第3話 「少しの違和感」
昨日は理子ちゃんと美桜の喧嘩を見て、詳細が気になったが、軽々しく踏み込んでいい内容な気がしなくて、帰ってきた美桜には聞けなかった。
今日、私は大学で授業があったのが、昨日のことで頭がいっぱいで、話が入ってこない中、授業を受けていた。
そんな授業中、
いつも隣に座っている、友達の烏谷ツバメ。
私の左に座るツバメ。
それだけだったらいつも通りだが。
今日は私の右に例の不審者が座っていた。
いつも通り、顔はモヤがかかっていて見えない。その上スーツ姿の彼が大学の教室で座っているのは違和感が凄かった。
そんな彼が隣にいて誰も騒がない。
だから不思議なのだが。
「美香」
男のことを見ていたら急にツバメに話しかけられた。
「ん?」
「授業聞いてないっしょ?」
ツバメは頬杖を着き、呆れた目で私のことを見ていた。
ツバメはピンクの紙をツインテールにして、耳元と口元に数えられないぐらいのピアスがついていて、服装が赤と黒のゴスロリとパンクを合わせたようなものを着ているのが特徴的な子だ。
「うーん。なんか身が入らなくてねぇ〜」
「珍しーね。好きな人でもできたん?」
「うーん好きな人というか、気になる人ならいるんだけどなぁ……」
ツバメの話題に乗るために思わせぶりなことを言ってみる。
私の頭の中では不審者が思い浮かんでいた。
モヤがかかってて、度々私の前に現れる彼が気にならないわけがない。
不審者を見ると、不審者はなぜか興味深そうにノートを取りながら授業を受けていた。
……この不審者は何をしているのだろうか?
「マジ?ついに美香にもそういう時期が来たんだね。」
ツバメは前かがみだった姿勢から背もたれに体を預ける姿勢になって、私のことをおもちゃを見つけたような顔で見ていた。
「人って成長するものだからねぇ〜」
私は適当に返す。
「相手は誰なん?うちが知ってる相手?」
知ってる……知ってる……か
彼女の視界には私の奥にいる彼が写っていることだと思うが、そういう意味では知っていると言えるのか?
「部分的にそうかな」
「ふぅん……それどういう意味?」
「今ツバメの視界に写ってる相手だってことだよ」
私は揶揄うつもりで適当にそう言った。つもりだった。
「え、まさか……」
ツバメは驚いた顔をした。
え、まさか見えていたのか?私以外に見えないと思っていた彼が見えていたのか?それなら多大な誤解もいいところだ。
すぐに否定しようと口を開いたが、ツバメが喋る方が早かった。
「まだ子供じゃん!」
ツバメはよく分からないことを言った。
……子供?不審者はパッと見180cmはありそうだ。それを間違っても子供などとは言わないだろう。そう思って辺りを見回したが、この授業は履修者数の割に教室が広いので、周りには誰もいなかった。
となると、男のことを言っている可能性が高くなるが……
そう思いながらツバメと一緒に男を見てみると、男もさすがに気がついたのか、こちらに向けて喋った。
「そんなに見られると緊張してしまう。」
声もやっぱり大人の声に聞こえる。
「ツバメ、この人のことを言ってるの?」
正直に聞いてみることにした。
「え、うん。美香が言ってたのはその子じゃないん?」
「合ってる……けど…………子供?」
不審者は節目でこちらを見てきている。まるで照れてるかのように振舞っているが、顔が見えないので実際のところは分からない。
「私のなんの話をしてたんだい?」
「えっと、ツバメが、あなたのこと子供に見えるって……」
「それは見ての通りだよ。」
....見ての通りって何を見たらいいんだ?
「大人……ですよね?」
「想像におまかせするよ」
私は男が答える気がないことを理解すると、ツバメに向き直った。
「ツバメ、一応言っとくと、人として気になるだけで、本当になんとも思ってないから。要らないこと言わないでね」
男はほかの人から見えていないとばかり思っていたので、ツバメを揶揄うように言ってみたが、まさか見えていたとは。要らぬ誤解を与えただけだった。
「いや、そんな子供を好きになってた方が怖いし、もう何も言わんよ」
ツバメからの疑いは解けていないみたいだった。
不審者の様子を一応うかがってみると男はまた授業のノートを一生懸命取っていた。
この不審者何がしたいんだろう。
結局、不審者はこの授業が終わる時まで真面目にノートを取っていた。
何がしたいのか分からない。
それに私を魔法少女に誘いに来たんだと思ったのだが、その目的を忘れていたのか、授業が終わると同時に「じゃあここら辺で失礼するよ」と言って顔のモヤに吸い込まれて消えていった。
急に消えた不審者に対して、ツバメになにか反応はあるか?と思ってツバメを見たが、「じゃ、食堂行こ」と言うだけで気にした様子はなかった。
不審者は日に日に場所を選ばなくなっている。
最初は私一人で留守番してる時の家の中、次は大学からの帰り道と、どんどん会う場所が人目に付く場所になっていっている。
少し怖いような気もするが、不審者の少し抜けた行動が微笑ましかったり、私の怖いもの見たさもあったりで、まだ不審者に対して何かをしたことはない。
しかし、考えてみれば不審者は美桜が魔法少女だと知っていたように思える。
私のことを魔法少女に誘っていたことから考えても、魔法少女の関係者なのは間違いない。
ただ、不審者の言う、「才能」。それに対しては少し違和感がある。演技ができる訳ではなく、頭がいい訳でもなく、特段容姿が優れている訳でもない私に「才能」を感じる。
考えてみれば変だ。
そんなことを考えていたら、一日があっという間にすぎていて、今日が早く終わる感覚に苛まれながら、家に帰った。




