きた美桜は、これじゃない。
………………………………
……………………………………
「……美香……もう一度、元に戻す……?」
能愛がそう問いかけてくる。
元に……
美桜がまた記憶を毎日飛ばす生活に……?
そんなの……
そんなのダメでしょ……
それに何も知らない美桜の頭を割らなければいけない……
そんなのダメに決まってる。
……いや、何かを知ってる美桜もダメじゃないか……?
あれ?
私、さっきまで何をしてたの?
あ、あれ?
なんでこんなことに……
あれ?おかしい……
「……能愛、戻さないで……これが美桜……なんだよ……私がおかしくさせちゃっただけで……これが、美桜だったはず……」
能愛は驚いたのか、目を見開くと「そう」とだけ言った。
「美桜……っ!ごめんっ!今までごめん……っ!」
私は美桜に抱きつく。
……みっともないなぁ
急に理解して、急にこんなこと言われても、美桜は何も分からないでしょ?
私、何やってたんだろう……
「お、お姉ちゃん!?わ、私が質問してた……のに……どうして……」
美桜はそれ以上何も言わず、私を優しく抱きしめてくれる。
すると、能愛が自分から口を開いた。
「美桜、あなたはもう記憶を無くさない。毎日記憶を維持できる。普通に生きていける。美香がそうなるように頑張った。……美香を認めてあげて」
「私の記憶が!?お姉ちゃん……っ!ありがとう……っ!お姉ちゃん……っ!私っ!怖かった!記憶を無くしたらお姉ちゃんに捨てられるって……っ!これから生きていけるのかなって……っ!ありがとうっ!ありがとうっ!」
「ううん!私も……っ!これまでお姉ちゃんらしくなくて、ごめんっ!美桜に言ってもわかんないかもしれないけど言わせてっ!ごめんっ!今日からは、今日からは頑張るからっ!お姉ちゃんっ今日から普通に生きるからっ!」
……私と美桜は抱き合って泣いた。
……なんだかだいぶ前もこんなことをした気がする。
……いや、ううん。これが私と美桜なんだ。
だって、嬉しいって思ったの、すっごく久々な気がする。
美桜……
美桜……っ!
治って良かった……っ!
……私たちのことを能愛は、黙って、優しく見つめていた。
能愛も変わった。
だから、
これからは私が変わる番だ
お姉ちゃんらしくあろう。
美桜のことを笑顔にできる、優しいお姉ちゃんになろう。
今日までの私じゃ、美桜は喜ばない。
……そのためにはお前の力も借りるかもしれないけど……
……いいの?
……ありがとう
……私って周りの人に恵まれてるね
……えっ?人じゃないって?
……ごめんごめん。
……今度名前付けてあげるね
……うん。嬉しいんだ?
……そっか、良かったよ
……これからもよろしくね
2章 魔法少女の研究員編、完




